日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

放射線誘発適応応答とバイスタンダー効果の相互作用に関する論文

論文標題 Interaction between Radiation-induced Adaptive Response and Bystander Mutagenesis in Mammalian Cells
著者 Zhou H, Randers-Pehrson G, Geard CR, Brenner DJ, Hall EJ, Hei TK.
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Radiat Res. 160, 512-516, 2003.
キーワード バイスタンダー効果 , マイクロビーム , DNA損傷 , 突然変異 , リスク

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 バイスタンダー効果と適応応答は、低線量放射線の生物影響を評価する上で重要な現象である。本論文において、彼等はバイスタンダー効果と適応応答の関係について調べている。すなわち、バイスタンダー効果は、事前の微量放射線照射により抑制されるのかについて調べている。結果は、微量X線照射によりバイスタンダー効果が抑制された。
 彼等はコロンビア大学の荷電粒子マイクロビーム照射装置を利用し、Human-HamsterハイブリッドAL細胞のCD59遺伝子領域における突然変異頻度をバイスタンダー効果の指標とした。彼等は、細胞集団の10%を照射した時、バイスタンダー効果により非照射細胞でも突然変異が誘導されることを以前に報告しているが、本研究では、このバイスタンダー効果が微量X線の事前照射により抑制されるか否かについて調べた。その結果、X線0.02Gyまたは0.1Gyをマイクロビーム照射の4時間前に全細胞へ照射すると、X線事前照射無しの場合に比べて突然変異頻度が減少した。したがって、バイスタンダー効果は微量X線の事前照射により抑制されることがわかった。
 今回の結果は、低線量放射線照射により細胞がバイスタンダー効果に抵抗性になったことを示している。低線量放射線による何らかのタンパクの誘導がバイスタンダー効果の発現を防いだと示唆される。
 一方、バイスタンダー効果が低線量X線のような適応応答現象を誘発するか否かについても検討している。彼等は、マイクロビームで細胞集団の10%を照射し、その4時間後、3GyのX線照射後の突然変異頻度を検討した。その結果、マイクロビーム照射により、3GyのX線照射により誘発される突然変異が抑制されることはなかった。
 低線量放射線のリスク評価にとって重要な現象を示した興味深い論文であるが、バイスタンダー効果の機構については依然として不明な点が多く残されているので、さらなる解析が必要である。