RPAのリン酸化はDNA resectionを抑制する
論文標題 | RPA Phosphorylation Inhibits DNA Resection |
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著者 | Soniat MM, Myler LR, Kuo HC, Paull TT, Finkelstein IJ. |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Mol Cell. 75(1): 145-153, 2019 |
キーワード | DNA repair , RPA , BLM |
【はじめに】
相同組換え(homologous recombination; HR)はDNA二本鎖切断(double strand break; DSB)修復において広く保存された経路であり、姉妹染色体を利用して修復を行う。真核生物におけるHRはMRE11-RAD50-NBS1(MRN)複合体によって促進される。MRN複合体はDSB末端からDNA付加体を取り除き、ヘリカーゼであるBLMとエキソヌクレアーゼであるEXO1またはDNA2とともに損傷部位へ集積することによってHRを促進する。一本鎖DNA(single stranded DNA; ssDNA)は二本鎖のうちの片方のDNAの核酸分解(DNAの削り込み; DNA resection)によって生成される。生成されたssDNAはRPAによって迅速に覆われ、RPA-ssDNAフィラメントはATR、ATM、CDK、DNA-PKcsによってリン酸化される。RPAのリン酸化はDNA損傷応答によって誘導され、DSBにおけるDNA resectionのマーカーとしても使われる。しかしながら、DNA resectionの際のRPAのリン酸化の役割やDNA resectionを制御する機構はまだ十分にはわかっていない。本論文では、真核生物におけるRPAのリン酸化がクロマチン上のDNA resectionに重要であることを立証するため、一分子蛍光イメージングおよび細胞レベルでの解析を行っている。
【主な結果】
筆者らは、脂質が被覆された水晶板の表面に48.5 kb長のDNA分子がついたミクロ流体流量計を開発し、in vitroでの一分子蛍光イメージングの実験系(DNAカーテンアッセイ)を行った[1]。DNA分子に組換えBLMとEXO1またはDNA2を結合させてDNA resectionを解析した結果、BLMはDNA resectionの速度と処理能力を高めることが示された。次に、RPAがBLM/EXO1またはBLM/DNA2によるDNA resectionをどのように制御しているのか検討した結果、RPAは両者複合体によるDNA resectionの開始を促進し、迅速かつ効率の良い削り込みが生じることを示した。
RPAのリン酸化はRPA70サブユニット内の構造の変化を誘導することが既にわかっており、筆者らはその構造の変化がリン酸化RPA(pRPA)とBLM/EXO1またはBLM/DNA2との相互作用を変化させていると考えた。この仮説を立証すべく、N末端がリン酸化されたRPAに蛍光基質を結合させたpRPAを精製し、DNAカーテンアッセイを行った。その結果、BLM/EXO1またはBLM/DNA2によるDNA resectionの速度と処理能力の低下が示された。これは疑似リン酸化RPA2変異体を用いた場合も同様の結果が得られた。また、内在性RPA2を発現抑制し、RPA2の野生型、擬似リン酸化変異体または非リン酸化変異体を過剰発現させた細胞に制限酵素AsiSIによるDSBを誘発させた際のDNA resectionの程度を定量的PCRによって解析した。野生型および非リン酸化RPA2変異体発現細胞はコントロール細胞と同等のDNAの削り込みであった。しかしながら、擬似リン酸化RPA2変異体発現細胞はDNA resectionが顕著に抑えられた。また、DR-GFPアッセイより、非リン酸化RPA2変異体発現細胞は野生型RPA2発現細胞と同等のHR効率を示したのに対し、擬似リン酸化RPA2変異体発現細胞ではHR効率の低下が見られた。したがって、RPAのリン酸化はDNA resectionおよびHRを抑制することが示唆された。
