成体期腸幹細胞の起源をたどる
論文標題 | Tracing the origin of adult intestinal stem cells |
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著者 | Guiu J, Hannezo E, Yui S, Demharter S, Ulyanchenko S, Maimets M, Jørgensen A, Perlman S, Lundvall L, Mamsen LS, Larsen A, Olesen RH, Andersen CY, Thuesen LL, Hare KJ, Pers TH, Khodosevich K, Simons BD, Jensen KB |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Nature. 570(7759):107-111, 2019 |
キーワード | 幹細胞 , 胎仔 , 成体 , Lgr5 |
【背景と目的】
腸管上皮は、絨毛(villi)と陰窩(crypt)の2つのコンパートメントから構成されている。腸幹細胞と未分化な増殖細胞はcryptに存在し、分化とともにvilliへと移動して数日以内に脱落し、腸上皮細胞の代謝回転(ターンオーバー)を行っている。成体の腸上皮幹細胞は、crypt底部に存在することが知られており、2007年にHans Cleversらの研究により、Lgr5陽性細胞が成体期における幹細胞として同定された。これまでに、胎仔期においてもLgr5陽性細胞は存在し、成体の腸上皮幹細胞の起源と考えられていたが、胎仔期腸幹細胞の運命を追跡した報告は数少ない。そこで、本研究では、成体期腸幹細胞の性質は、胎仔期に既に運命づけられているのか、それとも、成長期に誘導されるのかについて、細胞系譜追跡(lineage tracing)手法、生物物理学的モデル化、腸移植技術などを用いて明らかにすることを目的としている。
【主な結果】
まず、胎仔期のLgr5陽性細胞をLineage tracing手法を用いてラベル化し、成体期に観察を行った結果、ラベル化されたcryptとvilliが検出された。このことは、これまでの報告どおり、胎仔期のLgr5陽性細胞が、成体の腸上皮幹細胞を生み出すことを示しているが、その頻度は非常に低かった。そこで、ユビキタスに発現しているkeratin 19 (Krt19)に着目して同様の実験を行った結果、胎仔期では、マウス腸上皮の全ての細胞が、胎仔腸管における絨毛領域や絨毛間領域といった位置や幹細胞マーカーの発現パターンに関係なく、成体の腸上皮幹細胞となりうる事を明らかにした。3D画像化技術を用いることにより、胎仔の発生過程では、絨毛に全体的なリモデリングと分裂(fission)が起こることが分かった。これによって胎仔期の上皮細胞は、絨毛から絨毛間領域へと移動し、成体の幹細胞ニッチに寄与できるようになる。モデル化により得られる結果を用いて比較したところ、実際の実験から得られた結果は、これまで考えられてきた成体期でみられるcryptからvilliへの移行モデルでは説明できず、新たなvilli formationとfissionが起きるモデル(cell-repositioning model)により最も説明できる結果となった。さらに、胎仔期の細胞を絨毛領域(Lgr5-CD44-)と絨毛間領域(Lgr5+CD44+)に分画し、成体マウスを用いた移植実験を行った結果、どちらの分画も同じように損傷した腸の再構築能を有することが明らかになった。このことからも、胎仔期の全ての腸上皮細胞は、成体期の幹細胞として機能する(equipotent stem cell)といえると結論づけている。
【まとめ】
本研究は、これまでに明らかにされていなかった胎仔期における腸上皮の大規模なリモデリングが細胞運命決定と密接に関係することを示した重要な報告であるといえる。さらに、成人期における小腸幹細胞としての性質は、生まれながらに運命づけられている特性というよりも誘導される特性であることを明らかにした重要な知見といえる。本研究は、放射線発がんの分子機構解明に重要な知見といえる。