日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

新たに発見されたDNA二重鎖切断修復の必須因子XLF/Cernnunos

論文標題 XRCC4-DNA ligase IV complex to promote DNA nonhomologous end-joining.
著者 Ahnesorg P, Smith P, Jackson SP.
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Cell 124, 301-313, 2006.
キーワード DNA損傷 , NHEJ , Cernunnos , 免疫不全 , V(D)J

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 酵母からヒトに至るまで真核生物では、DNA二重鎖切断は主として、非相同末端結合(non-homologousend-joining; NHEJ)と相同組換え(homologous recombination; HR)によって修復されるという概念が一般的なものとなって久しい。また、これらの修復機構に関わる分子も多数同定されている。しかし、これで全部説明できるのか?
 NHEJの必須因子としては、DNA末端の認識に関わるKu(Ku86またはKu80とKu70のダイマー)、KuによってDNA末端に動員されて活性化するタンパク質リン酸化酵素DNA-PKcs、DNA末端同士を結合するXRCC4-DNAリガーゼIVが知られている。また、DNA末端の形状によっては結合前のプロセシング(整形)が必要で、これに関わると考えられているのが、Artemisヌクレアーゼである。いずれも欠損すると、放射線感受性と同時にV(D)J組換え能低下およびそれに起因する免疫不全を呈する。相同組換えに比べて反応機構がシンプルなNHEJでは、これだけの要素が揃えば、基本的に反応を完結させることができるように思われていた。
 しかし、2003年にOettinger、Jeggo、Westらのグループは、これに反して、NHEJには少なくとももう一つ重要な分子が存在することを示唆する報告をしている(*1)。この論文では、2BN、3BNという兄弟姉妹の免疫不全症患者から線維芽細胞を樹立して解析を行っている。2BNのみが維持可能であったが、この細胞は既知のNHEJ分子を欠損する患者あるいは動物細胞と同様に、V(D)J組換え能欠損、放射線高感受性、DNA二重鎖切断修復能低下(パルスフィールド法による)を示した。ところが、既知のNHEJ分子、更にはNBS1/Mre11/Rad50まで調べても、発現、機能は正常で、シークエンスしても変異が見つからなかった。また、これらの遺伝子を導入してもV(D)J組換え能の回復は見られなかった。従って、2BNではこれら以外の分子が欠損していると考えられると言うのである。また、酵母のNHEJ反応には、KuのホモログYku70p/Hdf1p、Yku80p/Hdf2p、XRCC4のホモログLif1p、DNA ligase IVにあたるLig4pの他、Xrs2p(Nbs1のホモログ)、Mre11、Rad50、更には、Lif2p(Nej1p)、Sir2/3/4pなどが関与する。特に、Lif2p/Nej1pはLif1p(つまり哺乳類のXRCC4にあたる)に結合する分子である。面白いことに、Lif2p/Nej1pの発現は接合型によって制御されており、haploidで発現し、diploidでは抑制されている。酵母においては、NHEJによるDNA修復はhaploidのG1/early S期のみで必須と考えられており、Lif2p/Nej1pの発現を介してNHEJとHRの切換えが行われている可能性が考えられている。このようなことから、Lif2p/Nej1pの哺乳類ホモログの存在の有無が注目されるところであった。実は私自身データベースで検索したことがあるが、普通のやり方では見つからないようであった。
 今年1月27日号のCellに掲載された2つの論文は、新しいNHEJ必須因子Cernnunos/XLFの発見を報告している。
 その一つのグループ、Jacksonらは、two-hybrid法によるXRCC4結合分子により、299アミノ酸からなる33kDaの新規分子を同定した。彼らは、コンピュータープログラムによる構造予測を行い、この分子がXRCC4と弱いながら相同性を有し、大局的には似通った三次構造を取りうることを示した。このことから、この分子を"XRCC4-like factor (XLF)"と名付けた。XLFがXRCC4/DNA ligase IVと細胞内で結合していることは、免疫沈降法によって示された。また、異なるタグを付けたXLFの共沈実験により、XLFがホモ多量体を形成することが示唆された。
