アポトーシスの阻害因子の1つであるサバイビンは光線力学的治療により誘導され、治療応答改善のための標的となる。
論文標題 | Survivin, a Member of the Inhibitor of Apoptosis Family, Is Induced by Photodynamic Therapy and Is a Target for Improving Treatment Response |
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著者 | Ferrario A, Rucker N, Wong S, Luna M, Gomer CJ. |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Cancer Res, 67, 4989-4995, 2007. |
キーワード | アポトーシス , カスパーゼ , survivin , HSP90 , 癌治療 |
光線力学療法 (Photodynamic Therapy 以下PDT) 、放射線や抗癌剤によって誘導されるサバイビンはアポトーシスの有力な抑制因子であり、癌治療のための標的となることを示した研究である。
本研究で、PDTがマウスとヒトの癌細胞および腫瘍モデルで、アポトーシス抑制タンパク質(IAP)であるサバイビンの発現とリン酸化を誘導することを示した。サバイビンはカスパーゼ-9を直接抑制し、アポトーシスを阻害することから、化学療法や放射線に対する抵抗性と関係することが知られている(1,2)。サバイビンは90kDaの熱ショックタンパク質(Hsp 90)のクライアントタンパク質であり、Hsp 90に結合すると成熟し、適当な折りたたみを受ける。またHsp 90はサバイビンの組立と輸送を支援する。17-allylamino-17-demethoxygeldanamycin(17-AAG)は抗生物質ゲルダナマイシンの誘導体で、クライアントタンパク質(例えばサバイビン)とHsp-90の結合に干渉することにより、クライアントタンパク質の間違った折りたたみを引き起こし、ユビキチン化とプロテアソーム分解を誘導する。著者らはサバイビンの発現とリン酸化によってPDTの有効性が低下すると仮定し、サバイビン経路を阻害することによりPDTの効果を引き上げることができると考えた。この仮説を検証するために、光感受性物質のフォトフリン(Photofrin)とタラポルフィン(NPe6)を用いて、ヒトBT-474乳癌細胞で、PDT単独および17-AAGとPDTの併用処理後の細胞の分子応答を調べた。PDTと17-AAGの併用はHsp-90クライアントタンパク質であるリン酸化サバイビン、リン酸化AktおよびBcl-2の発現の低下を引き起こした。これらのクライアントタンパク質の発現の低下とともに、高度なアポトーシスの増加および細胞毒性の発現が認められた。PDTを修飾する際のサバイビンの特異的役割を確かめるために、テトラサイクリンによって調節されるtet-offプロモーターの調節下に誘導可能なドミナントネガティブ(DN)サバイビン遺伝子をトランスフェクションすることで得られた安定なヒトの悪性黒色腫細胞系(YUSAC2/T34A-C4)を実験に用いた。 野生型サバイビンを発現した同種黒色腫細胞のPDTの処理結果と比較して、DNサバイビン遺伝子を発現した黒色腫細胞をPDT処理するとカスパーゼの基質であるPARP(ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼ)の分解、アポトーシスおよび細胞毒性が増加した。これらの結果はサバイビンや他のHsp-90クライアントタンパク質を阻害することによりPDTの反応を増強することを初めて示したもので、サバイビンによって維持される抗アポトーシス経路の阻害がPDTによる癌治療を増強することを示唆している。
<用語説明>
Survivin: IAP(inhibitor of apoptosis protein)ファミリーに属する分子であり、アポトーシスの実行因子である caspase 3, 9, 7 を抑制することにより、ミトコンドリアを介するアポトーシスを抑制する。サバイビンは、細胞周期も調節し、通常の胎児の発育時に存在し、大人では高増殖細胞で認められる。癌細胞の高いサバイビン発現率は、患者の低い生存率と相関する。サバイビンはHsp-90のクライアントタンパク質であり、Hsp-90とサバイビンの結合は適当なタンパク質折りたたみと成熟に関係する。
Hsp90(熱ショックタンパク質90):クライアントタンパク質の成熟、適当な折りたたみ、組立と輸送を支援することで、数多くの重要な情報伝達タンパク質の機能と安定性を調節する分子シャペロンである。腫瘍細胞の増殖に関係するとされている。ヒト細胞では、4つのアイソフォームを有する: Hsp90α、β、GRP94/gp96とTRAP1/hsp75。
17-AAG (17-(Allylamino)-17-demethoxygeldanamycin):ゲルダナマイシン(geldanamycin)誘導体でHsp-90クライアントタンパク質とHsp-90の結合を競合することにより、それらのタンパク質のプロテアソーム分解を誘導する。若い患者での特定の白血病または固形腫瘍、特に腎臓腫瘍の治療に使用される薬物である。Phase 1とPhase 2臨床試験中である。
YUSAC2/T34A-C4:テトラサイクリンによって(tet-off)調節した誘導可能なリン酸化に欠陥があったドミナントネガティブのサバイビン(Thr34Ala)変異体を安定的にトランスフェクションされたヒト悪性黒色腫細胞である。
光力学性治療(PDT)は、光感受性物質をあらかじめ投与し、光で励起することで、活性酸素を発生させて新生血管を壊す癌治療。例えば肺癌、食道癌癌等が対象となる。
<参考文献>
1) Altieri DC. Validating survivin as a cancer therapeutic target. Nat. Rev. Cancer 3, 46-54 (2003).
2) Rodel F, Hoffmann J, Distel L, Herrmann M, Noisternig T, Papadopoulos T, Sauer R, Rodel C. Survivin as a radioresistance factor, and prognostic and therapeutic target for radiotherapy in rectal cancer. Cancer Res. 65, 4881-4887, (2005).