SIRT3の活性化はミトコンドリア機能とがん細胞の放射線抵抗性を増強する
論文標題 | CDK1-Mediated SIRT3 Activation Enhances Mitochondrial Function and Tumor Radioresistance |
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著者 | Liu R, Fan M, Candas D, Qin L, Zhang X, Eldridge A, Zou JX, Zhang T, Juma S, Jin C, Li RF, Perks J, Sun LQ, Vaughan AT, Hai CX, Gius DR, Li JJ. |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Mol Cancer Ther. 14, 2090-2102, 2015. |
キーワード | ミトコンドリア , 放射線抵抗性 , SIRT3 , 脱アセチル化 |
SIRTファミリータンパク質は1~7のアイソタイプがあるNAD依存的脱アセチル化酵素である。今回はその中でもSIRT3の癌細胞における放射線応答に着目している。SIRT3はミトコンドリア特異的に局在するサーチュインタンパク質であり、これまでの報告では、MnSOD、ATP synthase F1を脱アセチル化し、活性化させることが報告されている。このことから筆者らは、“SIRT3は直接ミトコンドリアに作用し、ATP産生を制御するセンサーを担っているのではないか”と考えた。
しかしながら“ストレスに対して、SIRT3はどのように制御され、翻訳後修飾を受けるのかということが明らかではない。”そこで本論文では放射線に対してSIRT3がどのように応答し、翻訳語修飾を受けるのかについて調べ、報告している。
放射線照射によりNF-kBが活性化することが知られているが、この“NF-kBが照射後にSIRT3のプロモーターに結合し、SIRT3の転写を促進”していることがわかった。
さらに、SIRT3のリン酸化状態が照射後変化しているのか調べると、照射によりSIRT3のリン酸化レベルが増加していることがわかった。このリン酸化については照射後CDK1のミトコンドリア分画への局在量が増加し、そこで、”CDK1がSIRT3のT150およびS159をリン酸化している”、ということを突き止めた。このことから、放射線照射後、SIRT3は複製増加と、リン酸化による複数の経路によって活性化されることがわかった。
また、がん細胞においては照射後SIRT3が活性化することにより、MnSODやミトコンドリア電子伝達系complex I subunitの構成タンパク質の一つであるNDUFA9の脱アセチル化を行うことにより活性化させ、ミトコンドリアのATP産生量の増加、膜電位の低下の抑制、活性酸素種の抑制などを行っていることがわかった。このことから、”癌細胞においてSIRT3は照射後のミトコンドリアのホメオスタシスに貢献している”ことがわかった(図1)。
以上の結果より、筆者らは、SIRT3は癌細胞のミトコンドリアの制御を介して、放射線抵抗性の獲得に寄与しているのではないかと考えている。