日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

書評:エネルギーの視点から見た放射線 〜強(こわ)くて、恐(こわ)いけど、怖(こわ)くない

論文標題 -
著者 田辺 哲朗
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
総頁数:178ページ (本体2,700円+税)、2018年1月25日、九州大学出版会
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 2018年1月25日に発刊された田辺哲朗名古屋大学および九州大学名誉教授が著者である本書では、放射線について工学研究者の視点から公平に「強い」放射線の「恐さ」と価値、それと将来の可能性を論じている。科学者の視点に立ちながらも平易な表現で放射線の正体(エネルギーを運び与えるもの)を詳細かつ丁寧に説明されており、高等学校で教えられている科学教育の知識をもとに記載された、放射線についての啓蒙書である。放射線の性状、生物影響、計測、利用・応用などの広範な分野において、「エネルギーの視点」から説明されている。説明には数式を交えつつ、かつ、紹介された数式についてはその計算過程が記されており、理解の一助となっている。索引を含めて全178ページで、イラストや表がふんだんに用いられており、本書のねらいとしてまえがきに記されている「正しい理解を得ていただける」工夫が随所に見られる。さらに、付録として「放射線についてのQ & A」が15題設定されており、その回答部分には本書の関連部分が記されていることも理解をさらに高める手助けとなっている。
 放射線の本質でありながら見過ごされがちな「エネルギーを運ぶ」という働きについて本書全体を通じて一貫した説明がなされており、放射線が及ぼすリスクと効用が記載されている。これは副題の「強くて、恐いけど、怖くない」が記しているとおりである。福島原発事故以来、放射線の危険性に関する情報が散見されている。本書を読破すれば、放射線とは身近にある高いエネルギーを持つ粒子あるいは光の束であり、被ばくとは放射線から人体にエネルギーが与えられることであり、危なさはその量と質に依ることを理解できるであろう。放射線は視覚や触覚などの五感で知覚できず感覚的に捉えることは難しいが、是非本書によって多くの方が正しく放射線を理解し、やみくもに怖がるのではなく、正しく「怖がって」いただくことを願う。