日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

Rad50-CARD9の相互作用が細胞質に侵入したDNAのセンサーとして機能する

論文標題 Rad50-CARD9 interactions link cytosolic DNA sensing to IL-1_ production
著者 Roth S, Rottach A, Lotz-Havla AS, Laux V, Muschaweckh A, Gersting SW, Muntau AC, Hopfner KP, Jin L, Vanness K, Petrini JH, Drexler I, Leonhardt H, Ruland J
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Nat Immunol, 15, 538-545, 2014
キーワード Rad50 , CARD9 , 細胞質DNA , 炎症応答 , IL-1β

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ウイルスやバクテリアなどに由来するDNAが細胞質に侵入すると、インターロイキン1β(IL-1β)やインターフェロンβ(IFN-β)の発現誘導を伴う炎症応答・自然免疫応答が活性化することにより、これらの感染の危険を宿主細胞に警告する。このような反応はウイルスやバクテリア感染への防御機構として重要である。外来性DNAの細胞質侵入による炎症応答の活性化は、二本鎖DNA(dsDNA)を高等真核細胞にトランスフェクション法で細胞質に導入することにより再現することができ、このような実験モデルを使ってこの活性化(IL-1β、IFN-βの発現誘導)には小胞体関連タンパク質のSTINGが重要であることが明らかとなっていた。しかし、侵入した細胞質dsDNAの検知を何が担っているか、センサー機構の実体は明らとされていなかった。
 CARD9は自然免疫システムに特異的なアダプタータンパクであり、バクテリアや真菌、RNAウイルスへの感染時に宿主細胞の免疫応答の活性化に機能することが知られていた。それゆえ、著者らはCARD9がdsDNAの細胞質侵入のセンサーとして機能する可能性を考え、CARD9と結合する因子の同定をyeast two-hybridスクリーニングで検討した。その結果、MRN複合体の構成因子として知られるRAD50が同定され、BRET法や免疫沈降により血球細胞において実際、CARD9とRAD50が結合していることを明らかにした。さらに、CARD9/RAD50複合体はDNAビーズでpull-downされるとともに、dsDNAをトランスフェクションして細胞質に導入した場合、その細胞質DNAとRAD50、CARD9との共局在が観察された。また、この細胞質dsDNAとCARD9/RAD50の相互作用はRAD50のdsDNAに対する結合活性に依存していた。細胞質へdsDNAが侵入するとIL-1β、IFN-βが発現誘導されるが、Card9ノックアウトマウス由来血球細胞ではIL-1βの発現誘導は消失するが、IFN-βは正常に誘導された。Rad50を条件欠損させたマウス細胞でもCARD9欠損と同様、IL-1βの誘導のみ消失しており、CARD9/Rad50複合体はIL-1β誘導経路でのみ機能することが示唆された。
 自然免疫応答ではCARD9はBcl-10と相互作用してTAK1によるIKKβのリン酸化・分解を促進して、転写因子NFκBを細胞質から核へ移行させることが知られているが、細胞質にdsDNAを導入した場合でもNFκBの核移行が誘導された。さらに、Bcl-10ノックアウトマウス由来細胞でもdsDNA導入によるIL-1βの発現誘導は起こらなかった。また、Bcl-10もCARD9、Rad50と同様に細胞質に導入したdsDNAと共局在しており、CARD9は自然免疫応答時と同様に、Bcl-10、NFκNBに依存した経路でIL-1βを発現誘導すると考えられる。
 最後に、著者らはDNAウイルスであるpoxvirus vaccinia virus (VV)を使って、ウイルスDNAの細胞質侵入時にもCARD9/Rad50に依存した経路でIL-1βの発現誘導が起こるのかを検討している。免疫染色法で検討すると、細胞質に侵入したVVのdsDNAとRad50, CARD9は共局在しており、Card9あるいはBcl-10ノックアウトマウス由来細胞ではVV感染によるIL-1βの発現誘導が抑制されていた。さらにマウス個体にVV感染させて検討すると、正常マウスではVV感染6時間後にIL-1β分泌が見られたが、Card9ノックアウトマウスではIL-1βの分泌は誘導されなかった。これらの結果から著者らはRad50/CARD9/Bcl-10に依存した経路がウイルスDNAの細胞質侵入時にセンサーとして機能してIL-1βの発現を誘導し、STINGはこの系路に関与しないと結論した。
 一方、著者らは、STING依存系路はdsDNA侵入によるIFN-βの発現誘導経路のみを制御している可能性を示唆している。しかしながら、我々は大阪大学医学研究科・審良研究室との共同研究において、dsDNAの細胞質侵入によるIL1-1β、IFN-βの発現誘導にはSTINGが関与しており、このSTING経路の活性化にはMRE11がセンサーとして機能し、MRE11とdsDNAとの結合がセンサー機能には重要であり、ヌクレエース活性は必要でないことを報告した(参考文献1)。さらにこの活性化経路にはMRE11とともにRAD50が必要であるが、NBS1, ATMには依存していないことも明らかとしている。このように、Nature Immunologyの論文と異なり、STING依存系路にMRE11/RAD50が関与することを我々は報告しているが、我々の用いた実験系は今回のNature Immunologyの論文とは違うタイプのdsDNAを用いており、MRE11/RAD50はセンサーとして、細胞質に侵入したdsDNAの種類によって、STING依存性経路、非依存性経路を選択的に活性化しているのかもしれない。それゆえ、MRE11/RAD50の細胞質機能のさらなる解明が、ウイルスDNAに対する炎症・免疫系路の活性化を含む細胞応答機構の全容を明らかにする上で重要であると考えられる。
<参考文献>
1.Kondo T, Kobayashi J, Saitoh T, Maruyama K, Ishii KJ, Barber GN, Komatsu K, Akira S, Kawai T. DNA damage sensor MRE11 recognizes cytosolic double-stranded DNA and induces type I interferon by regulating STING trafficking. Proc Natl Acad Sci USA, 110, 2969-2974 2013.