日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

ミスマッチ修復:MutLの隠れた本性

論文標題 Endonucleolytic Function of MutLa in Human Mismatch Repair
著者 Kadyrov FA, Dzantiev L, Constantin N, Modrich P.
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Cell 126, 297-308, 2006.
キーワード ミスマッチ修復 , PCNA , RFC , DNA複製 , MutS

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 ミスマッチ修復機構は、DNA複製で生じた誤った塩基対合(ミスマッチ)を見つけ出し、新生鎖側の誤って取り込まれた塩基を除去する修復機構であるが、この新生鎖の識別とミスマッチを切り出す分子機構は長い間不明であった。本論文はミスマッチを切り出す酵素がMutLaであることを発見した歴史的論文である。
 大腸菌では、ミスマッチに結合したMutSタンパク質によりMutLタンパク質がリクルートされ、これにより活性化したMutHが新生鎖にニックを導入する。このとき新生鎖の識別にはDNAのメチル化が利用される。DNAはGATC配列特異的なメチル化酵素Damによりメチル化されるが、DNA複製直後のGATC配列は新生鎖がメチル化されておらず、MutHはこのメチル化されていない側の鎖を切断する。
 このエレガントな新生鎖識別機構は、実はグラム陰性細菌に特有で、他の生物ではdamとmutH遺伝子は見つからず、新生鎖識別の分子機構は不明であった。一方、ヒトでの試験管内ミスマッチ修復反応には二本鎖DNA上のニックが必要であり、ニックのある鎖が選択的に修復される。したがって、不連続なDNA複製の結果生じたニックが新生鎖識別のシグナルである可能性が示唆されていた。
 本論文では、ミスマッチの修復にMutSa、MutLa、RFC、PCNAが要求され、切り出し反応にはMutLaが必要不可欠であることが示された。さらに、MutLaはRFC、PCNA依存的なエンドヌクレアーゼであり、ニックのある側の鎖を特異的に切断した。また、このエンドヌクレアーゼ活性に必要なアミノ酸残基を置換したMutLaでは修復活性が消失した。最後に著者は、このアミノ酸残基はMutHをもつグラム陰性細菌では保存されておらず、大腸菌のMutLにはエンドヌクレアーゼ活性はないと指摘している。

<Perspective>
 これまでの試験管内での修復反応で、鎖の識別に必要とされたニックは、実はRFCがPCNAを二本鎖DNA上にローディングするための3’末端として機能していたとは考えられないだろうか。新生鎖に対してPCNAは常に一定の向きで存在するので、PCNAの向きが新生鎖を規定できるはずである。(ニックに対してローディングされたPCNAの向きはこれに一致する!)これが新生鎖識別の分子機構であるかどうかについては、今後の研究結果を待たなければならない。