DNAを検知するAIM2インフラマソームによる放射線誘発細胞死と組織障害の制御
論文標題 | The DNA-sensing AIM2 inflammasome controls radiation-induced cell death and tissue injury |
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著者 | Hu B, Jin C, Li HB, Tong J, Ouyang X, Cetinbas NM, Zhu S, Strowig T, Lam FC, Zhao C, Henao-Mejia J, Yilmaz O, Fitzgerald KA, Eisenbarth SC, Elinav E, Flavell RA. |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Science 354: 765-768, 2016 |
キーワード | インフラマソーム , AIM2 , 放射線誘発細胞死 , 骨髄死 , 腸死 |
全身に2Gy以上の放射線を浴びると30日以内に造血不全になり(骨髄死)、10Gy以上の放射線を浴びると10日以内にGastrointestinal (GI) 症候群になる(腸死)。これらの急性放射線障害については良く知られているが、そのメカニズムについては未だ議論が続いている。GI症候群は放射線治療・化学療法を受けたがん患者のDNA損傷による合併症としても珍しくないが、効果的な処置がないのが現状である。それゆえ、DNA損傷応答の細胞死や組織障害の根本的なメカニズムへのより深い理解が重要である。
AIM2は、自然免疫に関わるNLRP1、NLRP3、NLRC4、NLRP6などとともに、パターン認識受容体の一つであり、細胞質でのDNAセンサーとして働くとされている。AIM2はアダプター蛋白質ASCを介してInflammasomeという多数の蛋白質からなる複合体を形成し、Caspase1の活性化、IL1β分泌、ピロトーシスpyroptosisと呼ばれる細胞死をもたらす。Inflammasomeは腸内細菌叢、組織修復などを通した腸管組織の恒常性の重大な制御因子である。しかしながら、放射線誘導性の腸管損傷におけるInflammasomeの役割はよくわかっていない。
今回筆者らは、Inflammasomeを形成する分子の中でもAIM2に着目して、放射線誘導性の細胞死との関係を調べた。
初めに筆者らは、AIM2 Inflammasomeの放射線による腸管の障害への役割を調べた。AIM2、Caspase1、ASC欠損マウスでは、いずれも野生型マウス(WT)と比較して骨髄を遮蔽した部分照射によるGI症候群への感受性が著しく低いことがわかった。また、AIM2と同様にInflammasomeを形成するNLRP3、NLRC4欠損マウスではWTと比較して感受性の差はなかった。このことから、放射線による腸管の損傷のコントロールについてAIM2 Inflammasomeの特異的な役割が考えられる。
AIM2欠損マウスの部分照射後の小腸にTUNEL染色を行ったところ、WTと比較してTUNEL陽性の細胞死が減少した。このとき、アポトーシスを媒介する活性化Caspase3とCaspase7の量は同様であった。したがって、AIM2欠損マウスでのTUNEL陽性の細胞の減少はアポトーシスではなく、Caspase1が媒介するピロトーシスの減少によるものだということが分かった。AIM2欠損マウスにおける照射後の小腸の陰窩を観察すると、WTと比較して生存率・再生率ともに高かった。また、陰窩由来のオルガノイドでもWTと比較して放射線抵抗性を示した。これらのデータは、AIM2 Inflammasomeが腸陰窩内で放射線誘導性のピロトーシスを媒介することを示している。
次に筆者らは、AIM2 Inflammasomeは骨髄の放射線感受性にも関与するのかを調べた。WTでは全身照射後2週間後には約50%が造血不全により死亡したが、AIM2、Capsase1欠損マウスではそれぞれ1か月を超えても生存した。AIM2が媒介する放射線感受性の細胞学的なメカニズムを調べるために骨髄由来マクロファージ(BMDMs)を用いた実験を行ったところ、AIM2欠損BMDMsでは放射線照射後、活性型Caspase1量が、WTに比較して低下していた。また、AIM2欠損BMDMsはWTと比較してIL-1β分泌量が低かった。これらのことから、放射線が造血系の細胞においてもAIM2 Inflammasomeを活性化したことが分かる。
AIM2欠損BMDMsは放射線照射のみならず、抗がん剤であるドキシソルビンやエトポシドの投与に対してWTと比較して高い抵抗性を示したが、UV照射に対しては差が見られなかった。この発見からAIM2 Inflammasomeは放射線や化学療法薬によるDNA二重鎖切断が原因の細胞死に特に関与することが示唆される。
最後に筆者らは、AIM2 Inflammasomeが放射線に応答する分子メカニズムを明らかにする実験を行った。まずAIM2-FlagノックインマウスのBMDMsに放射線を照射したところ、核内にAIM2の集積が見られた。また、放射線照射後(80Gyという高線量を使用している点に抵抗を感じるが)AIM2はγ-H2AXと共局在しており、AIM2とγ-H2AXとの間にCo-IPで強い相互作用を検出した。このことから、AIM2が核内のDNA損傷部位にリクルートされたこと示唆される。次にAIM2-Flag、ASC-HAダブルノックインマウスのBMDMsに放射線を照射したところ、核内でのAIM2とASCの斑点状の共局在が検出された。これらのことから、核内での放射線に応答したInflammasomeの形成と活性化が示された。
以上の結果から、筆者らは放射線による核内のDNA損傷部位の感知にAIM2が予想外の役割を果たしていることを示した。マウス照射実験では7〜14Gy程度を使用しつつ、インビトロの実験では40−80Gyを主に使用している点が気になるものの、AIM2 Inflammasomeを抑制することにより放射線誘導性のGI症候群、造血不全を改善することが期待できそうである。AIM2 Inflammasomeの活性化を抑える薬物が被ばく後の急性放射線障害や、がん患者の放射線治療・化学療法からくる合併症への処置として効果的である可能性があり、今後の展開が期待される。