日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

日本放射線影響学会
利益相反 (COI) マネジメントに関する指針

序文

日本放射線影響学会(以下本学会と略す)は、放射線の人体、環境への影響とその機構の解明、ならびに利用への貢献を目指した学際的かつ国際的な放射線科学研究の推進をはかり、これを通じて広く人類の繁栄に寄与することを目的としている。
科学技術の発展に伴い、研究成果の社会への還元が強く求められると同時に、産学連携活動の機会が増加している。研究者には公的な利益のための社会的な責務が課せられているが、いっぽうで産学連携活動においては、そこで発生する個人的利益と社会的責務との間に衝突・相反する状態が必然的・不可避的に発生しうる。こうした状態が「利益相反 (conflict of interest : COI)」と呼ばれるものであり、この利益相反状態を学術機関・団体が組織として適切に管理(マネジメント)していくことが、産学連携活動を適切に推進するうえで乗り越えていかなければならない重要な課題となっている。本学会においても、研究の公正・公平さの維持、学会発表での透明性、かつ社会的信頼性を保持しつつ産学連携による研究の適正な推進を図るために、利益相反マネジメントに関する適切な対応が求められている。 本指針は、本学会と会員が本学会事業での発表などで利益相反状態にある企業・法人組織との経済的な関係を一定要件のもとに開示させることにより、会員などの利益相反状態を適正にマネジメントし、社会に対する説明責任を果たすために本学会の利益相反指針を策定したものである。本指針では、会員などに対して利益相反についての基本的な考えを示しており、この指針により、学会および会員の利益相反状態が適切に管理され、公正かつ有益な産学連携活動が推進されれば幸いである。

Ⅰ.対象者

利益相反状態が生じる可能性がある以下の対象者に対し、本指針が適用される。
(1)本学会会員
(2)本学会の学術大会などで発表する者(非会員も含む)
(3)本学会の役員(理事長、理事、監事)、学術大会担当責任者(大会長など)、各委員会の委員長
(4)(1)~(3)の対象者の配偶者、一親等の親族、または収入・財産を共有する者

Ⅱ.対象となる事業活動

本学会が行うすべての事業活動に対して本指針を適用する。
(1)放射線科学に関する研究、調査および教育の実施
(2)学術大会、学術講演会等の開催
(3)学会誌その他の刊行物の発行
(4)研究の奨励および研究業績の表彰
(5)会員及び国内外の関連学会又は団体との連携を通した国際的な研究協力と交流の推進
(6)その他本学会の目的を達成するために必要な事業

Ⅲ.申告すべき事項

対象者は、個人における以下の(1)~(9)の事項で、別に細則で定める基準を超える場合には、 その正確な状況を所定の様式に従い、自己申告によって本学会理事長に申告するものとする。なお、申告された内容の具体的な開示、公開の方法については別に細則に定める。
(1)企業・営利を目的とする法人や団体の役員、顧問職、社員などへの就任
(2)企業の株の保有
(3)企業・営利を目的とする法人や団体からの特許権などの使用料
(4)企業・営利を目的とする法人や団体から、会議の出席(発表)に対し、研究者を拘束した時間・労力に対して支払われた日当(講演料など)
(5)企業・営利を目的とする法人や団体が発行するパンフレットなどの執筆に対して支払った原稿料
(6)企業・営利を目的とする法人や団体が提供する研究費(治験、共同研究、受託研究など)
(7)企業・営利を目的とする法人や団体が提供する奨学(奨励)寄附金(研究助成金、寄付金など)
(8)企業・営利を目的とする法人や団体がスポンサーとなる寄付講座
(9)その他、上記以外の旅費(学会参加など)や贈答品などの受領

Ⅳ.利益相反状態との関係で回避すべき事項

1.対象者の全てが回避すべきこと
研究結果の公表やガイドラインの策定などは、純粋に科学的な根拠と判断、あるいは公共の利益に基づいて行われるべきである。本学会の会員は、研究の結果とその解釈といった公表内容や、研究での科学的な根拠に基づくガイドライン・マニュアルなどの作成について、その研究の資金提供者・ 企業の恣意的な意図に影響されてはならず、また影響を避けられないような契約を資金提供者などと締結してはならない。

2.研究責任者が回避すべきこと
研究責任者には、次の項目に関して重大な利益相反状態にない(依頼者との関係が少ない)と社会的に評価される研究者が選出されるべきであり、また選出後もその状態を維持すべきである。
(1)研究を依頼する企業の株の保有
(2)研究の結果から得られる製品・技術の特許料・特許権などの獲得
(3)研究を依頼する企業や営利を目的とした法人や団体の役員、理事、顧問など(無償の科学的な顧問は除く)
但し、(1)~(3)に該当する研究者であっても、当該研究を計画・実行するうえで必要不可欠の人材であり、かつ当該研究が社会的に極めて重要な意義をもつような場合には、適正なマネジメントを受け、その判断と 措置の公正性、公平性および透明性が明確に担保されるかぎり、当該研究の研究責任者に就任することができる。

