日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

劣化ウラン兵器の安全評価に関連する3つの論文 - 最近のHealth Physics誌より-

論文標題 Estimates of radiological risk from depleted uranium weapons in war scenarios.
著者 Durante M, Pugliese M.
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Health Phys. 82, 14-20, 2002.
キーワード 劣化ウラン弾 , リスク , 放射線 , 防護 , 被ばく

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 コソボ紛争(1999年)において劣化ウラン(DU: depleted uranium)を含んだ兵器が大量に使用され、それに起因する健康影響が懸念されている。これに関連して、最近のHealth Physics誌に、(1)モデル計算によるリスクの推定、(2)救援団体職員への被曝評価、(3)兵士の体内のウラン濃度、に関する研究論文が掲載されている。ここでそれらを簡単に紹介する。

(1) Estimation of radiological risk from depleted uranium weapons in war scenarios (Durante and Pugliese: Health Phys., 82, 14-20, 2002).
 汚染経路を大きく2つのシナリオに分け、コンピュータシミュレーションを行っている。1つは、劣化ウラン弾を搭載したトマホークミサイルが着弾した場合であり、エーロゾルとしての大気中へ広がったウランを吸入することによる被曝線量を計算している。また、2つ目は、劣化ウラン弾で地上が汚染されることで、地下水や農作物などに移行し、それらを摂取することによる被曝線量を計算している。種々の仮定により求まる値は異なってくるが、吸入によるものよりも、後者の水を介した経路からの被曝のほうがはるかに大きい線量を示す。しかし、放射線に起因して健康影響が出るほどの値ではないと述べている。

(2) Depleted uranium in Kosovo: an assessment of potential exposure for aid workers (Meddings and Haldimann: Health Phys., 82, 467-472, 2002).
 コソボ紛争の期間3ヶ月以上同地に滞在していた赤十字など救援団体職員(成人31人)から尿試料の提供を受け、それに含まれるウランの濃度をICP-MSを用い分析した。その結果、濃度範囲は3.5~26.9ng/L(平均:8.9ng/L)であった。この値は、文献値に示されている一般の値と比べその範囲内にあり、特別な汚染は見られない。しかし、さらに詳しい評価をするためには、今後、子供たちやウラン弾で攻撃を受けた時に近くにいた人々の調査も必要であろうとしている。

(3) An examination of uranium levels in Canadian Forces personnel who served in the Gulf War and Kosovo (Ough et al.: Health Phys., 82, 527-532, 2002).
 コソボ紛争及び湾岸戦争に従事したカナダ人の兵士(103人)の尿試料のウランのレベルを調べた。ICP-MSを用い分析した結果、0.5~49.5ng/Lの濃度範囲(平均は4.5ng/L)にあり、通常の値と変わらなかった。尿中のウラン濃度は低いため、U-238とU-235の比は測定できなかった。そこで、毛髪(19試料)及び骨(最近死亡した退役軍人より1試料)に含まれるU-238とU-235の比を測定したが、天然ウランの値と同程度であり、劣化ウランによる汚染は認められなかったと報告している。

その他: IAEAのホームページに劣化ウラン関係の記載があり、UNEP や他の機関のレポートもそこから入手できる。
http://www.iaea.org/worldatom/Press/Focus/DU/du_main.shtml