ZNF281はDNA鎖切断部位に集積し非相同末端結合を介したDNA修復を促進する
論文標題 | ZNF281 is recruited on DNA breaks to facilitate DNA repair by non-homologous end joining |
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著者 | Nicolai S, Mahen R, Raschellà G, Marini A, Pieraccioli M, Malewicz M, Venkitaraman AR, Melino G |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Oncogene, 39: 754-766, 2020 |
キーワード | ZNF281 , DNA二重鎖切断 , 非相同末端結合 , PARP , がん治療予後指標 |
【背景・目的】
細胞にはゲノム情報維持のために、DNA損傷を感知して異常細胞の出現を防止するシステム(DNA damage response: DDR)が備わっているが、その反応は抗がん剤処理や放射線照射されたがん細胞の抵抗性にも関わっている。DNA二重鎖切断(DSBs)は細胞死に直結する損傷であるが、主として組換え修復(HR)と非相同末端結合(NHEJ)により修復されることが知られている。しかし、両者の相互関係や各修復経路を制御する詳細な分子機構に関しては未だに明らかになっていない。
亜鉛(Zn)フィンガータンパク質(ZNF)は、DNA塩基配列を選択的に認識するDNA結合モチーフを有した代表的な転写因子である。すでに、DNA損傷により ZNF281がリン酸化し[1]、XRCC2およびXRCC4の発現を上昇させる[2]ことが報告され、ZNF281は転写因子としての役割に加えDDR因子としても働いていることが明らかとなっている。最近、Nicolaiらは、細胞にDSBsを誘発後、経時的に蛍光標識ZNF281の分布動態(time-lapse images)を詳細に解析することにより、DDR反応におけるZNF281の役割を明らかにするとともに、がん治療後の予後因子としての可能性について調べたので紹介する。
【結果】
まず著者らは、ヒトU2OS細胞にEGFP遺伝子を結合させたZNF281遺伝子を導入し、ZNF281がレーザー(UV-A)マイクロ照射により生じたDNA損傷部位に速やかにZNF281が移行・集積することを蛍光顕微鏡の経時的な画像解析システムを用いて示した。また特定染色体部位(1番染色体1ヵ所)とリボソームDNAにDSBsを誘発する制限酵素I-PpoIを条件発現させた細胞についてクロマチン免疫沈降解析を行い、ZNF281がDSBs誘発1番染色体のI-PpoI切断部位にのみ集積することが確認された。siRNAでZNF281発現をノックダウンした(siZNF281)細胞およびCRISPER/Cas9でノックアウトした(ZNF281 KO)細胞では、X線照射後2~8時間培養してもγH2AXフォーカス数の低下は抑制されることから、ZNF281欠損によりDNA損傷修復が阻害されることが判明した。さらに、siZNF281細胞にそれぞれHRあるいはNHEJレポータ遺伝子(cassette)を導入し、制限酵素I-SceI発現によりDSBsを誘発すると、HR活性は正常細胞との間で差異がなかったが、NHEJの方は正常細胞に比べて有意に低下した。また、種々の突然変異型のZNF281遺伝子を作成しFLAG遺伝子と結合させて細胞に導入し、各遺伝子産物とNHEJ構成因子との免疫共沈降実験(CoIP)を行った。その結果、ZNF281はKu70やDNA-PKcs、XRCC4と結合するが、Znフィンガー(DNA結合ドメイン)領域が欠損したZNF281(1-174)ではKu70およびXRCC4と結合しなかった。一方、siRNAでこれらのNHEJ構成因子のノックダウン細胞を用いてDNA損傷誘発後のZNF281の集積動態を調べたところ、ZNF281の損傷部位への集積には変化はなく、siZNF281細胞ではXRCC4の損傷部位への集積が著しく低下した。
しかし、Matsuokaらが同定したATM/ATRによるZNF281のリン酸化部位(1)の内2ヵ所を非リン酸化型としたZNF281(S785A + S807A)においても、野生型と同様のDNA損傷部位への集積動態を示した。この結果は、損傷クロマチンへの移行・集積で見る限りDDR因子としてのZNF281のリン酸化は活性化トリガーとなりえないことを示唆している。ただ興味あることに、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)1の阻害剤(Olaparib)を処理するとUV-A誘発DNA損傷部位へのZNF281の集積が大きく抑制された。加えて、クロマチン免疫沈降シークエンス法を用いてZNF281とXRCC4のDSBs部位への集積動態を比較したところ、ZNF281がXRCC4のDNA損傷部位への移行・集積を促進していることが判明した。
次に著者らは、実際にZNF281が放射線感受性を左右するか否かについて調べた。種々の線量のX線を野生型ZNF281細胞と2種のZNF281 KO細胞に照射し、コロニー形成能を指標として生存率を調べたとこところ、KO細胞の方がより高感受性となった。このことはZNF281を標的とした siRNA導入HEK293細胞で確認されたので、ZNF281の発現レベルが放射線やDNA損傷を誘発する抗がん剤に対する抵抗性の予測指標となる可能性を示唆する。実際、著者らは大型がんゲノムプロジェクトデータ(TCGA: The Cancer Genome Atlas)を用いて、各種がん患者の治療予後に関連した遺伝子検索(タンパク質発現と予後との関り)を行い、ZNF281高発現の肉腫や腺癌、メラノーマ患者では放射線や抗がん剤治療を行っても予後不良となることを示した。
【考察】
本研究ではZNF281は転写因子としての機能に加えて、DSBsが生じると速やかにDNA損傷部位に集積しXRCC4を伴ってNHEJ修復を促進することを示した。またレーザー(UV-A)マイクロ照射実験において、ZNF281のDNA損傷部位への移行・集積には①ZNF281のZnフィンガー領域の存在と②PARP活性に依存することが明らかになった。後者については、DSBs部位へのXRCC4の結合には部分的なヌクレオソームの再構成が必要なことから、NHEJにはクロマチンや他のDDR因子のポリADPリボシル化が深く関わると思われる。さらに、DNA損傷を誘発する放射線や抗がん剤で治療されたがん患者のゲノム情報解析結果において、ZNF281低発現患者は治療効果が高いが、ZNF281高発現患者では予後不良となることを示した点は注目に値する。この場合は、ZNF281のDNA損傷部位への集積がPARP活性に依存することから、ZNF281高発現患者にはPARP阻害剤を利用する新たな治療法が考えられる。
著者らの研究結果は、ZNF281が基本転写因子としての機能に加え、NHEJを介したDNA損傷修復を促進するDDR因子としての役割を担うだけでなく、新たながん治療の予後指標になることを示唆する。今後は広範な研究へと発展し、多様なZNF281機能の全貌が解明されることを期待する。
【参考文献】
1. Matsuoka S, Ballif BA, Smogorzewska A, McDonald ER III, Hurov KE, Luo J, Bakalarski CE, Zhao Z, Solimini N, Lerenthal Y, Shiloh Y, Gygi SP, Elledge SJ. ATM and ATR substrate analysis reveals extensive protein networks responsive to DNA damage. Science 316: 1160–1166, 2007.
2. M Pieraccioli, S Nicolai, A Antonov, J Somers, M Malewicz, G Melino, G Raschellà.
ZNF281 contributes to the DNA damage response by controlling the expression of XRCC2 and XRCC4. Oncogene 35: 2592-2601, 2016