DNA損傷応答におけるATM依存、非依存でのSMC1の関与
論文標題 | Involvementof the cohesin protein, Smc1, in Atm-dependent and independent responses to DNA damage |
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著者 | Kim ST, Xu B, Kastan MB. |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Genes and Development 16, 560-570 (2002) |
キーワード | ATM , SMC1 , BRCA1 , 細胞周期チェックポイント , NBS1 |
放射線によるDNA二重鎖切断をはじめとしたDNA損傷に応答するシグナル伝達は、細胞ならびに個体の生存やゲノムの安定性維持に重要である。この放射線で誘発されるDNA損傷に応答するシグナル伝達の上流で機能しているのが、毛細血管拡張性運動失調症(AT)の原因遺伝子ATMである。ATMはPI-3キナーゼドメインを有しp53やナイミーヘン症候群(NBS)原因遺伝子NBS1といった様々な損傷応答タンパクをリン酸化する。今回、その新たな標的タンパクとして、染色分体の対合や凝縮に重要な機能を有するコヒーシンの1つSmc1が同定された。Smc1は、そもそもstructural maintenance of chromosomes (SMC)から名付けられたタンパクで、酵母からヒトまで広く保存されている重要な遺伝子である。Michael Kastan博士のグループは、放射線照射された細胞のライセートをATM抗体で免疫共沈させた試料中にSmc1があることを見出した。Smc1は非照射の細胞やAT患者の細胞でもATM抗体と共沈するが、正常な照射細胞では電気泳動での移動度が非照射細胞のものと異なっており、それがリン酸化によるものであることが明らかになった。Smc1のリン酸化は、主に957-Serおよび966-Serを標的としており、放射線以外にも紫外線(UV)、ヒドロキシ尿素(HU)等のDNA損傷処理によって誘発される。興味深いことに、AT細胞でもSmc1リン酸化は起こる。しかし、それはUVおよびHUに対してのみで、放射線に応答したSmc1リン酸化はAT細胞では起きない。このことから、放射線によるDNA損傷に対してはATMのみがSmc1リン酸化に機能しており、それ以外のDNA損傷ではATM非依存的に(多分ATRによって)Smc1リン酸化が起きていることが推測される。Smc1は、Smc3と二量体を形成してコヒーシンとしての機能を発揮するが、Smc1のリン酸化は二量対形成には影響しない。一方で、リン酸化ドメインを潰した変異型Smc1を正常細胞に高発現させると放射線照射後にDNA合成が停止しなくなる、すなわちS期チェックポイントに異常を呈するようになり、同様の変異型Smc1を高発現させたHeLa細胞は、キナーゼドメインを潰したATMを高発現させた場合と同レベルの放射線高感受性を呈した。この変異型Smc1の効果はAT細胞では認められないため、放射線によるDNA損傷に対するS期チェックポイントと、おそらくは放射線感受性にもATM→Smc1のシグナルが重要であることが示唆される。さらに、放射線に応答したSmc1のリン酸化は、NBS患者細胞やBRCA1欠損細胞で認められない。このことから、Smc1リン酸化はNBS1およびBRCA1依存性と考えられるが、これにはATMによるNBS1やBRCA1のリン酸化は直接関係していないことも明らかとなっている。以上の結果から、放射線によるDNA損傷に応答してSmc1がATM依存的にリン酸化され、NBS1やBRCA1の下流でS期チェックポイントに機能していることが強く示唆された。
放射線によるDNA損傷、とりわけDNA二重鎖切断(dsb)の修復では、何が最初のセンサーであるのか、そしてATMを中心としたシグナルがどのように機能するのか、さらにはdsb修復自体の詳細なメカニズムといったことが未解決のテーマとして残されている。一昨年の後半にヌクレオソームヒストンの一員であるヒストンH2AXのリン酸化がdsb生成に早期に応答して起きることが報告され(文献1)、さらに昨年にはMre11と複合体を作るRad50にも、Smc1よりやや短いSMCモチーフがあり、これがDNA末端同士をつなぎ止めたりするのに寄与している可能性が示唆されている(文献2)。そして今回、コヒーシンであるSmc1のリン酸化が報告された。これらのリン酸化がどのようにして表現型につながってゆくのかということは未解明のままであるが、今回の報告は、DNA損傷の認識とその後の応答にクロマチン構造の変化が直接関与している可能性を強く示唆するものとして注目される。
もっと知りたいあなたに(for further reading):
1) Paull, T. T. et al. A critical role of histone H2AX in recruitment of repair factors to nuclear foci after DNA damage. Current Biol. 10, 886-895, 2000.
2) de Jager, M. et al. Human Rad50/Mre11 is a flexible complex that can thether DNA ends. Mol. Cell 8, 1129-1135, 2001.
3) DユAmours, D. and Jackson, S. P. The MRE11 complex: At the crossroads of DNA repair and checkpoint signaling. Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 3, 317-327, 2002.