ATMとp53をつなぐ新たな役者:COP1
論文標題 | ATM engages autodegradation of the E3 ubiquitin ligase COP1 after DNA damage |
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著者 | Dornan D, Shimizu H, Mah A, Dudhela T, Eby M, O'rourke K, Seshagiri S, Dixit VM. |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Science, 313, 1122-1126, 2006. |
キーワード | RING , ユビキチン化 , p53 , DNA損傷 , ATM |
COP1は植物(Arabitopsis thaliana)で見つかった分子であり、COPとはconstitutively photomorphogenic、即ち光形態形成が構成的に起こるという意味である。COP1はRINGドメインを有するubiquitin ligaseであり、光による遺伝子発現を促す転写因子LAF1、HY5の機能を抑制することが明らかにされている。
2年前、このグループは当時ほとんど未知であった哺乳類でのCOP1の機能を探るため、COP1結合タンパク質の探索を行い、p53を同定した(関連文献1)。具体的には、FLAGタグを付けたCOP1をU2-OS細胞に発現させ、免疫沈降によって共沈するタンパク質をSDS-PAGEで展開し、質量分析を行った。SDS-PAGE後の銀染色では2、3本の比較的クリアなバンドが認められているが、このうち1つがp53だったということである。p53がCOP1の主要な標的である可能性がうかがわれる。そこで、培養細胞にCOP1を発現させるとp53の半減期が短縮し、タンパク量の減少が見られた。このような効果はRINGドメインを欠損するCOP1では見られず、また、proteasome阻害剤ALLNで抑制された。更に、p53とCOP1を共発現させると、p53によるp21プロモータ活性化とアポトーシス誘導が抑制された。また、COP1はin vitroで、E1、E2と協同してp53をユビキチン化した。更に、正常p53を有するU2-OS細胞においてCOP1発現をsiRNAで抑制すると、p53およびp21の蓄積、G1アレストが見られた。このような効果はp53を欠損するH1299細胞では観察されなかった。これらのことから、COP1はp53をユビキチン化し、proteasomeによる分解を促すことにより、アポトーシスや細胞周期チェックポイントを負に制御すると考えられた。更に、面白いことにCOP1はそのプロモータにp53結合コンセンサス配列を有し、実際にp53によって転写活性化を受けることが明らかになった。つまり、p53とCOP1はネガティブフィードバックループを構成する。このような関係は、同様にp53を基質とするubiquitin ligaseであるMDM2、Pirh2の場合と酷似している。この論文では、更に、これら3つの分子が互いにバックアップしながら、p53機能を負に調節していることが示されている。また、多くの乳癌(32例中25例、81%)や子宮癌(171例中76例、44%)において、COP1が過剰発現しているという報告も同グループによって出されている(関連文献2)。
今回の論文の目的は、COP1-p53系がDNA損傷にいかに応答するかであった。まず、放射線照射後に、p53の蓄積と逆相関してCOP1が減少することを見出した。ATM欠損細胞(AT患者由来細胞)ではCOP1減少の遅れが観察されたことから、ATMの関与が考えられた。そこでまず考えられたのが、ATMによるCOP1のリン酸化である。COP1には5個のATMコンセンサス配列(SQモチーフ)がある。この中でも、Ser387は脊椎動物で広く保存されていることから特に注目された。実際に、培養細胞から免疫沈降したATMあるいは組換えATMはこのSer387をリン酸化することができた。更に、リン酸化状態特異的抗体を作製して、COP1のSer387が放射線照射後にATM依存的にリン酸化されることを示した。このSer387をアラニンに置換すると、放射線照射後のCOP1の減少がほとんど見られなくなったことから、ATMによるSer387のリン酸化がCOP1の減少の引き金になることが明らかになった。
