中心小体サテライトの再構成及び繊毛形成を起こす新規の細胞ストレス応答経路
論文標題 | A new cellular stress response that triggers centriolar satellite reorganization and ciliogenesis |
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著者 | Villumsen BH, Danielsen JR, Povlsen L, Sylvestersen KB, Merdes A, Beli P, Yang YG, Choudhary C, Nielsen ML, Mailand N, Bekker-Jensen S |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
EMBO J. 32, 3029-3040, 2013 |
キーワード | 中心体 , 細胞ストレス , 繊毛形成 |
<はじめに>
一般に放射線、紫外線による細胞ストレス応答といえばまずDNA損傷応答が挙げられるが、それ以外の細胞内の応答は十分に研究されておらず不明な点が多い。今回筆者らは紫外線照射による新規の細胞内ストレス応答経路としてp38経路とMIB1経路による中心小体サテライトの再構成と繊毛形成を見いだした。
<中心小体サテライトとは?>
中心小体は中心体を構成する複合体であり、繊毛形成にも必須である。一方、中心小体サテライトとは70-100nmの粒状構造で中心体の周囲に局在する。中心小体サテライトは中心体タンパク質や中心小体サテライトタンパク質が局在しており、そういったタンパク質の倉庫的役割を担うものと考えられていたが、現在では、細胞分裂、一次繊毛形成の鍵となる細胞内小器官であることが明らかになってきた。
また、中心小体周辺物質(Pericentriolar Material; PCM)の構成タンパク質と当初考えられていたPCM1は、中心小体サテライトの足場タンパク質である事が近年明らかになり、CEP290、CEP90、CEP72、CEP70、AZI1/CEP131、OFD1等多くのタンパク質の中心小体サテライトへのリクルートに必須である事が明らかになっている。
<タンパク質の修飾による細胞ストレス応答>
放射線、紫外線による細胞内応答としてはATM、ATR依存的タンパク質のリン酸化によるDNA損傷応答及び細胞周期チェックポイントが知られている。それら以外に細胞ストレス応答リン酸化酵素としてp38/MAP kinaseの活性化も重要である。また、タンパク質のリン酸化以外にもユビキチン化、SUMO化等多くのシグナルを介して制御されている。
<紫外線照射依存的なp38経路を介した中心小体サテライトタンパク質局在の変動>
まず筆者らは、紫外線照射後に中心小体サテライトタンパク質がリン酸化やユビキチン化依存的な制御を受けていることに注目した。そして紫外線照射後、中心小体サテライトタンパク質であるAZI1、PCM1、CEP290がp38依存的に中心小体サテライトへの局在が減少する事を見いだした。紫外線以外にも紫外線疑似化学薬剤4NQO、熱ショック、転写阻害剤のDRBやアクチノマイシンDでも同様の結果が得られた。一方、興味深い事に放射線では同じ現象が見られなかった。
<E3ユビキチンリガーゼMIB1によるAZI1とPCM1のユビキチン化を介した一次繊毛形成の抑制>
次に筆者らは組換えタンパク質のプルダウンアッセイとMASS解析によりAZI1に結合する新規のタンパク質としてE3ユビキチンリガーゼであるMIB1を同定した。MIB1も中心小体サテライトに局在するが、紫外線照射後にその局在が減少する事、MIB1のノックダウン細胞ではAZI1、PCM1のユビキチン化及びMIB1の自己ユビキチン化が減少する事からMIB1がそれらをユビキチン化している事がわかった。さらにMIB1によるAZI1、PCM1のユビキチン化により細胞増殖時に繊毛形成を抑制している事を見いだした。
<E3ユビキチンリガーゼMIB1によるとp38による独立した一次繊毛形成の抑制>
さらに筆者らはRPE1細胞において紫外線照射及び熱ショックにより一次繊毛形成が誘導される事を見いだし、p38の阻害剤、及びMIB1のノックダウン実験により一次繊毛形成の制御にp38とMIB1がそれぞれ独立して関与している事を発見した。
<まとめ>
本論文で筆者らは放射線を除く種々の細胞外刺激、紫外線、熱ショックにより中心小体サテライトタンパク質の局在変化、一次繊毛形成を見いだし、それらの分子制御にp38依存的、ユビキチンリガーゼMIB1依存的な2つの新規分子経路を見いだした。繊毛形成制御は発生過程でも非常に重要であり、その破綻は内蔵の表裏逆位、左右逆位など重篤な遺伝性疾患として現れる。本論文で示されたような細胞外刺激による繊毛形成の生理的意義は不明な点が多く、DNA損傷応答シグナルとの関連性も不明なままである。また、紫外線で見られる現象が、放射線では見られないというのも興味深い。これらの刺激応答にDNA損傷応答が関与しているのかどうかも気になる点である。これらの応答が生物の恒常性維持に重要である事は疑いようがなく、今後の研究の進展が楽しみな分野である。