日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

DNA依存的なメタロプロテアーゼSPRTNによるDNA蛋白質架橋の機構と制御

論文標題 Mechanism and Regulation of DNA-Protein Crosslink Repair by the DNA-Dependent Metalloprotease SPRTN
著者 Stingele J, Bellelli R, Alte F, Hewitt G, Sarek G, Maslen SL, Tsutakawa SE, Borg A, Kjaer S, Tainer JA, Skehel JM, Groll M, Boulton SJ
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Mol. Cell 64:688-703, 2016
キーワード DNA蛋白質架橋 , DNA修復 , DVC1 , ホルムアルデヒド , 肝細胞がん

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 DNA蛋白質架橋(DNA-protein crosslinks; DPCs)は、ionizing radiation(IR)やUV、そしてシスプラチンなどの薬剤によって外因的に引き起こされるだけでなく、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒドのような内因的に産生された反応性代謝物や、カンプトテシン(CPT)によるトポイソメラーゼ1(TOP1)活性阻害時のTOP1のDNA末端へのトラップ等によっても誘導される。Spartan(SPRTN, 別名DVC1)の生殖細胞変異は、早老症や早期発症肝細胞がんが特徴的な疾患であるRuijs-Aalfs症候群(RJALS)の原因である(Lessel et al., 2014)。SPRTN欠損マウスは胎児期に致死となり、ハイポモルフィックマウスは早老症とゲノムの不安定性を示す(Maskey et al., 2014)ことがすでに報告されており、SPRTNがゲノムの安定性に明らかに必要な一方、その分子的機能は未だ不明瞭である。Stingeleらは、今回紹介する論文で、SPRTNのDNA依存的なプロテアーゼ活性の機構、クロマチンへのリクルート制御やSPRTNの自己分解に基づく活性の制御を明らかにした。

 最初に筆者らは、SPRTN欠損の線虫のL1幼虫でIR、UV、様々な薬剤への感受性を検討した。結果として、DPCを誘導するホルムアルデヒドで最も感受性を示した。加えて、SPRTNをノックダウンしたU2OS細胞でも同様の結果が得られた。さらに、DNA鎖間架橋(Interstrand crosslinks; ICLs)に感受性があるファンコニ貧血(Fanconi anemia; FA)の原因遺伝子であるFANCD2欠損の線虫や、Bloom症候群で欠損するヘリカーゼBLM(Him-6)欠損の線虫でホルムアルデヒドの感受性を検討した結果、どちらもほとんど感受性を示さなかった。次に、KCl/SDS沈降アッセイを用いてDPCレベルを測定し、その修復を評価した。4-hydroxy tamoxifen[4-OHT]によってSPRTN欠損を誘導できるよう細工したマウス胎児繊維芽細胞(MEF)は、ホルムアルデヒド処理後、DPCをほとんど修復できなかった。同様に4-OHTによってFANCD2欠損を誘導したMEFにおいては、DPCは時間経過とともに修復された。したがって、SPRTNはDPCに感受性を示し、FANCD2・BLMとは非依存的に機能することが明らかになった。

 次に筆者らは、タグ付きSPRTN(GST-SPRTN-Strep)の野生型とプロテアーゼドメイン変異型(E112Q)を用いてSPRTNのプロテアーゼ活性を検討した。single-stranded DNA(ssDNA)とインキュベートした結果、野生型ではSPRTNを分解し、DNA結合蛋白質であるヒストンH1, H2A, H2B, H3も分解した。double-stranded DNA(dsDNA)とインキュベートした際は、SPRTNは自己のみを分解した。加えて、酵母のWss1においてもSPRTNと同様の性質を示した。なお、E112QのDNA結合はelectrophoretic mobility shift assay(EMSA)で陽性であった。さらに、プロテアーゼ活性を有するC末欠損のSPRTN 1-199の変異型で検討したところ、DNAとの結合は認められず、ssDNAとインキュベートした結果、SPRTNおよびH1は分解されなかった。以上の結果は、DNAに結合することでオンとなるDNAスイッチがSPRTNのプロテアーゼ活性の活性化を制御していることを示している。

 次に、single-wavelength anomalous dispersion(SAD)により、分裂酵母のSPRTN/Wss1の構造を決定した。GST-SPRTN-StrepのE112Q変異型をDNA非存在下、ssDNAあるいはdsDNAの存在下でトリプシン分解した結果、DNA非存在下とDNA存在下において断片出現のパターンが異なり、DNAの結合によってSPRTNの立体構造が変化することが示された。さらにDNAによる立体構造の変化を詳細に解析するため、small angle X-ray scattering(SAXS)により、SPRTNとssDNAが結合したSPRTNとで、その柔軟性を比較した。結果として、ssDNAが結合したSPRTNでより柔軟性を示した。したがって、SPRTNの立体構造の変化が、DNA結合によって誘導されることが示唆される。

