ParkinとPINK1はSTINGにより誘導される炎症を軽減する
論文標題 | Parkin and PINK1 mitigate STING-induced inflammation |
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著者 | Sliter DA, Martinez J, Hao L, Chen X, Sun N, Fischer TD, Burman JL, Li Y, Zhang Z, Narendra DP, Cai H, Borsche M, Klein C, Youle RJ |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Nature 561(7722): 258-262, 2018 |
キーワード | マイトファジー , inflammation , cGAS-STING |
【背景と目的】
ヒトにおいて、ParkinやPINK1の変異は若年性パーキンソン病の原因遺伝子として知られている。細胞生物学、分子生物学、生化学などの解析から、E3ユビキチンリガーゼであるparkinやユビキチンキナーゼであるPINK1は損傷を受けたミトコンドリアを選択的に除去する機構であるマイトファジーに関与することが知られており、その制御機構が明らかにされつつある。しかしながら、parkinもしくはPINK1を欠損したマウスは、パーキンソン病に関連する表現型を示さないことから、マイトファジーのin vivoにおける役割はよくわかっていなかった。また、パーキンソン病患者の血清では、多数の炎症性サイトカインが上昇していることが報告されているが、炎症反応がニューロン欠損に寄与しているのか、それともニューロン欠損の結果なのか明らかにされていなかった。
今回紹介する論文は、ミトコンドリア恒常性を維持する機構であるマイトファジーと炎症反応との関係を明らかにした一報である。
【主な結果】
著者らは、parkin、PINK1ノックアウトマウスに強いミトコンドリアストレスを誘導することにより、炎症性の表現型が見られることを明らかにした。ミトコンドリアストレスとして、「トレッドミル」を用いた消耗運動による急性ミトコンドリアストレス誘導方法と、ミトコンドリアDNAに変異が蓄積するmutatorマウス(校正機能を欠失したmtDNA polymerase(PolG)を発現させたマウス)を用いた、慢性のミトコンドリアストレス誘導方法を用いている。また、老化したparkinノックアウトマウス;mutatorマウスでは、黒質ドーパミン産生ニューロンの脱落や運動障害が観察される。興味深いことに、これらの表現型は、細胞質DNAを完治する自然免疫系のcGAS-STING(cyclic GMP-AMP synthase linked to stimulator of interferon genes)経路を抑えることによりキャンセルされる。
【考察】
本研究結果は、ParkinやPINK1を介したマイトファジーがミトコンドリアの恒常性維持が自然免疫の抑制に関与していることを明らかにし、ミトコンドリア恒常性の破綻が炎症反応を誘導することにより神経細胞を脱落させることがパーキンソン病の発症につながることを示したといえる。マウス個体や、心臓や脳組織における解析が主であるが、他の組織における、マイトファジーと炎症反応との関係について興味深い。
放射線照射によりミトコンドリア損傷や炎症反応が誘導されることが知られているが、これらの反応がどのような相互作用があるのか今後明らかにされることが期待される。