BLM欠損ES細胞を用いた遺伝子スクリーニングにより同定されたミスマッチ遺伝子
論文標題 | Mismatch repair genes identified using genetic screens in Blm-deficient embryonic stem cells |
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著者 | Guo G, Wang W, Bradley A. |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Nature 429, 891-895, 2004 |
キーワード | ブルーム症候群 , ミスマッチ修復 , SCE , HR , ゲノム不安定性 |
染色体レベルでゲノム不安定性を示す疾患としてファンコニ貧血、ブルーム症候群、血管拡張性運動失調症およびナイミーヘン症候群などが知られる。このうちブルーム症候群は自然発生的に姉妹染色分体交換が多く観察されている。この姉妹染色分体交換という性質を用いて、2倍体生物で表現型に基づいた劣性遺伝子のスクリーニング法が開発された。
御存じのように一般に培養細胞でホモ接合体の変異を作成することはホモ接合の変異マウスから細胞を樹立するなどするしか方法がなく、困難であり、このことが劣性遺伝子のスクリーニングの制限となる。そこで著者たちはこのブルーム症候群の姉妹染色分体交換という性質に目をつけた。彼等は以前にブルーム症候群欠損ES細胞を樹立しており、この細胞が野生型と比較して姉妹染色分体交換が上昇することを観察している。彼等の計算では一つのヘテロ接合体の変異が13世代まで増加した時ゲノム全域にホモ接合体の変異が含まれることになるとしている。
さて、ではどのようにヘテロ接合体に変異を導入するかであるが、著者たちはここでさらに巧妙なレトロウイルスを用いたRevertible gene trap mutagenesisと言う手法を作成している。この利点は挿入された遺伝子領域が分かりやすいということとCre-loxのシステムとスプライシングアクセプターを用いて復帰可能な変異を入れることがあげられる(くわしくは論文を見て下さい。説明が難しい??)。この手法をもちいて、ヘテロ接合の変異をブルーム症候群欠損ES細胞中で作成し、その高頻度な姉妹染色分体交換によりホモ接合体の変異をもつ細胞のライブラリーを作成した。
このライブラリーを用いて、6-TG抵抗性のスクリーニングにより、ミスマッチ修復欠損細胞を探索した(ミスマッチ修復欠損細胞は6-TGに対して抵抗性であることが知られている)。その結果、著者たちはMsh6およびDnmt1に変異をもつ細胞を得た。Msh6はもちろん良く知られたミスマッチ修復遺伝子である。一方、Dnmt1はDNAメチル転位酵素で、そのミスマッチ修復への直接の関与は示されてなかった。しかしながら、そのDnmt1酵素の欠損細胞における変異率は高く、さらにその欠損マウスは高発がん性をもつことが知られていた。著者たちはミスマッチ修復が欠損で生じると考えられているマイクロサテライトインスタビリティーをDnmt1欠損細胞でこの調べたところ確かに上昇していたことを確認した。このことはDnmt1がミスマッチ修復に関与していることさらにこのスクリーニング方法が有効であることを示唆している。
同じ号のこの後にブルーム症候群遺伝子を欠損させるために、テトラサイクリンで調節できるように改変したES細胞を作成したグループの報告がある。基本的には同じアイデアで、ゲノムの二倍体である制約を解決するためブルーム症候群でおこる姉妹染色分体を利用している。彼等はヘテロ接合の変異のためにENUを用いてES細胞ライブラリーを作成し、グルコシルホスファチジルイノシトールアンカー生合成の変異体のスクリーニングをしている。
(Genome-wide phenotype analysis in ES cells by regulated disruption of Bloom's syndrome gene KOSUKE YUSA, KYOJI HORIE, GEN KONDOH, MICHIYOSHI KOUNO, YUSUKE MAEDA, TAROH KINOSHITA & JUNJI TAKEDA)
どちらの結果も基本的にはこのブルーム症候群遺伝子欠損ES細胞の姉妹染色分体の性質を利用したことにより、ヘテロに生じた変異をホモにすることができたと言うことを示しており、ほ乳類における表現型に基づく遺伝子スクリーニングは非常に有効であると考えられる。