低線量放射線照射されたマウス皮膚上皮細胞において、転写因子NFkB とMnSODは放射線適応耐性を仲介する。
論文標題 | Nuclear Factor -kB and Manganese Surperoxide Dismutase Mediate Adaptive Radioresistance in Low-Dose Irradiated Mouse Skin Cells |
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著者 | Fan M, Ahmed KM, Coleman MC, Spitz DR, Li JJ. |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Cancer Res. 67, 3220 - 3228, 2007. |
キーワード | 放射線適応応答 , ストレス応答 , 2014/3/3 , NFκB , cyclin B |
放射線適応応答とは、初めに与えられた低線量放射線照射が、後の本来障害を与える照射の影響を軽減する現象である。これまでの研究で、放射線照射によりストレス応答性遺伝子(細胞周期制御関連蛋白質、細胞増殖関連蛋白質、DNA修復関連蛋白質など)が活性化することが確認されているが、トランスフォームしていない上皮細胞における低線量 (<10cGy)の適応応答に関係するシグナル伝達はまだ明らかとなっていない。しかし、これまで研究によりNFkBおよびMnSODが適応応答に関与するとされている1。今回の研究の目的は、マウス正常上皮細胞JB6P+細胞において、低線量照射による放射線適応応答のメカニズムを明らかにすることである。
放射線適応応答のメカニズムを探るため、10cGyの前照射によりNFkBおよびNFkB関連蛋白質(p65、 MnSOD、 pERK,、CyclinB1、 14-3-3ζ)がどの様に変化するかをウエスタンブロット法により調べたところ、10cGy照射後24時間までにNFkBおよびNFkB関連蛋白質は細胞内で増加することが確認された。
次に、14-3-3ζとCyclinB1の細胞内局在の変化を調べた。10cGy照射後4~8時間まで、14-3-3ζとCyclinB1は細胞質で増加したが、その後細胞質からは減少し、核での発現が増加した。2つの蛋白質が複合体を形成するときに蛍光を発するYFP融合遺伝子発現ベクターを用いて、14-3-3ζとCyclinB1の関係を生細胞において調べたところ、14-3-3ζとCyclinB1は複合体を形成すること、および14-3-3ζ/CyclinB1複合体は、低線量照射により細胞質から核へ移行することが判明した。
NFkB 阻害剤であるIMD-0354(Sigma)でJB6P+細胞を処理すると、低線量照射により誘導されるNFkB関連蛋白質である、MnSOD、14-3-3ζ、およびCyclinB1の発現が減少し、放射線適応応答が減弱した。さらに、MnSODのsiRNAによっても、適応応答は低下した。
放射線適応応答において、NFkBおよびMnSODが重要な役割を担っていること、また14-3-3ζおよびCyclinB1が複合体を形成し細胞質から核へ移行することも示された。14-3-3ζ/CyclinB1複合体は何らかのシグナルを伝達している事は予想されるが、その詳細な機構の解明は、今後の研究課題である。
<参考文献>
1. Guo G, Yan-Sanders Y, Lyn-Cook BD. et al. Manganese surperoxide dimustase-mediated gene expression in radiation-induced adaptive responses. Mol Cell Biol 2003; 23: 2362-78.
<語句説明>
【NFkB: Nuclear Factor kappa B】
ストレスにより誘導されるNFkBは抗アポトーシス的に作用し、細胞生存させる方向に働く。このグループが以前に発表した論文1でも、ヒト乳癌細胞MCF-7において放射線照射により誘導されるNFkBは適応応答と関係がある事を示している。
【MnSOD: Manhanese Superoxide Dimutase(マンガンスーパーオキシドジムターゼ)】
SODはスーパーオキシドを消去することによりスーパーオキシドの持つ細胞毒性から生体を防御する。MnSODはミトコンドリアに局在しさまざまな酸化ストレスにより誘導され、細胞保護に働くことが知られている。MnSODが適応応答に関与することより、ミトコンドリアにおけるレドックス環境の変化が適応応答に重要とされている。
【JB6細胞】
マウスの上皮正常細胞(皮膚)で、JB6P+細胞はTPA、EGF、TNFαの刺激により容易に腫瘍化する非常にユニークな変異株である。JB6P-細胞は腫瘍化する性格を持たない。
【14-3-3ζ および CyclinB1】
このグループは以前に行った研究1でNFkBとMnSODの活性化に14-3-3ζ と CyclinB1 が、放射線抵抗性の獲得に密接に関与する事を示している。
14-3-3シャペロン蛋白ファミリーは多様な機能を有し、
①Badのリン酸化部位に結合しアポトーシス促進シグナルをブロックする。
②Rasを活性化し、アポトーシス促進的に作用するRaf-1やKSR-1を阻害する。
等、抗アポトーシス的に作用する。また、これまで14-3-3は細胞質にのみ存在するとされてきたが、現在では核に存在し転写を制御するとされ、さらに、ATP合成制御のためのミトコンドリアへの蛋白輸送の役目も担っているとされる。
CyclinB1は有糸分裂を促進する働きがある。CyclinB1をsiRNAにより阻害すると放射線感受性が上昇するという報告もある。