大腸癌細胞に対するアゴニスト様TRAIL受容体抗体HGS-ETR1、HGS-ETR2と放射線治療の併用療法: in vitroにおけるアポトーシス増強効果および、in vivoにおける線量依存に腫瘍増殖抑制効果
論文標題 | Combined treatment of colorectal tumours with agonistic TRAIL receptor antibodies HGS-ETR1 and HGS-ETR2 and radiotherapy: enhanced effects in vitro and dose-dependent growth delay in vivo |
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著者 | Marini P, Denzinger S, Schiller D, Kauder S, Welz S, Humphreys R, Daniel PT, Jendrossek V, Budach W, Belka C. |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Oncogene 25, 5145-5154, 2006. |
キーワード | TRAIL , 癌標的 , DNA損傷 , アポトーシス , 放射線 |
TRAIL (TNF Related Apoptosis Inducing Lignd)は、有望な分子標的治療剤であり、特に放射線治療やDNA障害性薬剤との併用によりその効果が増強することが示されてきた。TRAIL受容体抗体は、TRAIL受容体を特異的に活性化し、プログラム細胞死を活性化させることが可能であり、TRAILの代わりに用いることができる。この研究の目的は、TRAIL受容体抗体 (HGS-ETR1およびHGS-ETR 2)と放射線治療併用によるアポトーシス増強効果およびその機構を解析することである。
細胞として大腸癌細胞株4種(Colo 205、 HCT 15、 HCT 116 wt (野生型)、HCT116 k/o (Bax ノックアウト))を用いた。無刺激の状態でも、TRAIL 受容体 2 (DR5)は全細胞の表面に発現していたが、TRAIL受容体1 (DR4)は、HCT15の細胞表面にのみ発現していた。HGS-ETR1あるいはHGS-ETR2を単独で大腸癌細胞に作用させると、濃度および時間依存的に、約20-80%のアポトーシスが誘導された。また両者併用により増強する傾向を示した。放射線照射単独によるアポトーシス誘導効果は、Colo205では10 Gy照射後48時間で46%であるが、その他の細胞ではほとんどアポトーシスは誘導されなかった。
併用効果については、HGS-ETR1あるいはHGS-ETR2で刺激を開始すると同時に10 Gy照射すると、アポトーシス増強作用が認められた。また、放射線照射後、時間経過とともにDR4およびDR5の細胞表面への発現が上昇するという以前の報告があり、放射線照射12時間後におけるTRAIL受容体抗体刺激によるアポトーシス誘導効果を調べたところ、10 Gy照射後12時間経過してからTRAIL受容体抗体で刺激するほうが、10 Gy照射と同時にTRAIL受容体抗体で刺激するより、アポトーシスが増強されることが判明した。アポトーシス関連蛋白である、カスペース 8およびPARPの変化をウエスタンブロット解析で調べたところ、これまでに確認したアポトーシスを誘導条件において、カスペース 8およびPARPの切断を確認した。またBaxをノックアウトしたHCT116を用いて、TRAIL受容体抗体と放射線治療を併用したところ、アポトーシス誘導効果はほとんど認められず、DR4およびDR5を経由する細胞死シグナルはBax依存的であることが分かった。
In vivoの研究では、Colo205細胞を用いたヌードマウス皮下移植モデルを使用した。腫瘍体積が100-150mm3になった時点で、TRAIL受容体抗体刺激および放射線治療を開始した。腫瘍体積倍加時間が無処理のマウスでは5.6日で、放射線照射のみでは5.3日であり、放射線照射による腫瘍増殖抑制効果は認められなかった。しかし、HGS-ETR1は単独で27.6日と腫瘍増殖抑制効果を認め、さらに放射線治療併用により71.0日とさらなる増殖抑制効果を認めた。HGS-ETR2においては、単独では115.4日、放射線治療併用しても116.0日と併用による増強効果は認められなかった。
この論文はTRAIL受容体抗体と放射線治療併用によるアポトーシス誘導効果増強効果を示した初の論文である。今回の研究より、TRAIL受容体抗体と放射線治療併用によりin vitroでアポトーシス増強効果を認め、in vivoでは腫瘍増殖抑制効果を確認した。また、併用療法におけるアポトーシスはBax依存的であることも判明した。
[キーワードの説明]
TRAIL (TNF related apoptosis inducing ligand):
アポトーシス誘導能を持つサイトカインの中で、TNF ファミリーと似た配列を持つタンパク質として、1995年に分離された。281アミノ酸からなる約30kDaのⅡ型細胞表面蛋白であり、Fas リガンドと約28%のホモロジーをもつ。様々な悪性腫瘍に対して、アポトーシス誘導能を持つが、正常細胞に対しては、細胞毒性を示さないことが大きな特徴であり、分子標的治療薬として期待されている。受容体として以下の5種類が存在する。
①TRAIL-R1 (Death Recepter 4: DR4)
②TRAIL-R2 (Death Recepter 5: DR5)
③TRAIL-R3 (Decoy Receptor 1: DcR1)
④TRAIL-R4 (Decoy Receptor 2: DcR2)
⑤Osterprotegerin (OPG)
DR4,5は細胞内にデス ドメインを持ちアポトーシス誘導に関与する一方で、DcR1,2はデコイ受容体でありアポトーシスを誘導しない。悪性腫瘍のみにアポトーシス誘導能を持つのはこの受容体の発現の違いが原因とする説もあるが、明快な答えは得られていない。