MDC1-TOPBP1による有糸分裂期細胞の染色体安定性維持機構
論文標題 | MDC1 Interacts with TOPBP1 to Maintain Chromosomal Stability during Mitosis |
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著者 | Leimbacher PA., Jones SE., Shorrocks AMK., Zompit MM., Day M., Blaauwendraad J., Bundschuh D., Bonham S., Fischer R., Fink D., Kessler BM., Oliver AW., Pearl LH., Blackford AN., Stucki M. |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Mol Cell, 74: 1-13, 2019 |
キーワード | 染色体安定性 , 有糸分裂 , MDC1 , TOPBP1 , DNA二本鎖切断 |
【はじめに】
放射線療法は、体への負担が少なくQuality of Lifeを維持できる治療法として、がん三大治療法の一つに位置付けられている。しかし、がん細胞の種類など、様々な条件によって放射線に対する感受性が異なってくることから、より効率的な放射線治療のためにはがん細胞特異的に放射線がもたらすDNA損傷を増大させる、またはDNA損傷に対する応答能力を低下させるような併用剤・増感剤の開発が求められる。そのためには、”DNA損傷に対する細胞の応答を分子レベルで理解すること”が必要不可欠である。本論文は、細胞周期と呼ばれる細胞の増殖サイクル [G1-S (DNA合成期)-G2-M (有糸分裂期)-G1の順で進む]に依存したDNA損傷応答、特に”分裂期の細胞が持つDNA損傷応答機構”に着目したものであり、非常に興味深い内容であるため紹介したい。
【イントロダクション】
DNA損傷には数々の種類があるが、その中でもDNA二本鎖切断 (DSB)は最も深刻なDNA損傷であると言われており、染色体不安定性、細胞死、発がんなどの原因となり得る[1]。それを防ぐため、間期 (G1-S-G2期)の細胞では細胞周期チェックポイントにより細胞周期の停止が発生し、非相同末端結合 (NHEJ)・相同組換え (HR)などのDNA損傷修復によってDSBを解消することで異常な細胞の増殖が抑制され、染色体の安定性が保たれる。これに対してProphase以降の分裂期細胞では、細胞周期チェックポイントが存在せず、DSBの修復は何らかの形でG1期へ持ち越されることがわかっている[2,3]。
通常、DNA損傷に対する細胞応答はataxia-telangiectasia mutated (ATM)、 ATM and Rad3-related (ATR)とDNA-dependent protein kinase (DNA-PK)と呼ばれる3つのリン酸化酵素によって制御される[4]。そして、ヒストンバリアントの一つであるH2AXのSerine (S)139は、これらのセンサータンパク質によってDSB応答初期にリン酸化を受けることが知られており、このリン酸化を標的としてMediator of DNA Damage Checkpoint Protein 1 (MDC1)はDSB依存的にH2AXへと結合する。その後、MDC1は足場タンパク質としてMre11-Rad50-Nbs1複合体 (MRN)、Ring-Finger Protein 8 (RNF8)をはじめとした様々な下流タンパク質のリクルートを司り、DSB応答・修復経路の中心的な役割を担う。そして、H2AX pS139 (γ-H2AX)とMDC1のDSBサイトに対する集積は全ての細胞周期を通して見られるが、その下流に存在するDSB修復の主要経路 RNF8-53BP1経路は、分裂期において何らかの形で阻害されていることがわかっている。しかしながら、分裂期細胞においてもセンサータンパク質であるATM/DNA-PKの阻害は、放射線感受性 (放射線はDSBを効率的に引き起こす)を示すことがわかっている。このことから、分裂期では通常のDSB修復機構が存在しないにも関わらず、DSBに対する応答は細胞の安定性を保つために必要であることがわかる。つまり、分裂期では間期のDSB応答とは異なる形で細胞の染色体安定性を保ち、安全にG1期へDSBを持ち越すための機構が存在すると考えられる。
本論文では、MDC1とDNA Topoisomerase 2-binding Protein 1 (TOPBP1)のM期特異的な結合がM期からG1期へのDSBの安全な持ち越し、細胞の染色体安定性維持に関わることが明らかになった。
【MDC1 S168/S196とTOPBP1 BRCTドメイン1/2に依存したMDC1-TOPBP1結合】
MDC1は2089アミノ酸からなるタンパク質であり、これまでにNBS1、RNF8などのDNA損傷修復タンパク質との結合モチーフが見つかっている。まず、筆者らは多様な生物間で高度に保存する配列を解析し、S168、S196モチーフを同定した。その後、ペプチドプルダウン法やマススペクトロメトリー (質量分析法)、免疫沈降法などを行い、これらがTOPBP1との結合に必要なモチーフであることを明らかにした (Fig.1)。
次に筆者らは、TOPBP1のどのドメインがMDC1との結合に関与するのかを解析した。TOPBP1は1522アミノ酸からなるタンパク質であり、多くのBRCTドメインを持っている。BRCTドメインはリン酸化特異的なタンパク質結合ドメインであり、これまでにTOPBP1自体も多くのDNA損傷修復タンパク質との結合が報告されている。そこで、TOPBP1の各ドメイン変異体発現DNAベクターを作製し、細胞へ導入、GFPプルダウンアッセイによってどのドメインがMDC1との結合に関与するのかを解析した。その結果、TOPBP1 BRCTドメイン1/2 がMDC1との結合に関与することが明らかになった。さらに、蛍光偏光アッセイにより、 MDC1 S168/S196 モチーフとTOPBP1 BRCT1/2の結合強度解析を行なった結果、S168モチーフはBRCT1との結合に依存的であり、S196モチーフはBRCT1/2どちらのドメインとも結合をすることが明らかになった (Fig.2)。
