書評:増補改訂版 考証 福島原子力事故 炉心溶融・水素爆発はどう起こったか
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著者 | 石川迪夫 |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
総頁数:384ページ (本体3,000円+税)、2018年3月発行、日本電気協会新聞部 |
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本書は福島原発事故の発生機序と今後の廃炉に向けた課題について、原子力工学の第一人者である石川先生が解説されたものある。原子炉について素人でも読み易いようにいろいろ工夫されており、事故の実像を教えられるだけでなく、原子力工学の底力をも実感させられる迫力がある。2014年発行の初版に続く改定第二版である。Springer から英文に翻訳されたものも出版されているとのことである。
実は、著者の石川先生には環境研の評議員をお引き受け頂いている。昨年、「面白いから読んでみて」と軽く誘われてはいたが、原子炉はおろか工学一般の知識もない私に理解できるはずもないと考え近づかずにいたが、最近たまたま本を手に取る機会があり、初めの数ページを読んだところ確かに面白く、所々難しいところは飛ばしながらだが、最後まで辿り着いた。この事故については「『チャイナシンドローム』のシナリオより少し軽い状況であった」くらいの認識しかなかったが、実態は全くそうではないを知らされた。例えば、原子炉の溶融がどういうものかについてはTMI やチェルノブイリの事故だけではなく、それよりも前の1970 年代に「実験」が行われており、専門家はすでにどういうことが起こるのかをよく知っていたこと、非常用電源装置が浸水被害に遭わないような高いところに置かれていなかったことについてはそれなりの理由があったこと、事故になった原因としては原子炉の設計に問題があった訳ではなくそれを取りまく周辺状況の安全性確保に問題があったこと、今後も起こるかもしれない過酷な自然災害やテロに対しては新しい視点からの安全対策が必要なこと、当時の政府の反応のどこに間違いがあったのか、等々です。日頃ぼんやり疑問に思っていたことが皆丁寧に解説され、胸の透く思いでした。さらに、格納容器の圧力増加による破損によって生じる大量の放射性物質の大気への放出に比べ、ベントを通した放射性物質の排出は格納容器破損を避けるだけでなく、それによる環境への汚染レベルは20ミリシーベルト/年以下であることが今回の事故で示されたことから、今後起こるかもしれない緊急事態には十分に考慮すべき手段であるとも語られている。
福島事故ではマスコミのレベルがかなり怪しいことを学習したが、本書は原子炉事故をより正確に理解するのに最適ではないかと思います。
ISBN:978-4-905217-67-1