日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

協調的なヌクレアーゼ活性はsingle-endのDNA二重鎖切断部位でKuの存在を打ち消す

論文標題 Coordinated nuclease activities counteract Ku at single-ended DNA double-strand breaks
著者 Chanut P, Britton S, Coates J, Jackson SP, Calsou P
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Nat Commun. 7: 12889, 2016
キーワード single-ended DSB , 相同組換え , Ku , CtIP , MRE11

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<はじめに>
放射線や紫外線、活性酸素などによって生じる様々なDNA損傷の中で最も重篤な損傷はDNA二重鎖切断 (DSB) である。DSBはDNA複製や細胞分裂の際に生成されることもあり、複製フォークの進行中にDNA損傷と衝突した際などに産生される末端を1つしか持たないDSBをsingle-ended DSB (seDSB)と呼ぶ。1つのDSBでさえゲノム完全性の脅威となり、DSBの不適切な修復はゲノム不安定性だけでなく細胞致死や突然変異につながる可能性がある。seDSBは相同組換え(HR) により修復されると報告されているが、詳細なメカニズムには不明な点が多い。本論文ではPatrick Calsou博士らのグループがseDSBの修復機構の初期過程の解明を試みた。

<seDSB修復>
通常のDSBは主に非相同末端結合 (C-NHEJ) および相同組換え (HR) の2つの経路によって修復される。C-NHEJは2つの末端を持つDSBであれば修復する能力を持っているが、末端を1つしか持たないseDSB に対しては修復するメカニズムとして利用できない。seDSBの修復には、エキソヌクレアーゼ活性により3’-突出一本鎖DNA を生成するDNAエンドリセクションが必要であり、HRによって優先的に修復される。また、二重鎖DNA末端と高い親和性を持つKuタンパク質は細胞内に豊富に存在し、ヒト細胞においてseDSBを含むフリーの二重鎖末端に迅速に結合する。末端に結合したKuはHR進行を妨害する可能性があるため、seDSBを修復するためには除去される必要があるが、その機構は未だに明らかとなっていないのが現状である。

<結果>
本論文ではトポイソメラーゼI (Topo I) 阻害剤であるcamptothecin (CPT) を処理する事でDNAとTopo Iの安定的な複合体を形成させ、複製フォーク停止に付随するseDSBを誘導する系を用いている。
1.CPTを処理すると、HRで重要とされるDNAエンドリセクションの指標であるRPAのリン酸化が誘導された。RPAのリン酸化はDNA-PKcsキナーゼ活性を阻害することで抑制されたことから、DNA-PKcsはCPTによって産生されたseDSBsに集積してRPAをリン酸化すると考えられた。また、Ku70-Mut6E (DNA末端と相互作用できない変異体) はRPAフォーカス形成に影響することはなかったが、リン酸化されたRPAのフォーカス数と蛍光強度は減少させたことから、KuがDNAに結合できない場合、RPAのリン酸化には影響を及ぼすけれども、DNAエンドリセクション自体には影響を与えることはないことも示された。よって、KuはCPTによって産生されたseDSBsに集積してRPAのリン酸化を仲介する機能的なDNA-PK複合体の集積を促進すると考えられた。

2.DNAエンドリセクションにおいて機能するCtIPをノックダウンすると、CPTを処理した細胞においてKuフォーカスが残存したままであったことから、CtIPはseDSBs上において集積したKuを取り除くために重要な役割を果たしていると考えられた。また、CtIPノックダウン細胞でATM特異的阻害剤 (KU55933) 処理の有無によってKuフォーカス数の増減が見られなかったことからATMとCtIPは同じ経路で機能していること、ATM依存的なリン酸化部位であるS664, S679, S745をAlaに置換したCtIP変異体を導入した細胞ではCPTに対する応答においてKuフォーカスが残存したままであったことから、ATMが仲介するCtIPのリン酸化はseDSBsに残存したままのKuを積極的に取り除くCtIPの機能を制御するために役割を果たす可能性が示された。

3.HRにおいて主要な役割を果たすMRE11の変異体であるMRE11-H129N (エンドヌクレアーゼ活性とエキソヌクレアーゼ活性の両方を不活化した変異体) の発現によって、CtIPノックダウン細胞と同様にCPT処理後のDNAエンドリセクションが欠落し、Ku フォーカスは消失せずに残り続けた。この結果から、MRE11ヌクレーゼ活性はseDSBsに集積したKuフォーカスの消失過程に関与する事が示唆された。また、MRE11-H129N変異体発現細胞でCtIPをノックダウンしてもCPT処理後のKuフォーカス数が変化しなかった事から、MRE11ヌクレアーゼ活性とCtIPは同じ経路で機能すると考えられた。

4.CtIP-NAHA (N289, H290をAlaに置換してフラップエンドヌクレアーゼ活性を選択的に不活性化した変異体) はseDSBsでのKuの集積を部分的に抑制した。また、MRE11-H129N変異体とCtIP-NAHA変異体の同時発現は、それぞれの単独発現と比較して、CPT処理後のKuフォーカス数が同程度であったことから、MRE11エキソヌクレアーゼ活性とCtIPフラップエンドヌクレアーゼ活性はseDSB部位からKuを解離させる過程において同じ経路で機能することが示された。

5.MRE11-H63N (エキソヌクレアーゼ活性を選択的に欠損した変異体) の発現でKu フォーカスが残存し続ける状態においてもDNAエンドリセクションは影響を受けなかったことから、DNAエンドリセクションとRPAのローディングはKu存在下でも進行できると考えられた。また、MRE11-H63N変異体発現細胞において、RAD51フォーカス形成能が明らかに減少していたことは、RAD51によるRPAの効率的な置換はDNA末端からKuが除去されて離れることが必要であることを示唆する。

<おわりに>
著者らは以下のseDSB修復機構の初期過程モデルを提案している。
KuとMRE11-RAD50-NBS1 (MRN) 複合体は同時にseDSBを認識する。Kuは活性型DNA-PK複合体を形成するためにDNA-PKcsをリクルートし、MRN複合体はCtIPのリン酸化を仲介するATMをリクルートする。CtIPのリン酸化はニックを生成するためにMRE11エンドヌクレアーゼを活性化し、EXO1およびDNA2によってニックが拡張される。産生された一本鎖DNAにRPAがリクルートされ、DNA-PK複合体によってリン酸化される。その後、MRE11エキソヌクレアーゼ活性によってKuに隣接したDNAがプロセシングされ、CtIPエンドヌクレアーゼ活性によってKuはリリースされる。その後、フリーの一本鎖DNAはRAD51とRPAの置換を経てHRが進行する。
著者らはMRE11とCtIPのヌクレアーゼ活性の協調によりDNA損傷をDNA末端側からではなくDNA損傷の側面から修復するというメカニズムが、タンパク質や大きなDNA付加物でマスクされたDNA損傷、減数分裂中に生じたDNA切断、重粒子線によって生じる複雑なDSBなどのC-NHEJでは修復できないDNA損傷において有効な修復方法であると考察している。本論文で示された新たな修復メカニズムは特に複雑なDSB修復に関連する可能性が示唆されており、さらに詳細なDNA損傷修復メカニズムが明らかになることが期待される。