Ⅴ.実施方法

1.会員の責務
会員は、研究成果を本学会学術大会などで発表する場合、本学会の細則にしたがい、所定の書式で当該研究実施に関わる利益相反状態を適切に開示する義務を負うものとする。研究などの発表との関係で、本指針に反するとの指摘がなされた場合には、理事会は利益相反を管轄する倫理委員会に審議を求め、その答申に基づき、妥当な措置方法を講ずる。

2.役員などの責務
本学会の役員(理事)、学術大会担当責任者(大会長など)は、本学会に関わるすべての事業活動に対して重要な役割と責務を担っており、当該事業に関わる利益相反状態については、就任した時点で所定の書式にしたがい自己申告を行なうものとする。また、就任後、新たに申告すべき利益相反状態が発生した場合には規定にしたがい、修正申告を行うものとする。

3.理事長の役割
理事長は、役員などが本学会の事業を遂行する上で社会的な信頼性を損なうような重大な利益相反状態が生じた場合や、学術集会や本学会学会誌や刊行物への発表者による利益相反開示が不適切な場合、倫理委員会や関連委員会に諮問し、それらの答申に基づいて理事会に諮り、改善措置などを指示することができる。会員が本学会の刊行物以外の雑誌への利益相反開示に関する疑義・疑問 がある場合、速やかに対処するとともに信頼性の確保に努めなければならない。

4.理事会の役割
理事会は、役員などが本学会の事業を遂行するうえで、重大な利益相反状態が生じた場合、あるいは利益相反の自己申告が不適切であると認めた場合、倫理委員会に諮問し、答申に基づいて改善措置などを指示することができる。

5.学術講演会担当責任者の役割
学術大会の担当責任者(大会長、実行委員長およびプログラム委員長・委員など)は、学会で研究の成果が発表される場合には、その実施が本指針に沿ったものであることを検証し、本指針に反する演題については発表を差し止めるなどの措置を講ずることができる。この場合には、速やかに発表予定者に理由を付してその旨を通知する。なお、これらの措置の際には、発表の事前事後を含め、上記担当責任者は倫理委員会に諮問し、その答申に基づいて改善措置などを指示することができる。

6.倫理委員会の役割
倫理委員会は、本学会の役員(理事長、理事、監事)、学術大会担当責任者(大会長など)、各委員会の委員長の利益相反に関する事項の確認を行う。また、倫理委員会は、本学会が行うすべての事業において、重大な利益相反状態が会員に生じた場合、あるいは、利益相反の自己申告が不適切で疑義があると指摘された場合、当該会員の利益相反状態をマネジメントするためにヒアリングなどの調査を行い、その結果を理事長に答申する。

7.編集委員会の役割
編集委員会は、研究成果が本学会刊行物などで発表される場合に、その実施が本指針に沿ったものであることを検証し、本指針に反する場合には掲載を差し止めることができる。この場合、速やかに当該論文投稿者に理由を付してその旨を通知する。当該論文の掲載後に本指針に反していたことが明らかになった場合は、当該刊行物などに編集委員長名でその由を公知することができる。なお、これらの対処については倫理委員会で審議の上、答申に基づいて理事会承認を得て実施する。

8.その他
各委員会委員長・委員は、それぞれが関与する学会事業に関して、その実施が本指針に沿ったものであることを検証し、本指針に反する事態が生じた場合には、速やかに事態の改善策を検討する。なお、これらの対処については倫理委員会に諮問し、答申に基づいて委員長は改善措置などを指示することができる。

Ⅵ. 指針違反者への措置と説明責任

1.指針違反者への措置
利益相反開示内容に疑義もしくは社会的・道義的問題が発生した場合、倫理委員会は対象者に対して事実確認を行い、十分な調査、ヒアリングなどを行った上で、対象者に利益相反状態の修正及び修正点の説明を求める。対象者が指摘された深刻な利益相反状態の修正開示および説明責任を果たせない場合、倫理委員会は経緯を本学会理事長に報告する。本学会理事長は倫理委員会の報告をもとに本学会理事会で審議を行う。
審議の結果、重大な遵守不履行に該当すると判断した場合には、その遵守不履行の程度に応じて一定期間、次の措置を取ることができる。
(1)本学会が開催するすべての集会での発表の禁止
(2)本学会の刊行物への論文等の掲載の禁止ならびに撤回
(3)本学会の学術大会の大会長就任の禁止
(4)理事会、委員会への参加の禁止
(5)理事・監事・学術評議員・各委員会委員の除名、あるいは理事・監事・学術評議員・各委員会委員になることの禁止
(6)会員の除名、あるいは会員になることの禁止

2.不服の申立
被措置者は、本学会に対し、不服申立をすることができる。本学会がこれを受理したときは、倫理委員会において誠実に再審理を行い、理事会の協議を経て、その結果を被措置者に通知する。

3.説明責任
本学会は、自ら関与する場にて発表された研究に、本指針の遵守に重大な違反があると判断した場合、倫理委員会および理事会の協議を経て、社会への説明責任を果たす。

Ⅶ.細則の制定

本学会は、本指針を運用するために必要な細則を制定することができる。

Ⅷ.指針の改正

本指針は、社会的要因や産学連携に関する法令の改正、整備ならびに研究をめぐる諸条件に適合させるためには、定期的に見直しを行い、改正することができる。

Ⅸ.施行日

1.本指針は2021年6月12日より施行する。