 ドキシサイクリン誘導性のYFP-SPRTN-Strep HeLa Flp-In TRex細胞をIR、UV、様々な薬剤で処理したところ、モノユビキチン化に相当するバンドが認められた。このバンドは、ホルムアルデヒド処理によって消失(脱ユビキチン化)し、SPRTNはクロマチンにリクルートされた。このことは、SPRTNのクロマチンへのリクルートは、DPCsが誘導する脱ユビキチン化(ユビキチンスイッチ)によって制御されることを示している。RJALS患者で同定された変異であるSPRTN-ΔC(1-246-X8)は細胞内で高発現および誤局在を示したが、ホルムアルデヒドで処理した場合には、クロマチンへリクルートされた。さらに、同細胞の野生型とΔCにおいて、ホルムアルデヒドで処理したSPRTNのノックダウンの生存率を比較すると、ΔCでは部分的にホルムアルデヒドへの感受性の補完が認められた。これは、ΔC欠損ではSPRTN活性が残存しており、RJALS患者が生存していることに一致している。

 次に、GST-SPRTN-Strep 野生型と YFP-E112Q-Strepを共にDNA存在下でインキュベートしたところ、活性を失ったYFP-SPRTNの分解が認められ、SPRTNの自己分解はトランスで起こることが示された。さらに、ドキシサイクリン誘導性のYFP-SPRTN-Strep HeLa Flp-In TRex細胞の野生型とE112Qにおいて、野生型でSPRTNの断片が認められ、SPRTNの自己分解は細胞内でも起こることが示された。加えて、SPRTNの断片はホルムアルデヒドの曝露によって増加した。したがって、SPRTNの自己分解はSPRTNによるDPC修復とリンクしていることが示唆される。筆者らが、同細胞の野生型とE112QでレーザーによるDNA損傷部位へのSPRTNのリクルートの動態をfluorescence recovery after photobleaching(FRAP)によって調べた結果、野生型に比べて、E112Qは回復が遅かった。このことから、SPRTNの自己分解は、SPRTNがDNA損傷部位から除去されるための重要な役割を担っていることが示唆される。

 これらの結果から、著者らは以下のDPC修復分子機構を提示している。ユビキチンスイッチはSPRTN活性の最上流制御機構で、SPRTNのクロマチンへのリクルートを制御する。モノユビキチン化されたSPRTNはクロマチンから排除され、ホルムアルデヒドによるDPCsの誘導は、脱ユビキチン化のきっかけとなり、クロマチンへの再局在を可能にする。クロマチン結合後にオンされるはずのDNAスイッチには、2つの様式があり、1つはdsDNAとの結合で、SPRTNにプロテアーゼ活性を与え、自己のみを分解する。これに対し、ssDNAとの結合はSPRTNの自己分解に加え、基質蛋白質の分解も誘導する。DNAとの結合はSPRTNの立体構造の変化を誘導する。そして、ホルムアルデヒドによるDPCsの誘導後、脱ユビキチン化とクロマチンへの再局在化だけでなくSPRTNの自己分解も増加しており、これによってネガティブにSPRTNの活性を調節する自己触媒オフスイッチという機構をも明らかにした。これらに加えて、今後、SPRTNのユビキチン化・脱ユビキチン化に関わる分子の同定がSPRTN制御の理解に非常に重要である。

 SPRTNの哺乳類生存における必要性は、DPCsが細胞内で潜在的にかなりのレベルで起こることを示唆している。これに比べて、ICLsの発生頻度は、ファンコニ貧血経路の欠損では生命が維持されることから、より低いものと想定される。さらに、DPC修復欠損は、ICL修復欠損よりも強いシスプラチン感受性を示しており、その重要性が示唆される。シスプラチン誘導体は卵巣・大腸がんの治療に用いられているため、SPRTNの阻害によるDPC修復の阻害は、分裂がん細胞への化学療法を改善する開発ができるような有効な治療開発への道筋となるかもしれない。


参考文献
Lessel, D., Vaz, B., Halder, S., Lockhart, P.J., Marinovic-Terzic, I., Lopez-Mosqueda, J., Philipp, M., Sim, J.C., Smith, K.R., Oehler, J., et al.(2014). Mutations in SPRTN cause early onset hepatocellular carcinoma, genomic instability and progeroid features. Nat Genet.46, 1239-1244.

Maskey, R.S. , Kim, M.S. , Baker, D.J. , Childs, B. , Malureanu, L.A. , Jeganathan, K.B. , Machida, Y. , van Deursen, J.M. , and Machida, Y.J. (2014). Spartan deficiency causes genomic instability and progeroid phenotypes. Nat. Commun. 5, 5744.