日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

減数分裂期DNA2本鎖切断の修復機構‐Spo11と共有結合したDNA2本鎖切断のエンドヌクレアーゼによるプロセッシング

論文標題 Pre-exposure to low doses: modulation of X-ray induced DNA damage and repair?
著者 Neale MJ, Pan J, Keeney S.
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Nature, 436, 1053-1057, 2005.
キーワード 減数分裂 , Spo11 , DSB , トポイソメラーゼ , MRE11

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 Spo11は、トポイソメラーゼと類似した配列を有するDNA切断酵素であり、酵母からヒトまで保存されている。減数分裂期の相同組み換えは、「組換えホットスポット」と呼ばれる、相同組み換えが起こりやすい部位での一過的なDNA2本鎖切断(DSB)によって開始される。このDSBは、Spo11によって引き起こされる。Spo11は、DSBの5’末端に共有結合するが、DSBを修復するにはSpo11を取り除く必要がある。このモデルとして、直接的に加水分解により分解する方法と、エンドヌクレアーゼにより、Spo11と共有結合したDNAを、Spo11とともに切り出す方法(プロセッシング)が考えられる。本論文は、出芽酵母の減数分裂時のDSBは、エンドヌクレアーゼによる切断を受け、Spo11が結合した遊離した3’-OHをもつオリゴヌクレオチドが、Spo11とともに解離されることを示した。
 まず、Spo11-HA融合タンパク質を発現した株を減数分裂期に導入して作成した抽出物からSpo11-HAを免疫沈降し、TdT(terminal deoxynucleotidyl transferase)を用いてRIラベルしたDNAを遊離3’-OH基に付加した。SDS-PAGEにより分離して検出したところ、Spo11-HAに特異的な2本のバンドが検出された。これらのDNAフラグメントの解析から、この2つの複合体は、それぞれ、~21-37塩基と≦12塩基のオリゴヌクレオチドを含んでいることを推定した。DSBが生成されないSpo11の活性部位にあるチロシンのフェニルアラニン変異株やmei4変異株、DSBのプロセッシングが欠損したrad50Sおよびsae2Δ変異株では、ラベルしたバンドは検出されなかった。Spo11-オリゴヌクレオチド複合体が、DSBのプロセッシングにより生じたものであるなら、(Spo11-freeな)DSBと同様の経時変化を示すはずである。同調培養により経時変化を検討したところ、これらの複合体とDSBが生成するタイミングは一致した。さらに、長鎖、短鎖のオリゴヌクレオチドは、常に1:1で生じていた。これらの結果は、DSBは非対称にプロセッシングされるので、DSBの両側で切断部位までの長さが異なることを示唆する。
 Mre11-Rad50-Xrs2(NBS1)複合体は、Mre11が1本鎖エンドヌクレアーゼ活性をもつこと、およびrad50、mre11の変異株では、Spo11をDSB末端から除去できないことから、Spo11-オリゴヌクレオチド複合体を形成するヌクレアーゼである可能性が示唆される。TdT処理に先駆けて脱リン酸化酵素で処理した場合に、ラベルされた複合体が増加しなかったことから、in vivoで生じたSpo11-オリゴヌクレオチド複合体は、遊離した3’-OH末端を持つ。これは、Mre11のヌクレアーゼ活性と一致する。筆者らは、Spo11が結合したDSBに近接した一本鎖DNA部分をMre11が直接切断することを提唱している。
 次に、同様の方法で、マウス精巣のSpo11のオリゴヌクレオチドへの結合を調べたところ、Spo11(Spo11?およびSpo11?)に依存したバンド(47-59 kDa)、およびオリゴヌクレオチド(~12-26塩基、~28-34塩基)が検出された。この結果は、Spo11-DSB複合体のプロセッシングは、進化上保存されていることを示唆する。
 Spo11-オリゴヌクレオチド複合体とエトポシド処理により形成されるトポイソメラーゼII-オリゴヌクレオチド複合体は、DSBの両サイドにおいて、リン酸化チロシンがDSBの5’末端に結合することにより形成される点で類似している。Spo11-オリゴヌクレオチド複合体のプロセッシングを行う分子機構が、トポイソメラーゼIIによって生じたDSBを修復する可能性が推測される。栄養増殖期の酵母において、Top2を免疫沈降し、TdTによりラベルした結果、Top2-オリゴヌクレオチド複合体が検出された。この場合もMRE11がヌクレアーゼとして考えられるが、rad50Sおよびsae2Δ変異株でその量的な変化はみられなかった。他に、duplex-single-strand junctionにおいて、5’ 1本鎖DNAを切断し得るヌクレアーゼ(Rad2, Rad27, Yen1, Din7)の変異株についても検討したが、Top2-オリゴヌクレオチド複合体に変化は見られなかった。よって、Spo11-オリゴヌクレオチド複合体とは異なる遺伝的制御を受けていると示唆される。
 非対称にDSBがプロセッシングされるという結果は、大変興味深い。あらゆる組換えモデルにおいて、2つのDSB末端は、鎖交換の過程において異なる振る舞いをすることが提案されている。Rad51とDmc1は、DSBのそれぞれ異なるサイドに結合して、ヌクレオプロテインフィラメントを形成し、非対称な鎖交換を行う。本論文で見出された知見は、DSBの両末端は、DSBのプロセッシング時かそれ以前という非常に早い時期に、生化学的な区別がつく可能性を示唆する。

(関連文献)
(1) A. Pecina, K.N. Smith, C. Mezard, H. Murakami, K. Ohta and A. Nicolas, Targeted stimulation of meiotic recombination.
Cell 111, 173-184 (2002).
(2) V. Borde, W. Lin, E. Novikov, J.H. Petrini, M. Lichten and A. Nicolas, Association of Mre11p with double-strand break sites during yeast meiosis.
Mol. Cell 13, 389-401 (2004).
(3) J.C. Connelly and D.R.F. Leach, Repair of DNA Covalently Linked to Protein.
Mol. Cell 13, 307-316 (2004).