APLFの非相同末端結合における鎹(かすがい)としての役割
論文標題 | APLF promotes the assembly and activity of non-homologous end joining protein complexes |
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著者 | Grundy GJ, Rulten SL, Zeng Z, Arribas-Bosacoma R, Iles N, Manley K, Oliver A, Caldecott KW |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
EMBO J, 32, 112-125, 2013 |
キーワード | APLF , KU80 , NHEJ , MIDドメイン , FHAドメイン |
真核生物におけるDNA二重鎖切断(DSB)修復経路の1つである非相同末端結合(NHEJ)においては、コアとなるKu二量体、DNA-PKcs、XRCC4/DNA ligase IV、XLF(別名Cernunnos)の間にさまざまな相互作用があることが明らかにされている。しかし、これらのタンパク質群がいかにしてNHEJ複合体を形成するかについては今なお不明の部分が多い。一方で、2007年にAprataxin-and-PNK-Like Factor (APLF、別名PALF/C2orf13/XIP1)が同定された(1-3)。APLFは511アミノ酸からなるタンパク質でN末端にはリン酸化タンパク質との相互作用に関わると考えられるFHAドメインがあり、XRCC1、XRCC4とリン酸化依存的に結合する。また、C末端にはポリADPリボシル鎖との相互作用に関わると考えられるPBZドメインを有する(4)。さらに、APLFがAPエンドヌクレアーゼ活性および一本鎖DNAエンドヌクレアーゼ活性、3’-エキソヌクレアーゼ活性を持つことが報告されている(1,5)。Caldecottらは2013年最初のEMBOで、APLFがKuとXRCC4/DNA ligase IV/XLFをつなぐ、言わば鎹のような役目をすることを報告している。
まず、全長APLFをbaitとした酵母two hybrid法により、結合タンパク質を探索したところ、これまで知られているXRCC1、XRCC4に加え、Ku80が見つかった。部分断片や変異体を用いたtwo hybrid法とslot blot法の結果、全長511アミノ酸からなるAPLFの中で、94-358番目を含むMIDドメインがKu80との結合に十分であり、特に、182番目-184番目のRKR配列と189番目のトリプトファンが必須であることが明らかになった。更に、蛍光偏光法により、174-191番目に対応するわずか18個のアミノ酸からなるペプチドがKu二量体に結合することが分かった。この配列はヒトからウニ、イソギンチャクに至るまで広く保存されている。また、似たような配列がXLFタンパク質および早老症ワーナー症候群の原因遺伝子産物WRNタンパク質のC末端に存在する。これらの領域がXLFおよびWRNとKuとの結合に必要であることは以前に示されている。
次に、EMSA法により、DNAとの結合を調べた。この論文で用いた条件下ではAPLFのみではDNAへの結合が見られなかったが、Kuを加えると、DNA-Ku複合体のバンドが更にシフトした。MIDドメインを除いたAPLFやRKR(182-184)EEE変異体、W189G変異体では結合が見られなかった。一方、APLFの177-193番目に対応する18アミノ酸からなるペプチドや、XLF、WRNに見られる似た配列をGSTに接続すると、Kuを介したDNAへの結合が見られた。以上の結果から、APLFのこの領域がDNA-Ku複合体にリクルートするモジュールであることが明らかになった。
更に、生体内でのDNA損傷部位における複合体形成過程を解析するために、さまざまなAPLF変異体とYFPの融合タンパク質をヒト肺癌A549細胞に発現させ、UVAレーザー照射によって局所的にDNA損傷を生成させ、損傷部位への集積を解析した。DNA一本鎖切断(SSB)と二本鎖切断(DSB)が生じる条件下(レーザー出力4.36J/㎡)においては、FHAドメイン(R27A)変異体、PBZドメイン変異体、W193G変異体いずれもUVAレーザー照射領域への集積が認められたものの、正常APLFに比べると半分程度に減少していた。PBZドメインとW193Gの両方の変異を有するAPLFはUVAレーザー照射領域への集積が大きく減少し、更にFHAドメインの変異を加えるとほとんど集積が見られなかった。一方、主にSSBが生じる条件下(レーザー出力0.22J/㎡)においては、W193G変異体は正常APLFに比べてわずかしか集積が減少しなかったのに対して、PBZドメイン変異体ではほとんど集積が見られなかった。これらのことを総合すると、SSB部位へのリクルートにはPBZドメインが重要な役割を担っており、一方、DSB部位へのリクルートにはFHAドメインとKu結合部位が重要な役割を担っていると考えられた。
Ku80においては、von Willebrand-like (vWA)ドメインがAPLFとの結合に重要であることが分かった。当初の酵母two hybrid法で同定されたKu80はいずれもvWAドメインを含む部分断片であった。また、vWAのL68、Y74、I112を他のアミノ酸に置換すると、酵母two hybrid法およびEMSA法で著しい結合の減少が見られた。L68R変異を加えたKu80はレーザー照射部位には蓄積するが、APLFの核局在が著しく減少した。APLFのW189G変異体も核局在が著しく減少することから、APLFの核局在にKu80との結合が必要であることが明らかになった。
それでは、APLFとXRCC4/DNA ligase IV、XLFとの関係はどうなっているのか。著者らはここで再びEMSA法による検討を行っている。この論文の条件下では、XRCC4/DNA ligase IVが高濃度(140nM)で存在するときのみ、DNA-Ku-XRCC4/DNA ligase IVの三者複合体が見られた。しかし、更に、APLFを加えた場合、はるかに低い濃度(17 nM)でもDNA-Ku-APLF-XRCC4/DNA ligase IVの四者複合体が見られた。また、APLFはDNA-Ku複合体とXLFとの結合も同様に促進した。Ku80と結合できないW189G変異体はXRCC4およびXLFとDNA-Ku複合体の結合を促進できなかった。一方、FHAドメイン(R27A)変異体の場合、DNA-Ku複合体とXRCC4の結合は促進できなかったが、XLFとの結合は弱いながらも促進できた。これらのことから、APLFがDNA-Ku複合体とXRCC4の結合を促進するためにはFHAドメインが必要で、XRCC4のリン酸化を介して行われると考えられる。一方で、APLFがDNA-Ku複合体とXLFの結合を促進するメカニズムはこれとは異なると考えられる。