COP1はubiquitin ligaseであることから、自己ユビキチン化によって分解に向かうという筋書きが思い浮かぶであろう。実際、ATMによってCOP1のユビキチン化が促進され、Ser387アラニン置換体ではユビキチン化が見られなかったことから、ATMによるSer387のリン酸化がCOP1のユビキチン化に必要であることが示された。また、COP1のRINGドメインの活性残基(C136,C139)に変異を加えるとATMによるCOP1減少が見られないことから、自己ユビキチン化が分解に必要であることが示された。更に、Ser387を酸性残基のアスパラギン酸に変えるとCOP1のユビキチン化活性が亢進した。また、etoposide処理によって、COP1の核から細胞質への移行が起こることが見出された。この移行はやはりATM依存的で、また、Ser387をアラニンに置換すると起こらなくなった。一方、Ser387をアスパラギン酸に置換すると全てが細胞質に局在した。
この論文の最後では、このATMによるCOP1 Ser387のリン酸化とp53との関係を調べている。COP1とp53を共発現する細胞において、bleomycin処理後にp53とCOP1の結合低下が見られる。しかし、Ser387をアラニンに置換した変異体は結合が低下しなかった。また、正常型COP1発現細胞ではetoposide処理後にp53蓄積が見られたが、Ser387アラニン置換体発現細胞では見られなかった。更に、Ser387アラニン置換体発現細胞は正常COP1発現細胞に比べて、etoposide抵抗性を示した。一方、アスパラギン酸置換体は正常型に比べて、p53結合能力、p53ユビキチン化活性が共に低く、更に、コロニー形成能力の低下が認められた。
これらを総合すると、ATMはCOP1のSer387をリン酸化して負電荷を付与し、(1)自己ユビキチン化、(2)核外移行、(3)p53との結合の阻害によって、COP1機能を抑制すると考えられる。放射線照射などによるDNA損傷、とりわけDNA二重鎖切断に応答して、細胞はチェックポイント、アポトーシスなどさまざまな生体防御反応を引き起こす。DNA損傷から細胞応答に至る経路は、解明が待たれるブラックボックスであるが、ATMとp53はその入口と出口に位置する。即ち、ATMは損傷認識において、また、p53はチェックポイント、アポトーシスなどの実行分子の発現誘導において中心的な役割を果たす。このATMとp53を結ぶ関係として初めて見つかったのは、ATMによるp53 Ser15の直接リン酸化である。これによって、MDM2との結合が阻害され、ユビキチン化、ひいては分解が抑制されることは、約10年前、1997年に示された。その後、ATMによって活性化されたChk2がp53 Ser20をリン酸化し、これもMDM2との結合減少に寄与することが示された。更に、ATMはMDM2やそのパートナーのMDMXをリン酸化し、p53に対する親和性を低下させることも示されている。このようにATM-p53-MDM2/MDMXの3者の関係だけでも、DNA損傷に応答する複数のメカニズムが明らかになっている。今回、p53を分解へ向かわせるユビキチン化酵素COP1についてもATMによる制御が働くことが明らかになり、ATMとp53を結ぶ関係はますます複雑な様相を呈してきた。今回の論文はATMとp53を結ぶブラックボックスにはまだまだ未知の回路がありそうだということを示すとともに、p53の分解を抑えるロジックの重要性−考えてみれば当然のことであるが−を改めて強調したものと言えよう。もう一つのPirh2についても同様な制御が働くのか? 今後の解明が待たれるところである。
<関連文献>
1. Dornan, D., Wertz, I., Shimizu, H., Arnott, D., Frantz, G. D., Dowd, P., O'Rourke, K., Koeppen, H., and Dixit, V. M. The ubiquitin ligase COP1 is a critical negative regulator of p53. Nature 429, 86-92 (2004).
2. Dornan, D., Bheddah, S., Newton, K., Ince, W., Frantz, G. D., Dowd, P., Koeppen, H., Dixit, V. M., and French, D. M. COP1, the negative regulator of p53, is overexpressed in breast and ovarian adenocarcinoma. Cancer Res. 64, 7226-7230