 このXLFをsiRNAによって発現抑制すると、XRCC4を発現抑制した場合と同等の放射線感受性、ブレオマイシン感受性亢進が見られた。更に、DNA二重鎖結合反応に異常があることをプラスミドの挿入頻度、パルスフィールド電気泳動によって示している。ここで、上記の2BN細胞が登場する。この2BNでは、XLF遺伝子にフレームシフト変異が存在していた。更に、XLF遺伝子を2BN細胞に導入することにより放射線感受性、DNA二重鎖切断修復能が回復することから、このXLFが2BNにおける欠損遺伝子であると結論した。
 もう一報は、2001年にヒト放射線感受性重症複合免疫不全症の原因遺伝子としてArtemisを発見した(*2)de Villartayらのグループの論文である。端緒はArtemisのときと同様、小児症例である。今回着目したのは発達遅滞、小頭症、免疫不全を合併する症例5例である。このような症候はナイミーヘン症候群(NBS)やLigase IV欠損症でも見られ、DNA損傷応答、修復機構の異常が疑われるところである。実際、患者の線維芽細胞を樹立したところ、AT、NBS、Ligase IV欠損症と同程度あるいはそれ以上の放射線感受性を呈した。G1/S、S期、G2/Mのチェックポイントは正常であった。一方で、制限酵素で直鎖化したプラスミドの細胞内導入実験、RAG1/2発現によるV(D)J組換え実験、細胞抽出液を用いたin vitroでのプラスミド結合実験などから、DNA結合能力そのものが低下していることが示唆された。更に、in vitroでのプラスミド結合実験において、Ligase IV欠損症患者細胞抽出液と混合すると結合能力が回復すること、一方、今回の5人の患者細胞抽出液を相互に混合しても結合能力の回復が見られないことから、これらの患者においては、DNA ligase IV以外の同一の遺伝子が欠損している可能性が強く示唆された。
 遺伝子同定は、cDNAライブラリー導入による機能相補によって行われた。具体的には、88日間、9回にわたるブレオマイシン処理で生き残った細胞を選択した。この実験を8回繰り返したが、いずれにおいても生き残った細胞が持っていたのは、XLFと同一の遺伝子であった。患者のcDNAおよびゲノムDNAをシークエンスすると、いずれにおいても変異が認められ、更に、患者細胞にこの遺伝子を導入すると、放射線感受性、V(D)J組換え、in vitroでのプラスミド結合能力がいずれも回復した。de Villartayらはこの分子をCernnunosと名付けた。
 このXLF/Cernnunosの発見がDNA二重鎖修復機構研究に投げかけたものはいくつかあるが、その中で最も大きいのは、NHEJにおいてこの他に必須の分子はないのか、という問題であろう。当然、即座に結合できないDNA末端形状を解消するためにヌクレアーゼ、ポリメラーゼなどが必要と考えられるし、NHEJを行う環境や場を提供するにあたって、クロマチンや核マトリックスを構成する多くの分子が関わっているだろう。しかし、それ以前にDNA末端を見つけて、つなぐというNHEJの基本的素反応に限っても、今まで知られていなかった分子があった。なお、冒頭で酵母のLif2p/Nej1pについて触れたが、XLF/Cernnunosがこれに対応する分子であるかどうかは定かではない。NHEJ素反応に必須の分子の洗い出しはまだ終わっていないのかも知れない。
 また、仮に、更なる未知分子が存在するとしたら如何にして発見できるかについても重要な教訓を与えている。今回の2つの報告はいずれも、非常に稀なヒトの小児免疫不全症例の詳細な記述、解析が出発点あるいは重要な基盤となっているのである。今回の紹介文では十分に触れられなかったが、これらの症例が、所謂NHEJ欠損症であること、欠損している遺伝子が既知のものではなく未知のものであることを示す過程に並々ならぬ信念と執念を感じさせられる。遺伝性疾患であれば必ず遺伝子に異常がある、遺伝子に異常があればそれは必ず同定される、従って、いかにして遺伝性疾患を見分けるかが鍵になる。分子放射線生物学研究と小児科学領域との密接な連携の重要性を改めて痛感させられる。

<参考文献>
1. Buck D, et al. Cernunnos, a novel nonhomologous end-joining factor, is mutated in human immunodeficiency with microcephaly. Cell, 124, 287-299, 2006.
2. Dai, Y.,et al. Nonhomologous end joining and V(D)J recombination require an additional factor. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100, 2462-2467 (2003).
3. Moshous, D, et al. Artemis, a novel DNA double-strand break repair/V(D)J recombination protein, is mutated in human severe combined immune deficiency. Cell 105, 177-186 (2001).