腫瘍組織内の間葉系幹細胞は乳がんの転移を促す
論文標題 | Synergistic response to oncogenic mutations defines gene class critical to cancer phenotype |
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著者 | McMurray HR, Sampson ER, Compitello G, Kinsey C, Newman L, Smith B, Chen SR, Klebanov L, Salzman P, Yakovlev A, Land H. |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Nature, 453, 1112-1116, 2008 |
キーワード | 癌化 , Ras , p53 , アポトーシス , シグナル伝達 |
正常細胞ががん細胞へと形質転換する場合には、複数のがん遺伝子の変異が重なって起こることが必要である。すでに1983年には、単一のがん遺伝子だけでは、正常細胞のがん化に不十分であるが、異なる2つのがん遺伝子の変異による協調的な作用によってがん化が起こり得ることが報告されている。低分子量Gタンパク質のRasファミリーは、シグナル伝達因子であり、活性化することにより細胞増殖を促進する。著者らは、協調的ながん遺伝子の変異によって相乗的な応答を示す遺伝子を同定するため、活性化型H-RasV12(以下、Ras)とがん抑制遺伝子であるp53の変異型p52175H(以下、mp53)を、young adult murine colon (YAMC)細胞に、それぞれ単独でもしくは同時に導入し、マイクロアレイでmRNAの発現プロファイルを解析した。その結果、538遺伝子でmp53/Ras導入細胞とコントロール細胞の間で発現の違いが認められた。その中で、mp53あるいはRasを単独で導入した場合に比べ、両方同時に導入した場合に相乗的な変化を示す遺伝子が95個(増強:28個、減少:67個)見出され、これを’Cooperation response genes (CRGs)’と名付けた。
CRGsタンパク質は、細胞のシグナル伝達やアポトーシス、代謝、輸送、接着などに関連する。CRGsの大半は、ヒトのがんにおいても発現異常が認められる遺伝子である。75のCRGsについて調べた結果、45遺伝子は、著者らの用いたマウス大腸がん細胞とヒトの原発性大腸がんのいずれにおいても変化が見出された。
次に、CRGsの内、強く抑制されたものから増強されたものまで、24個のCRGsを幅広く選択し、それぞれ抑制された遺伝子に対しては発現ベクターを導入して過剰発現させ、増強された遺伝子に対してはshRNAによりノックダウンすることにより、正常に戻す方向に操作した。コントロールには、Rasあるいはmp53導入によって変化が認められたものの、両方同時に導入した場合に相乗的な変化を示さなかった14個の遺伝子(non-CRGs)を用いた。ICRヌードマウスに、これらの遺伝子の発現レベルを正常に回復させた細胞をそれぞれ移植した結果、24個のCRGsの内14遺伝子で腫瘍形成が抑制された。一方、14個のnon-CRGsでは、1遺伝子(Tbx18 : T-box転写因子のひとつで、発育過程や抗アポトーシス因子としての作用が知られている)のみであった。この結果から、CRGsの多くの遺伝子が、細胞の悪性転化において重要な役割を担うことが示唆された。特に、Plac8のノックダウン、Jag2、HOXC13の再発現により、強い効果が認められた。Plac8は、胎盤で発現レベルの高い遺伝子であるが機能は未解明である。Jag2はNotchと相互作用してシグナル伝達に、HOXC13は転写制御に関与する遺伝子である。さらに、本研究において中間的な腫瘍抑制効果を示したCRGsであるFas(アポトーシスに関与)とRprm/reprimo(p53依存的なG2 arrestへの関与が示唆され、多くのがんでメチル化が見出されている)について、両者を同時に回復させた(両者とも再発現)効果を検討した。その結果、それぞれ単独の場合と比較して、顕著な腫瘍抑制効果が認められた。
著者らは、さらに同様の実験を2種類のヒト大腸がん由来細胞HT-29とDLD-1を用いて行った。両細胞ともp53は変異型であり、DLD-1はK-Rasに、HT-29はB-Rafに活性化型の変異がある。これらの細胞においても、マウスのmp53/Ras細胞と同様に、CRGsの各遺伝子を正常に戻す方向の操作によって、腫瘍抑制効果が認められた。
マウス大腸がん細胞の形質転換モデルを用いて同定したCRGsの操作が、ヒトの大腸がん細胞においても有効であったことは、がん細胞の悪性度は、ヒトとマウスで類似した1セットの遺伝子群に依存する可能性が示唆された。CRGsは、ヒトのがんにおける「アキレス腱」を明らかにする有用なsourceであるかもしれないと、著者らは述べている。
CRGsには、シグナル伝達機構や代謝、転写制御、アポトーシスなどのさまざまな生理的機能に関与する遺伝子が含まれていた。この結果は、p53とRasのように’master regulators’となる2,3個のがん遺伝子の変異により、がんに関連した幅広い変化が誘導されることを明確にした(1)。放射線照射によって誘導されるp53などを介したシグナル伝達などが、このような悪性転換のプロセスにどのように関与するのであろうか。放射線発がんと制がんの両面から非常に興味深い。
<参考文献>
1. Luo, J. and Elledge, S.J. (2008) Deconstructing oncogenesis. Nature 453, 995-996.
2. Land, H., Parada, L.F. and Weinberg, R.A. (1983) Tumorigenic conversion of primary embryo fibroblasts requires at least two cooperating oncogenes. Nature 304, 596-602.
3. Ruley, H.E. (1983) Adenovirus early region 1A enables viral and cellular trasforming genes to transform primary cells in culture. Nature 304, 602-606.
4. Galaviz-Hernandez, C., Stagg, C., de Ridder, G., Tanaka, T.S., Ko, M.S., Schlessinger, D. and Nagaraja, R.(2003) Plac8 and Plac9, novel placental-enriched genes idenrified through microarray analysis. Gene 309, 81-89.