日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

放射線誘発DNA二本鎖切断の修復はその損傷の質と構造の複雑さに左右される

論文標題 Repair of Radiation-Induced DNA Double-Strand Breaks is Dependent upon Radiation Quality and the Structural Complexity of Double-Strand Breaks
著者 Pastwa E, Neumann RD, Mezhevaya K, Winters TA.
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Radiat Res.159, :251-261, 2003.
キーワード DNA損傷 , DSB , DNA修復 , 放射線 , 再結合

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 化学物質や低LET放射線によって複雑なDNA損傷が生成されるが、特に、高LET放射線によって非常に複雑なDNA損傷、例えば、ある損傷の近傍に別の損傷が存在するようなクラスター損傷が生成される。しかし、哺乳動物細胞では主にDNA2本鎖切断(DSB)はnonhomologous end joining(NHEJ)によって修復される。そこで、このような複雑な構造をもったDBSのNHEJ能を評価するため、in vitroでのDSB修復実験を行った。
 プラスミドDNAを用いて、制限酵素(StuI)、ブレオマイシンおよびγ線によるDSB、および125I decay処理、つまり、125Iをラベリングしたオリゴヌクレオチドとtemplateプラスミドによってtriple-forming oligonucleotide(TFO)作成し部位特異的に高LET放射線によるDNA損傷と類似したクラスター損傷などのDSBに対するNHEJ能を評価した。修復酵素としてはHela細胞のextract、EndoⅣ、T4 ligase およびEndoⅣとT4 ligaseの組み合わせによる再結合反応を調べた。
 ブレオマイシン処理によるDSBはT4 ligaseのみでは再結合しないが、EndoⅣとT4 ligaseの組み合わせ処理によって制限酵素(StuI)処理と同程度まで再結合した。このことからブレオマイシンによるDSBの構造は、3’-phosphoglycolate末端をもったblunt endであると考えている。γ線照射したとき、EndoⅣとT4 ligaseの組み合わせ処理での再結合率はブレオマイシンや制限酵素の再結合率の半分であった。このことからγ線照射でのDSBの末端は、より複雑な構造であると考えている。ところが、T4 ligaseのみの処理による再結合率はEndoⅣとT4 ligaseの組み合わせ処理の再結合率の4割程度であった。これらのことからγ線照射によるDSBは複雑な構造や3’-OH末端をもった非常に修復が容易な構造であることを示唆した。次に125Iをラベリングしたオリゴヌクレオチドによる部位特異的DSBに対しては、EndoⅣとT4 ligaseの組み合わせ処理での再結合率はγ線照射の再結合率の1/6あり、DSB の断端部をEndoⅣで除去することによってわずかに再結合する程度であった。この結果は高LET放射線などによるクラスター損傷は非常に修復が困難であると示している。さらに、γ線照射や125Iをラベリングしたオリゴヌクレオチド処理においてHela細胞のextract処理による再結合率がEndoⅣとT4 ligaseの組み合わせ処理の再結合率よりかなり低下していた。そこでこの違いを検証するため、γ線照射後に生成されたopen circular にStuIによってDSBを産生させた後、上記の酵素処理を行った。T4 ligaseのみの処理やEndoⅣとT4 ligaseの組み合わせ処理では再結合をするが、やはり、Hela細胞のextract処理での再結合率は低くかった。このことから、制限酵素で切断した再結合容易なDSBもその近傍に別の損傷があるとHela細胞のend joining に関する分子はそのDSBを再結合出来ないと考えている。
 このようにNHEJ能はDBSの切断端の構造に依存するだけでなく、DSBの近傍に別の損傷があるようなクラスター損傷に対して非常に阻害されると報告している。