日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

ATMは酸化ストレスに応答してペキソファジー誘導に機能する

論文標題 ATM functions at the peroxisome to induce pexophagy in response to ROS
著者 Zhang J, Tripathi DN, Jing J, Alexander A, Kim J, Powell RT, Dere R, Tait-Mulder J, Lee JH, Paull TT, Pandita RK, Charaka VK, Pandita TK, Kastan MB, Walker CL.
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Nat Cell Biol.17, 1259-1269, 2015.
キーワード ATM , ペルオキシソーム , 酸化ストレス , オートファジー , PEX5

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 ペルオキシソームは脂質代謝、酸化反応を担い、ミトコンドリアと機能が類似するものもあるが、酵素などのマトリックスタンパク質と膜タンパク質を含む一重膜構造からなる。その機能は呼吸(過酸化水素の産生とカタラーゼによる分解)、脂肪酸のβ酸化(アセチルCo-Aの合成)、エーテルリン脂質の生合成、 アミノ基の転移反応・酸化反応、胆汁酸の合成、 ピペコール酸の代謝(リジンの中間代謝物:蓄積により肝障害)、 フィタン酸の代謝(α酸化をへて代謝:蓄積により神経障害)等が知られている。ペルオキシソームを構成するタンパク質を欠損する遺伝病には、Zellweger症候群(常染色体劣性遺伝病)をはじめ複数知られており、Zellweger症候群では新生児より筋緊張低下、肝腫大、精神・運動発達遅延多発奇形で乳児期早期に死亡する。
 毛細血管拡張性運動失調症は進行性小脳失調などの症状から原因遺伝子ATMが酸化ストレス応答に機能することが示唆されてきたが、Paullらにより2010年、ATMが酸化ストレスで活性化されることが報告された。この論文の著者であるWalker博士らは以前の論文でATMがROS(Reactive Oxidative Species)依存的に活性化してオートファジーに機能すること、ROS(過酸化水素処理)処理すると、mTORによる抑制機構がATM依存的に解除されて、ペルオキソファジー(障害ペルオキシソームのオートファジーによる分解)が活性化することを報告していたが、本論文ではATMが直接ペルオキソファジー経路の活性化に機能することを明らかにした。
 最初にペルオキシソーム画分を用いてATM局在を検討すると、ペルオキシソームの膜構造に局在し、過酸化水素処理で活性化することが、ウエスタンブロット法及び免疫蛍光染色法で明らかとなった。ペルオキシソームへの輸送をになうタンパクPEX5の認識配列がATMのC末に存在するが、ATMは過酸化水素処理後にPEX5と結合することが免疫沈降法で明らかとなるとともに、PEX5による認識配列にアミノ酸変異を導入するとATMは過酸化水素処理後もペルオキシソームへ局在できないことが免疫染色法で確認された。PEX5のアミノ酸配列から鳥類からヒトまで保存されている141番目のセリンがATMによりリン酸化されることが予測された。実際、S141のリン酸化を認識する抗体を作製してウエスタンブロット法で検討すると、過酸化水素処理にともないリン酸化が検出され、S141A変異体ではバンドは検出されなかった。さらにATMをノックダウンすると、S141のリン酸化が見られず、過酸化水素処理時にATM依存的にリン酸化されることがわかった。さらに、AT細胞に正常ATMを導入するとPEX5-S141のリン酸化が確認されたが、ATMのPEX5結合部位変異体ではS141のリン酸化は検出されず、ATMによるPEX5のリン酸化にはこれらの結合が必要だと示唆された。
 以前の研究からペルオキシソームが酸化ストレスで障害を受けるとPEX5がユビキチン化し、そのユビキチン化部位にオートファゴソームへのターゲッティングタンパクp62が結合し、オートファジーが活性化されることが知られていた。実際HAタグをつけたUbを過剰発現して確認すると、過酸化水素処理後にPEX5のユビキチン化が確認され、ユビキチン化が予想された部位の一つ、209番目のリジンをアルギニンに置換すると(PEX5-K209R)ユビキチン化は消失し、さらにATMのリン酸化部位の変異体PEX5-S141Aでもユビキチン化が確認されず、ATMのリン酸化がPEX5のユビキチン化に必要と考えられた。
 さらにオートファゴソームターゲッティングタンパクp62は過酸化水素処理によりペルオキシソーム分画に局在するとともに、PEX5との結合が確認された。また、免疫蛍光染色法でもPEX5とともに、ペルオキシソーム膜局在タンパクであるPMP70との共局在も確認された。ただ、PEX5-K209Rでも過酸化水素処理後にp62と結合することが免疫沈降法で確認されたことから、PEX5には他のユビキチン化部位もp62との結合に寄与する可能性がある。
 過酸化水素処理で障害を受けたペルオキシソームはペキソファジーで分解するのはマーカータンパク質PEX1, PEX14の減少(ウエスタンブロット法で)で確認できるが、PEX5-S141あるいはPEX5-K209R発現細胞では、過酸化水素処理後にこれらのマーカータンパク質の減少は見られなかった。また、AT細胞でも同様であった。これらの結果から、ATMはPEX5との結合を介してミトコンドリアにリクルートされ、過酸化水素などでペルオキシソームが障害を受けると活性化され、PEX5をリン酸化、それに続いてユビキチン化が起こり、そのユビキチン化をターゲットにp62と結合、オートファゴサイトに取り込まれ、ペキソファジーによる障害ペルオキシソームが分解されると考えられる。ATMはミトコンドリアへの局在も知られており、ミトコンドリアはオートファジーにより品質管理されることから、今後、ミトファジーへのATMの関与も、明らかにされることが期待される。

<参考文献>
1) Alexander A, Cai SL, Kim J, Nanez A, Sahin M, MacLean KH, Inoki K, Guan KL, Shen J, Person MD, Kusewitt D, Mills GB, Kastan MB, Walker CL.ATM signals to TSC2 in the cytoplasm to regulate mTORC1 in response to ROS. Proc Natl Acad Sci U S A. 107, 4153-4158, 2010.
2) Zhang J, Kim J, Alexander A, Cai S, Tripathi DN, Dere R, Tee AR, Tait-Mulder J, Di Nardo A, Han JM, Kwiatkowski E, Dunlop EA, Dodd KM, Folkerth RD, Faust PL, Kastan MB, Sahin M, Walker CL. A tuberous sclerosis complex signalling node at the peroxisome regulates mTORC1 and autophagy in response to ROS. Nat Cell Biol., 15, 1186-1196, 2013.