ラドン温泉が末梢血リンパ球サブセットに与える影響

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ラドンは環境中に広く存在する放射性の不活性ガスであり、自然放射線による被ばくの54%はラドンやその娘核種に由来する。動物実験、臨床研究、疫学調査などにより、ラドン曝露はたばこにつぐ肺がんのリスク要因であることがあきらかになっている。近年では、長期ラドン曝露による肺がんリスクが注目されている。他方、日本やヨーロッパではラドン温泉の疼痛、関節炎、皮膚疾患、気管支炎、炎症疾患などの緩和効果を広く活用している。本研究では、ラドン温泉が周辺住民に与える健康影響を明らかにするために、末梢血中のリンパ球サブセットの分析をした。
対象は中国河北省屏山県の住民で、以下の条件を満たす者とした。①長期間住んでいること、②移住していないこと、③直近にウイルスやバクテリアに感染していないこと、④悪性疾患に罹患したり薬を服用していないこと、⑤6か月以内にX線の被ばくがないこと。ラドン温泉群は、29歳から68歳（平均年齢42.85歳，61名）をランダムに選んだ。対照群は、生活環境が類似し、かつ、ラドン温泉に曝露されていない25歳から71歳（平均年齢45.90歳，51名）をランダムに選んだ。両群の年齢や性別に有意な差はなかった。ラドン温泉中のラドン濃度は102±11.4Bq/L、屋内ラドン濃度は41.9±18.6Bq/m3だった。対照地区の屋内ラドン濃度は42.4 + 20.2 Bq/m3だった。ラドン温泉群のうち、52.38％が自宅に温泉を持っていた。冬は1人あたり10.48回/月、夏は27.31回/月入浴した。ラドン温泉を持っている人のうち、45.24%は入浴、9.52%はシャワーをした。対照群は、自宅にラドン温泉はなく、冬は1人あたり3.30回/月、夏は28.25回/月入浴した。86.36％はシャワーで、入浴するものはいなかった。
ラドン温泉地区住民の末梢血中のCD8+細胞の割合は、対照地区住民のそれより低く、TCR/CD3複合体とCD4+/CD8+細胞の割合は有意に高かった。低線量・低LET放射線が胸腺細胞の再生や成長を促進してTCR/CD3の発現を増加させることについて原著論文で言及されており、本実験条件下でのラドン（低線量・高LET放射線）でも同様の作用があることが示唆された。また、本実験結果は、ラドン温泉の入浴によりCD4+が増加、CD8+が減少するという先行研究とも一致した。過去の調査結果に基づき[1, 2]、著者らは、ラドン温泉地区住民の免疫機能の亢進には２つの理由があると述べている。1つ目は、低線量放射線により放射線感受性の低いS期が長くなることで末梢血のS期リンパ球が増加し、G0/G1期のそれが減少したこと、2つ目は、長期間ラドン温泉に入浴することにより抗酸化機能が亢進することで、酸化ストレスが軽減されたことが関与していると考察されている。また、ラドン温泉地区住民のがん罹患率は、対照地区住民のそれに比べ有意に低いこともわかった。これは、ラドンに長期間曝露したことにより、免疫機能や抗酸化機能が亢進し、酸化ストレスが軽減したことが関与していると推測している。他方、ラドン温泉地区住民のリウマチの罹患率は、対照地区住民のそれに比べ有意に高かった。これはサンプルサイズが小さいことや複雑な病因のためと考察されている。
ラドン温泉地区（三朝町，鳥取県）住民のがん死亡率の調査は過去にも実施されてきたが、その後、こういった調査研究は少ない。ラドン温泉が健康に与える影響についてのさらなる研究が期待される。

【参考文献】
1. Gao YX, Tian M, Gao Gang, Ruan J, Pu Ch, Wu L, Liu J. Cell cycle and its regulatory proteins in the peripheral blood lymphocytes of the residents living in a radon hot spring area [in Chinese]. Chin J Radiol Med Prot. 38(1):12-16, 2018.
2. Gao YX, Tian M, Gao G, Wang X, Liu J. Changes of 8-OHdG and TrxR in the residents who bathe in radon hot springs. Dose-Response. 17(1):1559325818820974, 2019.