3,3'-ジインドリルメタンによる腹部照射により誘導されるマウス腸管障害の改善
論文標題 | Amelioration of whole abdominal irradiation-induced intestinal injury in mice with 3,3'-Diindolylmethane (DIM) |
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著者 | Lu L, Jiang M, Zhu C, He J, Fan S |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Free Radical Bio. Med. 130: 244–255, 2019 |
キーワード | 腸管障害 , 3,3'-ジインドリルメタン , 酸化ストレス , Nrf2 , Lgr5 |
【背景】
ガン治療や原子力発電など放射線の利用は多岐にわたる。今まで,放射線被ばくによる健康影響の低減を目的とした様々な放射線防護剤の開発がなされてきた。本論文では、3,3'-Diindolylmethane(ジインドリルメタン:DIM)に着目し、その防護効果について検討している。DIMは小分子化合物で、胃酸中でインドール-3-カルビノールの加水分解により生成され、がん予防効果、抗炎症作用、組織障害の修復促進作用などがあることがわかっている。また、著者らは、DIMは放射線誘導の造血系の障害を緩和することを報告している。しかし、DIMが放射線誘導の腸管障害が抑制されるという報告はない。そこで、本研究では、放射線照射誘導の腸管障害に対するDIMの防護効果について検討した。
【方法】
6-8週齢のC57BL/6Jマウスを対照群、照射群、DIM+照射群に分けた。137Csからのγ線を15Gy(線量率0.98Gy/min)照射した。その際、腹部のみに照射するため、腹部以外を鉛で遮蔽した。DIMは照射30分前、照射1、2、3日後の計4回、それぞれ75mg/kg体重投与した。
また、HIEC-6細胞に1μMのDIMを30分処理した後に4Gy照射した。
【結果と考察】
① 15Gy照射により、対照群の全てマウスは死亡した。他方、DIMを投与したマウスの30日間の生存率は50%であった。
② DIMの効果を調べるために、照射から3.5日、5日後の小腸の組織を観察した。照射により小腸は細くなり、水様下痢も観察された。しかし、DIM投与によりこれらの症状が改善した。杯細胞の数は照射により減少したが、その数はDIM投与した方が照射のみに比べて多かった。これより、DIMは照射による腸管障害を抑制することがわかった。
③ Leucine-rich-repeat-containing G-protein-coupled receptor (Lgr5)は小腸の幹細胞のマーカーとして知られており、放射線照射後の腸の再生に不可欠である。照射によりLgr5+細胞の数が減少したが、DIM投与により増加した。照射により増殖マーカーであるKi67+細胞などが減少したが、その数はDIM投与した方が照射のみに比べて多かったことから、DIMは腸上皮の再生能を維持する働きのあることがわかった。
④nuclear factor erythroid 2-like 2 (Nrf2)はアンチオキシダント応答を制御し、活性酸素種を除去することで照射に伴うDNA損傷やアポトーシスを抑制する。DIM投与により上皮細胞の核内のNrf2が増加した。他方、照射により小腸クリプトや絨毛のアポトーシスが増加したが、DIM投与により減少した。
⑤照射によりγH2AX陽性細胞が増加したが、その数はDIM投与した方が照射のみに比べて少なかったことから、DIMにはDNA損傷を抑制することがわかった。
⑥放射線による腸管障害に対するDIMの抑制効果を調べるため、HIEC-6細胞を用いて照射後の細胞生存率への効果を調べた。その結果、照射により細胞の生存率が低下したが、DIM処理により増加したことがわかった。
⑦DIMには抗酸化作用のあることが報告されていることから、HIEC-6細胞の活性酸素種(ROS)の量を調べた。その結果、照射によりROSの量が増加したが、DIMはROSの産生量を抑制することがわかった。また、照射により8-OHdGやH2AXのフォーサイの数が増加したが、DIMにより抑制した。このことから、DIMは照射により生じたROSを除去することでHIEC-6細胞のDNA損傷を抑制することがわかった。
⑧ Nrf2シグナルの活性化とDIMの保護効果の役割を検証するために、Nrf2によって制御されるHO-1を調べた。その結果、照射によりHO-1の発現が増加したが、DIM処理によりさらに増加することがわかった。これより、照射は酸化ストレスを与えるものの、DIMはその酸化ストレスを緩和することがわかった。
⑨著者らは以前、腸内細菌叢の異常が放射線抵抗性に影響することを報告した。そこで、照射とDIM投与が腸内細菌に与える影響について調べた。その結果、15Gy照射をしても腸内細菌の種に変化はなかったが、BacteroidesやHelicobacterが相対的に増加した。しかし、DIM投与すると対照と同じレベルまで回復した。
⑩照射により細菌フローラの構造が著しく変化したが、DIMにより抑制された。
以上の所見より、DIMは照射による腸管障害を抑制することから、放射線防護剤として期待される物質であることが示唆できた。