マウスのOsteomacは巨核球や骨芽細胞と協調して造血幹細胞の制御にあたる
論文標題 | Osteomacs interact with megakaryocytes and osteoblasts to regulate murine hematopoietic stem cell function. |
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著者 | Safa F. Mohamad, Linlin Xu, Joydeep Ghosh, Paul J. Childress, Irushi Abeysekera, Evan R. Himes, Hao Wu, Marta B. Alvarez, Korbin M. Davis, Alexandra Aguilar-Perez, Jung Min Hong, Angela Bruzzaniti, Melissa A. Kacena and Edward F. Srour |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Blood Adv. 1(26): 2520-2528, 2017 |
キーワード | 造血幹細胞 , 骨芽細胞性ニッチ , Osteomac , 巨核球 , 骨芽細胞 |
【はじめに】
英語の一人称が「I」だけなのに対して、日本語では「私、僕、俺、自分、あたし、わし、手前、我輩…」と複数ある。紹介者の父は幼少の頃、職場では公務員であり、家庭では家長であり、学校ではPTA会長であり、深酒して帰宅した後は大虎となり、それぞれの状況に合わせて一人称は勿論、役割も振る舞いも変わった。退職した後も周囲の人間関係や環境に自分を合わせているが、これは大半の日本人に当てはまることではないかと思う。今回紹介する論文では「Osteomac(以下、OM)」という骨質に局在するマクロファージに注目している。Osteomacは造血幹細胞の骨芽細胞性ニッチを構成する細胞で重要な機能を担っているが、近接している骨髄のマクロファージ(以下、BM-MΦ)と多くの共通点を持ち、非常に類似している。体内では両者を局在する場所によって区別できるが、採取した後では7種類もの細胞表面抗原が共通でそれぞれに特有のものがないため、フローサイトメーターによる分類ができない。さらに両者は共に破骨細胞へ分化し、ほとんど等しい細胞分化段階にある。これほど近い関係にありながら、BM-MΦには造血幹細胞の制御にほとんど関与しない。紹介論文の著者らは、多くの点で類似しつつも造血幹細胞の制御において大きく異なるOMとBM-MΦを詳細に比較している。放射線による造血障害からの回復には造血幹細胞の増殖と機能回復が必須であり、その際に骨芽細胞性ニッチは重要な場であることは知られてきたが、マクロファージをはじめこれを構成する細胞に関しては分かっていないことが多い。今回は、所変わればそれに合わせて役割も機能も変わるマクロファージの骨芽細胞性ニッチでの性質を中心に会員の皆様にご紹介する。
【マウスのOsteomacと巨核球】
OMは①骨質に局在すること、②CD45抗原とF4/80抗原の両者が陽性であること、の2点によって定義される。②の2つの抗原は細胞表面にあり、フローサイトメーターで分取する際に用いられるが、BM-MΦも陽性である。共通の細胞表面抗原は他にもあり、CD68、CD169、CD11bなどが報告されている。ただし、OMないしBM-MΦに特有の細胞表面抗原は発見されておらず、フローサイトメーターのみでは区別できない。紹介論文ではマウスを用いており、骨髄の混入を防ぐために胎児(2日齢)では頭蓋冠のCD45+F4/80+細胞をOMとして採取している。これによって採取されたOMは胎児肝由来の巨核球と共培養することで増殖し、さらにBM-MΦと同様に破骨細胞への分化が観察された。巨核球は骨芽細胞の増殖を促進することは知られていたが、上記の結果によってOMの増殖にも効果があることが示された。
【OMによる骨芽細胞性ニッチ機能の促進】
骨芽細胞性ニッチにはその名が示すとおり骨芽細胞が含まれ、造血幹細胞の幹細胞機能を維持している。OMは骨質に存在し、造血幹細胞の末梢への流動に関与している。つまり、骨芽細胞もOMも骨質に在り、造血幹細胞を制御していることになる。さらに、両者は共に巨核球によって増殖することが分かったことから、著者らは骨芽細胞性ニッチにおいてこれら三者のクロストークが造血幹細胞の機能を左右している可能性を提唱し、培養実験と移植実験によって実証を試みた。培養実験では造血幹細胞リッチなlineage-c-kit+Sca-1+細胞に頭蓋幹細胞由来の骨芽細胞(CD45-F4/80-細胞)と巨核球、それに先述の胎児OM(CD45+F4/80+頭蓋冠細胞)ないし成体(8週齢)のOMを共培養して、造血幹細胞由来のコロニー形成数を比較した。成体のOMは予め骨髄を洗い出した長骨から採取した。骨芽細胞、巨核球、胎児OM、成体OMのうち単独で造血幹細胞由来のコロニー形成数を促進したのは骨芽細胞のみで、巨核球と胎児・成体のOMはいずれもそれを促進する効果を示した。成体のBM-MΦについては単独でも、骨芽細胞との共培養でも効果は見られなかった。そして、培養一週間後のlineage-c-kit+Sca-1+細胞をレシピエントマウスに移植した実験で高いキメリズムを維持したのは頭蓋冠細胞(骨芽細胞とOMが大半を占める)と巨核球の共培養であった。
【おわりに】
これらの成果は紹介論文の”Key Points”欄において2つにまとめられている。すなわち、①(骨芽細胞性)ニッチにおいてOMと骨芽細胞、巨核球の相互作用は造血幹細胞機能を制御している、②OMは機能的にも表現系においてもBM-MΦと異なる、の2点である。マクロファージは造血幹細胞を起源として骨髄球形共通前駆細胞、CFU-GM、CFU-M、マクロファージの順に分化し、全身を循環した後に骨や肺、小腸などの組織に在住し、それぞれに特異的な表現系と機能を獲得する。さらにマクロファージはサイトカインなどの刺激を受けるとM1型やM2型、IL-10陽性型といった”activation phenotype”に変化する。Galliらは前者の変化をLess-flexible programmingと評し、後者をFlexible programmingとして可塑性に違いあることを指摘している(参考文献)。今回のOMとBM-MΦの違いはFlexible programmingによるものかLess-flexible programmingによるものなのかを明らかにするにはさらなる研究が必要であるが、骨質と骨髄が接する骨内膜と骨髄ではマクロファージの機能と役割が変わることが紹介者にとって大きな驚きであった。冒頭に述べたように放射線による造血障害からの回復に骨芽細胞性ニッチは重要なので、これを構成するOMなどの細胞が照射後どのような反応を示すのか非常に興味深い。
<参考文献>
Galli SJ, et al. Phenotypic and functional plasticity of cells of innate immunity: macrophages, mast cells and neutrophils. Nat Immunol. 2011 12:1035–44.