Hsp70は膵癌における癌増殖を促進し,アポトーシスを抑制する
論文標題 | Heat shock protein 70 increases tumorigenicity and inhibits apoptosis in pancreatic adenocarcinoma |
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著者 | Aghdassi A, Phillips P, Dudeja V, Dhaulakhandi D, Sharif R, Dawra R, Lerch MM, Saluja A. |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Cancer Res. 67, 616-625, 2007. |
キーワード | ストレス , ケルセチン , シャペロン , アポトーシス , 癌 |
Hspはもともと熱刺激に応答する分子として発見されたが,その後,様々なストレス(低酸素,虚血,ウイルス感染などによっても生成されることがわかってきた.HspにはSubgroupが多く見出されているが,その中でもっとも研究が進んでいるのがHsp70である.これは66-78 kDaのisoformを含み,少なくとも11以上の別の遺伝子からなる.Hsp70 familyの中でも代表的なのはHsp73とHsp72である.Hsp73 (別名:Hsc70) は細胞内に構成的に存在するもので,ほとんどの主要器官に存在し,蛋白質の合成や折れたたみに関与する(シャペロン機能).一方,Hsp72はストレスに応答して産生される誘導型Hsp70の一つで,細胞質,核,細胞膜などに分布している.後者のHsp72は癌細胞に発現していることが見出され,また,Hsp72はアポトーシスカスケードのいくつかの点に作用しこれを抑制することも明らかとなり,これを基に癌のアポトーシス抵抗性に関与するといわれてきている.
またケルセチン(Quercetin)は別名ビタミンPといわれる天然フラボノイドの一つであり,古くは抗酸化作用や抗癌作用に注目されていたが,その後Hsp72 mRNA発現抑制作用が報告された物質である.ケルセチンがin vivoにおいて腫瘍縮小効果を示すことは知られていたが,本論文は膵癌細胞株に対する縮小効果がHsp72(論文中ではHsp70と表記されており、以下はこの表記に従う)の抑制効果によるものであることを示している.
Hsp70発現は正常膵管細胞に比べ,検討した膵癌細胞株4種(Capan-2, BxPC-3, Panc1, MiaPaCa-2)すべてにおいて亢進していた.このことはヒトの膵癌切除検体においても同様であった.ケルセチンによるHsp70の抑制により,癌細胞株(Panc1, MiaPaCa-2)はviabilityの低下,アポトーシスの増加をきたしたが,正常の膵管細胞は影響を受けなかった.Hsp70のsiRNAを用いた特異的ノックダウンにより,viabilityの低下,アポトーシスの増加が認められ,これがHsp70の単独の効果であることを確認した.また,その際カスパーゼ3,カスパーゼ9の活性化も示された.ヌードマウスを用いた異種移植モデル(MiaPaCa-2)での検討では,18日間連日の50 mg/kgのケルセチン投与により,腫瘍の縮小効果ならびに摘出腫瘍のHsp70発現抑制効果が認められた.
以上より,Hsp70はアポトーシスにおいて重要な役割を担っており,また選択的なHsp70のノックダウンは膵癌細胞のアポトーシス誘導に有用である.また,ケルセチンは他の抗癌剤のアポトーシス誘導能をさらに増強する可能性が期待できる.
[キーワードの説明]
Hsp73 (Hsc70):構成的に存在するもの:細胞内のほとんどの主要器官に存在し,蛋白質の合成や折れたたみに関与する(シャペロン機能)
Hsp72:ストレスに応答して産生されるも誘導型Hsp70のひとつ:細胞質,核,細胞膜などに分布
ケルセチン(Quercetin):別名ビタミンPともいわれる天然フラボノイドの一種で、主として柑橘系の植物、タマネギやソバをはじめ多くの植物に存在する。従来、ケルセチンのもつ抗酸化作用の観点から抗癌剤としての研究がされてきたが、1990年に細川らによって、Hsp72 mRNA 発現抑制作用が報告され、in vitro および in vivo において有用であることが示唆されている。黄色い色素で、古くから染料としても用いられてきた.
ジヒドロケルセチン(Dihydroquercetin): ケルセチンの不活性型類似体。