RPA70サブユニットのN末端ドメイン(RPA70N)はBLMやRPA32サブユニットのN末端のリン酸化と相互作用することがわかっている。そこで、この相互作用がDNA resectionの制御に重要であるか確認するため、RPA70サブユニットのN末端から168残基分を欠損させた変異体(RPAΔN)存在下におけるDNA resectionについてDNAカーテンアッセイを行った。RPAΔNはBLM/EXO1およびBLM/DNA2によるDNA resectionの速度と処理能力を低減させることが示された。また、野生型RPAが結合したDNAで、RPA70Nの塩基の裂け目に結合してATRIPやBLMとの相互作用を阻害するRPA70N阻害剤(3,3',5,5'-テトラヨードチロ酢酸)を加えた場合やヒトRPA70Nのアミノ酸配列とあまり合致しない酵母RPAが結合したDNAの場合でも、RPAΔNと同様の結果が得られた。一方、非リン酸化RPA2変異体が結合したDNAではDNA resectionは抑制されなかった。また、RPAはBLM、EXO1およびDNA2を制御しているのか調べるため、BLM非存在下かつpRPAが結合したDNAにおけるEXO1およびDNA2の機能への影響について検討した。EXO1単独ではリン酸化RPAによってDNAから迅速に遊離した。また、DNA2単独ではリン酸化の状態は問わず、3末端側ssDNAの末端からの移動が開始されなかった。したがって、RPAはDNA resectionを調節するためにBLMと相互作用していることが示唆された。
次にDNA分子に結合させたBLMについて検討を行った。DNA上のRPAの結合の有無に関わらず、1 mM ATP添加後にBLMがDNA上を移動しているのが示された。しかしながら、pRPA、擬似リン酸化RPA2変異体、RPAΔN、酵母RPAをそれぞれDNAに結合させた場合は、BLMの働きは阻害された。さらに、上記の4種のRPAによって、BLMが結合したDNA鎖から鋳型鎖へ配置換え(strand-switching)を誘導した。一方、RPAが結合したDNAではstrand-switchingが完全に抑制された。したがって、RPA70NはBLMヘリケースの開始を誘導し、BLMの内在的なstrand-switching活性を抑制していることを示唆した。
次にヌクレオソームがDNA resectionの障害になりうるか確認するため、ヒトH2Aが4±1個結合したDNAを用いて解析を行った。EXO1単独では通りすぎる際のヌクレオソームを除くことはできなかった。また、DNA2もBLMが結合していないDNAではDNA resectionが開始されなかった。一方で、RPAとBLMがDNA上に存在する場合、BLMがヌクレオソームを進行方向へ押し進めることが示された。さらに、EXO1またはDNA2によってヌクレオソームを除く可能性が示され、RPA存在下はヌクレオソームの除去率が上昇した。また、Resection因子とヌクレオソームの衝突事象の60%以上は、ヌクレオソームが進行方向へ押し進められることを示した。しかしながら、pRPAまたは擬似リン酸化RPA2変異体が結合したDNAでは、最初に衝突するヌクレオソームによってBLM/EXO1またはBLM/DNA2によるDNA resectionが抑制された。以上の結果から、BLMはresection因子が通り過ぎる際のヌクレオソームの移動または除去を援助することが示唆された。さらに、RPAのリン酸化はresection因子がヌクレオソームと衝突する位置でDNA resectionを即座に停滞させることが示された。
【まとめ】
RPAはRPA70NとBLMの相互作用を介してEXO1およびDNA2によるDNA resectionを促進させる。しかし、RPAがリン酸化されると、EXO1/BLMまたはEXO1/DNA2によるDNA resectionを劇的に遅らせ、ヌクレアーゼによるDNA resectionが行われない場合はBLMのstrand-switchingが生じる。また、RPAが結合したDNAでは、BLM/EXO1およびBLM/DNA2はヌクレオソームを除去または移動させることが可能だが、RPAがリン酸化されるとそれらが抑制される。よって、pRPAはDNA resectionやBLMヘリケース活性が関与する他の事象に対して重要な負の調節因子である。
本論文は放射線誘発DSBにおけるHR修復機構の詳細解明の観点からも興味深い内容であると思い、紹介させていただきました。
[1] Gallardo, I.F., Pasupathy, P., Brown, M., Manhart, C.M., Neikirk, D.P., Alani, E.,and Finkelstein, I.J. High-throughput universal DNA curtain arrays for single-molecule fluorescence imaging. Langmuir 31, 10310–10317, 2015.