FANC・タンパクの同定、DNA修復に必要なモノユビキチン化されたFANC2パラログ
論文標題 | Identification of the FANCI Protein, a Monoubiquitinated FANCD2 Paralog Required for DNA Repair |
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著者 | Smogorzewska A, Matsuoka S, Vinciguerra P, McDonald ER 3rd, Hurov KE, Luo J, Ballif BA, Gygi SP, Hofmann K, D'Andrea AD, Elledge SJ. |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Cell, 129, 289-301, 2007. |
キーワード | ファンコニ , FANCD2 , FANCI , ユビキチン化 , DNA損傷 |
ファンコニー貧血(FA)はスイスの小児科医Guido Fanconiによって報告された小児遺伝性疾患で、骨髄不全、高発がん性などを特徴とする。患者由来細胞は、染色体不安定性やマイトマイシンC(MMC)などのDNA架橋剤に対する高感受性を示す。
FAは単一の遺伝子欠損によるものではなく、13種類の遺伝的相補群が存在し、現在までに12の原因遺伝子が同定されているが、FANCI遺伝子のみ同定されていなかった.これらの中で、FANCA, B, C, E, F, G, L, Mは核内でFA core complexを形成し、E3ユビキチンligase活性をもつFANCLがFANCD2のK561がモノユビキチン化する。このモノユビキチン化は、MMCなどのDNA傷害により増強され、損傷部位に集積し、相同組換え(HR)に関与するBRCA1、Rad51と共局在することにより、核内での局在を変えるシグナルとして機能していると考えられている。しかし、FANCD2とユビキチンの融合タンパク質はFANCD2ノックアウトDT40細胞をMMC高感受性を相補できたが、他のファンコニー遺伝子のノックアウト細胞を相補できないことから、FANCD2以外にもユビキチン化のターゲットがあることが示唆された.さらに、FA-Iの患者細胞では、FANCD2のモノユビキチン化が起こらず、FANCD2 foci形成も見られないが、FA core complexの形成は正常であることから、その原因遺伝子はFANCD2と似た性質をもつと考えられていたが、詳細は不明であった[1]。
本論文では、リン酸化SQ-TQ(ATM/ATRのリン酸化モチーフ)に対する抗体を用いて、質量分析計により、ATM/ATRによりリン酸化されるタンパク質の同定が試みられた.同定されたタンパク質の一つ、KIAA1794はファンコニー貧血症相補群Iの患者で変異が確認され、この遺伝子をsiRNAでノックダウンすると、MMC感受性を示し、Sea Urchin FANCD2と高い相同性を示したことから、FANCI遺伝子そのものであることが示唆された。
hFANCI/KIAA1794は染色体の15q25-q26に存在し、細胞性粘菌からヒトまで広く保存されているが、酵母には存在しない。FANCIは1328アミノ酸からなるタンパク質で、NLS、LIPOCALIN FOLDをもち、ヒトでは3つのSQ/TQモチーフをもつ。さらにFANCD2同様ARM REPEAT配列が存在する。最も注目すべき点はモノユビキチン化されるFANCD2のK561とFANCIのK523を含む領域に高い相同性がみられたことから、FANCIとFANCD2はパラログであると示唆された。
まず筆者らは、FANCIがSQ/TQ motifをもつことから、ATM/ATR依存のチェックポイント経路のにおける役割を検討した.FANCIをsiRNAでノックダウンした細胞では、IR後のG2/Mチェックポイントに明らかな異常を示したが、S期チェックポイント(DNA合成)はわずかな影響しか見られなかった.しかし、内在的なg-H2AXの増加が見られたことから、FANCIがゲノム安定性に機能すると考えられた.また、FANCIノックダウン細胞ではATR、FANCA、FANCD2ノックダウン細胞と同程度のHR活性の低下もみられた。以上のことから、FANCIは細胞周期チェックポイント及びDNA修復に関与していると考えられる。
免疫染色法を用いて核内の局在を観察したところ、MMC処理後、FANCIとFANCD2がフォーカスを形成して共局在したことから、次にFANCD2とFANCIの相互作用を調べた。FANCIをノックダウンした細胞ではFANCD2はモノユビキチン化されず、FANCD2のfoci形成もみられなかった。逆にFANCD2をノックダウンした細胞でもFANCIのfoci形成はみられなかった。また、免疫沈降法によりFANCD2とFANCIの結合がみられた。これらのことから、FANCIとFANCD2は複合体を形成し、FANCD2及びFANCIのモノユビキチン化に相互に関わることが明らかとなった。
次にFANCIには種をこえて広く保存されているユビキチン化部位K523が存在するため、FANCIのユビキチン化について調べた。MMC、HU処理後FANCIのモノユビキチン化がみられた。HAタグをつけたユビキチンを細胞に発現させ、FANCI抗体で免疫沈降しHA抗体でウエスタンブロットすると、FANCIのユビキチンフォームに相当する場所にHAのシグナルが得られたことからも、DNA損傷後FANCIはモノユビキチン化することが裏付けられた。また、K523をアルギニンに変えた変異体(FANCI-K523R)はモノユビキチン化されず、MMC感受性を示すとともに、FANCD2もモノユビキチン化されず、FANCD2のfoci形成もみられなかった。FANCD2-K561R発現FA-D2患者細胞でもFANCIのモノユビキチン化はみられなかった。さらに、FANCD2の脱ユビキチン化を行うUSP1をノックダウンすると、FANCIのユビキチン化が増加したことから、FANCD2同様、FANCIのモノユビキチン化はFA pathwayの機能に必須であるといえる。
最後にFA-Iの患者でFANCI遺伝子の変異について検討され、患者では、P55LとR1285Qの2種類の変異が同定された。この患者細胞にFANCI-R1285Q変異体を導入しても、FA-I細胞同様、MMC高感受性、染色体断裂が見られ、FANCD2のモノユビキチン化・foci形成を相補できなかった。これらのことからFANCIのR1285の変異が病気の原因の変異であると考えられる.しかし、FANCI-P55Lを導入した細胞でも、MMC感受性、FANCD2のモノユビキチン化に幾分の異常が見られることから、この変異も部分的に病因となっているかもしれない。
本研究により、FANCIとFANCD2からなる“ID complex”は複製フォークでのICLの除去、DNA修復に機能することが明らかとなったが、残された問題点も多い。①ID complexのE3 ligaseはFANCLなのか、他の因子なのか? ②ID complexのモノユビキチン化の役割は?なぜ、両者がモノユビキチン化されないといけないのか? ③これらのモノユビキチン化は単に修復因子の集積に必要なのか、PCNAと同じような経路で機能するのか、特異的な修復経路に直接結びつくのか、などが、近い将来明らかになると期待される。
(関連文献)
[1] M. Levitus, M.A. Rooimans, J. Steltenpool, N.F. Cool, A.B. Oostra, C.G. Mathew, M.E. Hoatlin, Q. Waisfisz, F. Arwert, J.P. de Winter and H. Joenje
Heterogeneity in Fanconi anemia: evidence for 2 new genetic subtypes
Blood 103, 2498–2503 (2004),