日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

Rif1はDNA末端切除を抑制しクラススイッチを促進する

論文標題 Rif1 Prevents Resection of DNA Breaks and Promotes Immunoglobulin Class Switching
著者 Di Virgilio M, Callen E, Yamane A, Zhang W, Jankovic M, Gitlin AD, Feldhahn N, Resch W, Oliveira TY, Chait BT, Nussenzweig A, Casellas R, Robbiani DF, Nussenzweig MC
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Science, 339, 711-715, 2013
キーワード Rif1 , NHEJ , 53BP1 , end-resection , SILAC

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DNA 二重鎖切断(double strand break) DSBは主に相同組み換え(homologous recombination, HR)と非相同末端結合(non-homologous end joining, NHEJ)によって修復されるが、両経路の使い分けがどのように制御されているかについては未だに不明な点が多い。今回、NHEJの促進とHRの抑制メカニズムとして、53BP1と共にRIF1が働いていることがScience誌(Nussenzweigらとde Langeら)とMolecular Cell誌(BoultonらとDurocherら)に計4報掲載されたので紹介したい。

NussenzweigらのグループはSILAC法によるリン酸化53BP1結合因子の探索からRif1を同定した。B細胞ではクラススイッチ組換えに先立ちG1期でAIDによってDSBが導入されるが、これらは通常全てNHEJで再結合される。しかし、Rif1を欠損するとHRタンパク質であるRPAやRAD51がDSB部位に集積する事がChIP-seqの結果から明らかとなった。細胞周期解析と先行研究の結果をあわせ、53BP1及びRif1欠損B細胞ではG1期で生じたAIDによるDSBがNHEJにより修復されず残存し、S/G2期において広範囲で5’→3’end—resectionを受け、その結果染色体異常やゲノム不安定性を引き起こすのであろうと結論付けている(1)。

ヒトでのRIF1の機能を見出したde Langeらのグループは、TRF1/2 double knockout Rif1-/- MEF細胞を用いた研究成果を報告している。テロメア機能不全細胞で露出されたテロメア末端においてもRif1がend—resection因子(CtIP, BLM, Exo1, BRCA1/BRAD1)のDNA損傷部位への集積を抑制し、53BP1によるDSB修復を促進していると報告している(2)。

Boultonらのグループは53BP1の下流機能因子として同定されていたRIF1に着目し、Rif1欠損マウスを作製し解析を行った。Rif1欠損マウスは免疫不全、成長遅滞、放射線(IR)感受性を示した。先述の2報同様、マウス細胞でもG1期においてRif1/53BP1はNHEJを促進し5’ end—resectionを抑制していることを示している。さらにBrca1欠損細胞でみられる染色体異常が、Rif1との二重欠損にすることによりレスキューされることから、BRCA1はS期におけるRIF1依存的なNHEJを抑制していると示唆している(3)。

Durocherらのグループは53BP1のeffectorとしての可能性に着目しRIF1の解析を行った。53BP1及びRIF1をノックダウンしたHeLa-Fucci細胞では、G1期におけるBRCA1フォーカス形成の増加、single strand annealing (SSA)
やHR、microhomology-mediated end joining (MMEJ)頻度の上昇が観察された。一方、BRAC1及びCtIPノックダウン細胞ではS/G2期でのRIF1フォーカスの顕著な増加が観察された。これらの結果から、G1期では53BP1/RIF1によりNHEJが促進され、BRCA1の集積を抑制してend-protectionしている。それ対し、S/G2期ではCDK1によるCtIPのリン酸化によりend-resectionが促進されBRCA1と共にHRを促進し、DSB部位へのRIF1の集積を抑制していると推測される(4)。

Rif1はyeast two-hybrid法によりRap1結合因子として1992年に同定され、酵母ではテロメアに局在しテロメア長の調節を行っている。しかし、ヒトではテロメアでの局在はみられず、IRなどにより生じたDSBに応答しATM/53BP1の下流でintra-S期チェックポイント制御に機能していること、S期のDNA損傷応答に関与すること、また、最近の研究により複製のタイミングを調節していることが報告されていることから、RIF1はS期に機能する因子だと信じられていた。しかし、今回の4報の論文により53BP1の下流ではG1期でNHEJを促進すると同時に、DSB部位へのBRCA1の集積を抑制しresectionの進行を阻害していることが示された。RIF1/53BP1とBRCA1/CtIPにより各細胞周期で適切な修復経路が機能するように制御されていることを示す一連の論文はDNA修復機構解明にまたひとつ近づくことができたと思う。

(1) Di Virgilio M et al. Rif1 Prevents Resection of DNA Breaks and Promotes Immunoglobulin Class Switching. (Science. 2013 Jan 10)
(2) Zimmermann M et al.53BP1 Regulates DSB Repair Using Rif1 to Control 5' End Resection. (Science. 2013 Jan 10)
(3) Chapman JR et al. RIF1 Is Essential for 53BP1-Dependent Nonhomologous End Joining and Suppression of DNA Double-Strand Break Resection. (Mol Cell. 2013 Jan 15)
(4) Escribano-Díaz C et al. A Cell Cycle-Dependent Regulatory Circuit Composed of 53BP1-RIF1 and BRCA1-CtIP Controls DNA Repair Pathway Choice. (Mol Cell. 2013 Jan 15)

柳原 啓見(京都大学放射線生物研究センター ゲノム動態研究部門)