日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

放射線誘発白血病発症における分子シーケンス解明のためのインビボ前白血病細胞の追跡

論文標題 Tracking preleukemic cells in vivo to reveal the sequence of molecular events in radiation leukemogenesis
著者 Verbiest T, Finnon R, Brown N, Cruz-Garcia L, Finnon P, O'Brien G, Ross E, Bouffler S, Scudamore CL, Badie C.
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Leukemia. 32(6): 1435-1444, 2018
キーワード マウス , 放射線誘発急性骨髄性白血病(rAML) , 造血系細胞 , Sfpi1遺伝子 , 点突然変異

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放射線誘発白血病発症における分子シーケンス解明のためのインビボ前白血病細胞の追跡

【背景と目的】
マウスの放射線誘発急性骨髄性白血病(rAML)では、2番染色体の造血転写因子PU.1をエンコードするSfpi1遺伝子領域の欠失(Del2)と対立Sfpi1遺伝子の点突然変異が特徴であることが知られていた。しかし、rAML発症までの生物学的プロセスは複雑で、そのメカニズムや標的細胞については不明のままである。こうした中、著者らは2番染色体のSfpi1遺伝子領域に異なる蛍光マーカーを有するトランスジェニックマウスを作成し、研究を行なった。10-12週齢の雌雄CBA Sfpi1 mCh/GFPマウス(それぞれn= 70, n=50)に3GyのX線を1回全身照射し、造血系細胞におけるDel2、点突然変異の発生とその雌雄差をin vivo実験で明らかにすることを研究の目的とした。
【主な結果】
3Gy全身照射によって、照射3ヶ月後の比較的早期に末梢血中の分化した白血球細胞においてDel2が存在することが示された。照射9ヶ月後では、Del2を有する雄マウスの割合(25%)は雌マウスの割合(4%)と比較して高く、照射18ヶ月後ではDel2を有するマウスの割合は雄雌ともにそれぞれ70%まで増加することが示された。また、雌マウスではリンパ球系細胞においてのみDel2を有するマウスの割合が雄マウスと比較して高かった(照射18ヶ月の時点でそれぞれ54%と39%)。他方、雄マウスでは骨髄球系細胞、リンパ球系細胞のいずれにおいてもDel2を有するマウスの割合が雌マウスと比較して高かった(それぞれ死亡時に36%と22%)。フローサイトメトリー分析によってDel2の起源細胞は、雄マウスでは造血幹細胞(HSC)または多能性前駆細胞(MPP)であることが同定され、雌マウスでは未成熟のリンパ球系細胞が起源である可能性が高いことが示された。この実験におけるrAML発症までの潜伏期に雌雄差は認められなかったが、白血病を発症した雄マウスでは1例を除くすべてが骨髄性白血病に、雌マウスでは8例中7例がリンパ性白血病として分類され雌雄差の存在が示唆された。照射マウスの末梢血を分析したところ、83%のマウスにおいてSfpi1遺伝子領域の点突然変異が観察された。その点突然変異は、ある場合には照射15ヶ月後から3週間の間に6%から55%にまで急激に上昇することが示された。しかし、この点突然変異は偽照射マウスや、Del2のない照射マウスでは検出できず、点突然変異の発生前にDel2が必須であることが明らかとなった。
【まとめ】
 本論文では、2番染色体のSfpi1遺伝子領域に異なる蛍光マーカーを有するマウスモデルを用いて研究が行われた。3Gy全身照射によって、白血病未発症マウスの末梢血中で、rAMLに必須な2番染色体のSfpi1遺伝子領域の片側欠失(ヘミ接合体)を有する前白血病造血細胞が増殖していることが示された。また、造血系細胞におけるSfpi1遺伝子領域の点突然変異は白血病発症過程の後期に起こると考えられていたが、その発生はAML発症の少なくとも1ヶ月前に生じ、急激に増加することが明らかになった。また、rAML標的細胞には性差が存在し、白血病発症までのプロセスが性別に依存する可能性が示唆された。