次に筆者らは、どのタンパク質によってMDC1 S168/S196のリン酸化が行われ、TOPBP1との結合が制御されるのかを解析した。S168/S196モチーフは、どちらも高い酸性アミノ酸配列でありSer/Thr-x-x-Asp/GluというCasein Kinase 2 (CK2)の標的リン酸化配列を持っていることがわかった。そこで、CK2阻害剤付加時のMDC1 S168/S196のリン酸化をウエスタンブロッティング法によって解析した結果、これらのSerineはCK2依存的にリン酸化を受けていることが明らかとなった (Fig.3)。
【M期ではG1期と異なりMDC1-TOPBP1が直接的に結合する】
これまでの結果から、MDC1-TOPBP1はCK2によるMDC1 S168/S196のリン酸化とTOPBP1のBRCT 1/2によって結合することが明らかとなった。そこで筆者らは、これらの結合がDNA損傷応答にどう関わるのかを解析した。
まず、CRISPR/Cas9システムを用いてU2OS細胞 (ヒト骨肉腫細胞)からMDC1欠損細胞を樹立した。そして、野生型 (WT) U2OS細胞とMDC1欠損細胞、既存の53BP1 (MDC1下流のタンパク質でNHEJによるDSB修復の中心タンパク質)欠損細胞を用いて、放射線照射に伴う細胞内でのTOPBP1集積挙動の解析を行なった。その結果、DSBの発生によるTOPBP1の集積はMDC1と53BP1両方に依存し、さらにフォーカスのサイズはG1期に比べ、S/G2期では小さいことがわかった。そこで、これらの現象が53BP1を介したNHEJの細胞周期優位性によるものか、MDC1のみを介したものかを確認するため、U2OS WT細胞と53BP1欠損細胞でのMDC1-TOPBP1の共集積を解析した結果、53BP1欠損細胞においてもG1期でのMDC1-TOPBP1 共集積を確認することができた。しかし、そのサイズはWT細胞に比べ極めて小さいことがわかった (Fig.4)。
次に筆者らは、MDC1 S168/S196がこれらの細胞周期依存的なフォーカス形成に関与するのかを解析するため、MDC1欠損細胞に緑色蛍光タンパク質 (GFP)タグ付きのMDC1 WTとS168/S196の変異体 (S168A/S196A)を導入し、安定発現する細胞を樹立した。そして、細胞周期ごとのMDC1-TOPBP1の集積を観察した。その結果、間期、分裂期両方の細胞においてもMDC1 S168/S196の変異はMDC1-TOPBP1のフォーカス形成に影響を与えることがわかった。特に、分裂期でのフォーカス形成には致命的であり、変異体発現細胞ではほとんどのフォーカスが確認できなくなった (Fig.5)。
【M期でのMDC1-TOPBP1結合が司る染色体安定性維持機構】
これまでの結果から、MDC1 S168/S196経路での MDC1-TOPBP1結合は分裂期のDSB応答経路において大きな役割を持つことがわかった。そこで次に筆者らは、このMDC1-TOPBP1結合がどのようにして細胞の染色体安定性を保っているのかを解析した。
まず、MDC1 WTと変異体発現細胞を用いて、細胞周期に依存した放射線に対する生存率試験を行なった結果、変異体発現細胞では分裂期に高い放射線感受性を示した。さらに、放射線照射後の微小核の形成 (染色体異常の一種で、染色体の一部が切り離された時などに発生し、ゲノム不安定性を示す指標として使われる)を解析した結果、MDC1 S168/S196 の変異に伴い、有意に微小核の形成が増加することが明らかになった (Fig.6)。
さらに、高解像度共焦点顕微鏡を用いて、放射線照射後のMDC1-TOPBP1のフォーカス構造を解析した結果、TOPBP1は2つの MDC1の間でブリッジを形成していることが明らかになった (Fig.7)。これらのことから、MDC1はDSB発生時にそれぞれの損傷末端に結合し、TOPBP1がMDC1との結合を介して2つの損傷末端の間でブリッジを形成することで、DNA、染色体の分離を防ぎ、分裂期のDSBによる染色体の安定性を保っている可能性が示唆された。
【おわりに】
本論文によって、これまで不明な部分が多かった”有糸分裂中の細胞がもつDNA損傷応答メカニズム”の一端が明らかになった。さらに、本論文における高解像度共焦点顕微鏡を用いたTOPBP1-Molecular bridgeの発見は、今後の細胞内でのタンパク質―タンパク質相互作用やタンパク質局在・動態解析に新たな視点をもたらすと考えられる。それだけでなく、これらの発見は、細胞周期を利用した抗がん剤の開発や放射線治療の併用剤など医療分野への応用が考えられる。今後も一連の研究の進展に期待したい。
【参考文献】
[1] Jackson SP, Bartek J. The DNA-damage response in human biology and disease. Nature. 461: 1071-1078, 2009.
[2] Lee DH, Acharya SS, Kwon M, Drane P, Guan Y, Adelmant G, Kalev P, Shah J, Pellman D, Marto JA, Chowdhury D. Dephosphorylation enables the recruitment of 53BP1 to double-strand DNA breaks. Mol. Cell. 54: 512-525, 2014.
[3] Orthwein A, Fradet-Turcotte A, Noordermeer SM, Canny MD, Brun CM, Strecker J, Escribano-Diaz C, Durocher D. Mitosis inhibits DNA double-strand break repair to guard against telomere fusions. Science. 344: 189-193, 2014.
[4] Blackford AN, Jackson SP. ATM, ATR, and DNA-PK: the trinity at the heart of the DNAdamage response. Mol. Cell. 66: 801-817, 2017.