非ヒト霊長類モデルにおける不均一電離放射線照射の血液学的影響
論文標題 | Hematological Effects of Non-Homogenous Ionizing Radiation Exposure in a Non-Human Primate Model |
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著者 | Jackson IL, Gibbs A, Poirier Y, Wathen L, Eley J, Draeger E, Gopalakrishnan M, Benjamin B, Vujaskovic Z. |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Radiat Res. 2019 Mar 14(in printing) |
キーワード | Hematology , non-homogenous ionizing radiation exposure , non-human primate |
【序論】
50cGyを超える放射線に曝された個人は、物理学的及び生物学的変数に応じて急性放射線症(ARS)を発症する危険がある。現在のところ、放射線被ばく者の治療は臨床的徴候及びゴールドスタンダードである二動原体染色法またはリンパ球数動態を用いた生物学的線量評価に大きく依存しているが、現在、被ばく直後に吸収線量を正確に評価することが不可能である。定量的または定性的な線量測定のための放射線生物線量測定装置の進歩は過去10年間で急速に加速しているが、生物線量測定装置の前臨床開発は、齧歯類と非ヒト霊長類(NHP)モデルを用いた両側全身照射(TBI)が用いられており、特に血液学的変化がない場合に、生体線量測定装置が身体の一部に対する被ばくまたは不均一な被ばくに対する正確性については不明である。都市部における放射線装置の爆発は、不均一な放射線被ばくをもたらすと考えられ、緊急被ばく医療におけるトリアージと治療のためのバイオドシメトリー法の開発には、骨髄に対する放射線量―体積効果の情報が必要となる。
齧歯類及びNHPモデルにおける全身照射実験では、骨髄抑制の重症度及び期間は骨髄遮蔽の量に反比例することが示されており、両脛骨または骨髄の約5%を遮蔽することによりARSの造血症候群(H-ARS)の発症を軽減することが報告されている。このことは、吸収線量の推定は、H-ARSによる骨髄抑制のリスクの予測因子として誤解を招く可能性があることを意味する。本論文では、NHPに対して4条件で照射し、照射後の造血系細胞の損傷ならびに亜致死性ARSの臨床的徴候及び症状を定量化し比較した。
【方法】
アカゲザル(雄11頭、雌12頭)を4群に分け、放射線や核攻撃で発生する可能性がある4つの放射線パターンとして、(1)両側TBI;(2)片側TBI;(3)両側上半身照射(UHBI); (4)両側下半身照射(LHBI)を行った。各アカゲザルに対し、中間深部剣状突起への4 Gy線量(6 MV X線,80 cGy/min)を各視野間で均等に分割して照射した(両側照射については視野当たり2 Gy、片側照射については4 Gy)。In vivo線量測定は、光刺激ルミネセンス検出器(OSLD)を用いて行った。末梢血を照射前14日及び照射後1、3、5、7及び14日目に採取した。
【主な結果】
・吸収線量
線量測定の結果、中間深部剣状突起での線量の偏差は6%未満であった。また、両側照射は均一な線量分布を示し、一方、片側照射不均一な線量分布を示した。
・症状及び臨床所見
高熱、10%以上の体重減少、脱水及び呼吸困難は全ての群で観察されなかった。
両側TBI群の動物は、急性放射線被ばくに特徴的な一般的な臨床徴候及び症状を示した。片側TBI群及びUHBI群の動物も、両側TBI群の動物と同様の臨床的徴候及び症状を示した。一方、LHBI群の動物は急性放射線被ばくのより軽い症状を示した。
・体重の変化
両側TBI群は、片側TBI群、およびUHBI群照射後1週間の間に体重が2.0〜3.0%減少したが、LHBI群では照射後に体重減少を示さず、代わりに1〜14日目の間に体重の約5.0%増加した。
・血液学的パラメータ
両側TBI群では、白血球数(WBC)、好中球絶対数(ANC)、リンパ球絶対数(ALC)及び血小板数の減少を特徴とする汎血球減少症を示した。これはH-ARSに関連した骨髄抑制と一致する。片側TBI群では、両側性TBIを受けた動物と同様の汎血球減少症の発症及び重症度を示したが、血小板減少症の徴候は中等度であった。UHBI群では骨髄抑制の発症に関して両側TBI群と同様のプロファイルを示したが、骨髄抑制は、両側TBI群及び片側TBI群と比較して軽度で、また、どの動物も重度の好中球減少症または血小板減少症の徴候を示さなかった。一方、LHBI群の動物は他の3群と比較し、最も重症度の低い造血毒性を示した。
・剖検での肉眼所見
両側TBI群では、安楽死の前の14日目に臨床検査で全身性点状出血および斑状出血を示した。剖検時の重要臓器の肉眼的検査では、肺出血および腎臓でびまん性点状出血が一部の個体で認められた。片側TBI群の動物でも両側TBI群とほぼ同様の結果が得られた。両側UHBI群では、主要臓器の肉眼的検査および病理検査においてより大きな変化が認められた。一方、両側LHBI群では、障害の程度は最も軽度であった。
【まとめ】
両側及び片側TBI群の動物は血液学的変化及び急性放射線症候群に特徴的な臨床的徴候や症状を示した。両側UHBI群の動物は骨髄抑制を示したが、いずれの動物も重度の好中球減少症または血小板減少症を発症しなかった。対照的に、LHBI群の動物は骨髄毒性から保護されていたが、血液学的パラメータの著しい変化はなく、わずかな肉眼的病理のみであった。本研究では、遮蔽の増加により骨髄毒性が減少することが示され、頭蓋骨、肋骨、胸骨、胸椎および腰椎などの主要造血器官の遮蔽が、動物を骨髄毒性から保護することを明らかにし、吸収線量の生物学的影響が放射線被ばくの総量とパターンに依存していることが示唆された。不均一な被ばくにおいて、H-ARSの発症に対する個々のリスクに基づくトリアージが医療マネージメントにとって重要な課題となる。大量傷病者発生時、利用可能な資源は限られているため、ARSの発症をもたらす生物学的危害のリスクを予測するためのバイオマーカーの開発は、被ばく者のトリアージと治療を改善するであろう。