日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

初期英セラフィールド作業者における職務−曝露マトリックス(JEM)の構築、検証、感度解析

論文標題 Construction, Validation and Sensitivity Analyses of a Job Exposure Matrix for Early Plutonium Workers at the Sellafield Nuclear Site, United Kingdom
著者 de Vocht F, Riddell A, Wakeford R, Liu H, MacGregor D, Wilson C, Peace M, O'Hagan J, Agius R
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Radiat Res. 191(1): 60-66, 2019
キーワード epidemiology , internal exposure , Sellafield Nuclear Site , Plutonium , Job Exposure Matrix

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イギリスにあるセラフィールド核施設にはプルトニウム生産炉などを含む核燃料再処理工場があり、アルファ核種の内部被曝に関する疫学研究の対象集団として非常に重要である。
この論文では、初期の作業員630人の尿中プルトニウム量の見直しとその結果見直された量を示している。

①セラフィールド核施設における初期のプルトニウム作業従事者のデータに関する問題点
 セラフィールド核施設では1952年の稼働時よりプルトニウム摂取の可能性がある従業員12500人の追跡調査が行われている。全期間を通じて、作業員の尿検査が行われており、彼らのプルトニウム暴露量は尿中に排出されたプルトニウム量から推定されている。しかし、1963年以前の記録においては、一回の検査の検出量が当時「これ以下では障害はない」と考えられていた20pg以下であった場合、具体的な数値が残されていなかった。また、ベクレル数を直接測定してはおらず、当時の工場内に存在したプルトニウムの単位質量あたりのベクレル数から換算して、20pgを2.3ミリベクレルとしていた。そのため、この2.3ミリベクレルを用いると暴露量が過剰評価になると考えられており、過去の疫学研究ではこの630人のデータそのものを使用しないといった処置が取られていた。比較的暴露量が多かったと思われる初期のデータを有効活用するためには、この630人の尿中プルトニウム量のより正確な推定が求められていた。ちなみに、暴露量が過大評価されると、リスクは過小評価されてしまうことになる。

②モデルによる尿中プルトニウム量の推測
 この630人のうち、330人についてはJEM(Job-exposure matrix)と呼ばれる1.一年毎の仕事内容と2.有害物への暴露を記録したデータベースに最低一年以上登録されているおり、より詳細なプルトニウムの尿中量の記録が残されている。そこで、これらの記録からICRPの呼吸気道モデル、体内動態モデルを最適化し、そのモデルを用いて630人のプルトニウムの体内取り込み量を予測した。

③モデル構築の方法とその妥当性の検証
 モデルを最適化する際には、工場内ではどこでも等濃度のプルトニウムが舞っていると仮定しており、記録された仕事内容を14グループに分けてモデル内のパラメータの調整を行なっている。モデルの正しさを評価するため、330人をランダムに9:1に分配し、前者90%をモデル内のパラメータ決定のために用い、残りの10%でその正しさを検証している。パラメータは90%の作業員のデータを用いて尿中のプルトニウム量が仕事内容から考えられる体内取り込み量ともっとも合うように、最尤法によって調節された。それを用いて、残りの10%の作業者に対し調整されたモデルによる予測値と尿中プルトニウム量から考えられる体内取り込み量のピアソンの相関係数を調べたところ、少数のグループを除いて0.4以上の相関を示す値が見られた。また、両者の差分はほとんどのグループで20%以内に収まっており、半分のグループでは10%以内であった。尿中プルトニウム量の欠損値については、モデルからの予測を用いていくつかの方法で補完したり、0としたり、と確認をしたところ、0とするのが妥当ではないかという結論を得た。これは、欠損値部分ではプルトニウム暴露が少なく記録する必要がなかったとして解釈できる。また、採取時の技術的限界もあるため、尿中プルトニウム量の精度を考慮しマルコフチェインモンテカルロシミュレーションによって記録された値が真値からずれていた場合にどの程度、結果に影響を及ぼすかも見積もっている。

④ モデルから推測される尿中プルトニウム量
 最適化したモデルを用い、尿中のプルトニウム量を算出した結果、1952年から1963年にかけての累積量の中央値は95.2ベクレルであった。JEMは複数あり、いくつかを使って調べているが、中央値は95.2ベクレルから100ベクレルに収まる範囲であった。ちなみに、従来の値は中央値が4956ベクレルであり、大きく過大評価していたことがわかる。
 論文筆者らはこの論文でJEMを使って系統的な推測が可能であることを示した。これにより、より正確なリスク評価につながるとして、この後に続く研究においてはこのようなJEMの利用、および妥当性の評価を行うことを勧めている。