更に、生体内でのDNA損傷への集積を検討するために、APLFをshRNAでノックダウンしたA549細胞に正常および変異体APLF(shRNAでノックダウンされないように配列を改変してある)とともにGFP-XRCC4、GFP-XLFをそれぞれ発現させ、UVAレーザー照射を行った。GFP-XRCC4、GFP-XLFの照射部位への集積は、正常APLFを導入した場合に比べ、コントロールベクターを導入した場合は半分程度であった。W189G、R27A変異体では、GFP-XRCC4の集積はコントロールベクターと同程度であり、GFP-XLFの集積はコントロールベクターよりも減弱していた。
この論文の最後の部分では、APLFおよびその変異体のDSB修復における機能を解析している。APLFは、Ku、XRCC4/DNA ligase IV複合体による試験管内のDNA結合反応を促進した。R27A、W189G変異体では結合反応の促進が減弱し、二重変異体ではほとんど見られなかった。また、APLFをノックダウンしたA549細胞に正常および変異体APLFを導入し、2 Gyのγ線照射後のγH2AXフォーカス数の変化を指標としてDSB修復のカイネティクスを解析した。その結果、R27A、W189G変異体ではコントロールベクターと同程度のγH2AXフォーカスの遷延、つまり、DSB修復の遅れが認められた。
更に、DT40細胞を用いて、APLFのノックアウト細胞(APLF-/-細胞)を作製した。環状のRFP発現ベクターと制限酵素で切断したGFPベクターをco-transfectionしたところ、RFPで規格化したGFP発現細胞の割合は、正常DT40細胞に比べ、APLF-/-細胞で低下が認められた。また、APLF-/-細胞は正常DT40細胞に比べて放射線高感受性であった。APLF-/-細胞にAPLFのW189G変異体を導入すると更に放射線高感受性となった。一方、APLF-/-細胞にAPLFのR27A変異体を導入した場合は正常細胞とほとんど変わらなかった。これは上記のGFP-XRCC4の損傷部位への集積やγH2AXフォーカスの結果と矛盾するように思える。
以上が、この論文の概要である。APLFがそのMIDドメインでKu80と結合し、FHAドメインを介してXRCC4と結合することで、DSB部位でのKuとXRCC4/DNA ligase IVをつなぐ鎹の役割をすることが明らかにされた。手法として、蛍光タンパク質とレーザー照射によるライブセルイメージングに加え、EMSA法によってDNA上での複合体形成を解析しているところが特徴的で、またデータも非常にクリアで説得力がある。
一方で、いくつかの新たな問題も提起された。特に重要と思われる問題は、細胞内でのXRCC4のDNA-Ku複合体への結合にAPLFが必要なのか、という点である。本論文では、上記のようにEMSA法において、XRCC4の濃度が140 nMではAPLFがなくてもXRCC4のDNA-Ku複合体への結合が見られた。XRCC4は比較的豊富なタンパク質であり、仮に核1個あたり10万分子のXRCC4が存在するとすれば、566 nMとなる。また、結果の最後で指摘したように、FHAドメインのR27A変異体はGFP-XRCC4の集積の減弱やγH2AXフォーカスの遷延が認められるが、放射線感受性は正常と変わらない。これは一見矛盾するように思えるが、GFP-XRCC4の集積やγH2AXフォーカスの実験はヒト肺癌A549細胞で行われ、放射線感受性の検討はDT40で行われた点に注意する必要があろう。DiscussionでもAPLFをノックダウンしたヒト細胞やAPLFノックアウトマウスのMEFの放射線感受性は正常と変わらないと述べている。APLFの役割が生物種や細胞によって異なる可能性、また、DNA損傷の種類によっても異なる可能性も考えられるであろう。
引用論文
1. Kanno S, Kuzuoka H, Sasao S, Hong Z, Lan L, Nakajima S, Yasui A. A novel human AP endonuclease with conserved zinc-finger-like motifs involved in DNA strand break responses. EMBO J, 26: 2094-2103, 2007.
2. Bekker-Jensen S, Fugger K, Danielsen JR, Gromova I, Sehested M, Celis J, Bartek J, Lukas J, Mailand N. Human Xip1 (C2orf13) is a novel regulator of cellular responses to DNA strand breaks. J Biol Chem, 282: 19638-19643, 2007.
3. Iles N, Rulten S, El-Khamisy, Caldecott KW. APLF (C2orf13) is a novel human protein involved in the cellular response to chromosomal DNA strand breaks. Mol Cell Biol, 27: 3793-3803, 2007.
4. Ahel I, Ahel D, Matsusaka T, Clark AJ, Pines J, Boulton SJ, West SC. Poly(ADP-ribose)-binding zinc finger motifs in DNA repair/checkpoint proteins. Nature, 451: 81-85, 2008.
5. Li S, Kanno S, Watanabe R, Ogiwara H, Kohno T, Watanabe G, Yasui A, Lieber MR. Polynucleotide kinase and aprataxin-like forkhead-associated protein (PALF) acts as both a single-stranded DNA endonuclease and a single-stranded DNA 3’ exonuclease and can participate in DNA end joining in a biochemical system. J Biol Chem, 286: 36368-36377, 2011.
松本 義久(東京工業大学原子炉工学研究所)