日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

DNA依存性タンパク質キナーゼ (DNA-dependent protein kinase: DNA-PK) はMRNおよびCtIPによるDNA末端プロセシングを促進する

論文標題 DNA-dependent protein kinase promotes DNA end processing by MRN and CtIP
著者 Deshpande RA, Myler LR, Soniat MM, Makharashvili N, Lee L, Lees-Miller SP, Finkelstein IJ, Paull TT
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Sci Adv. 6: eaay0922, 2020
キーワード DNA-dependent protein kinase , DNA end processing , MRN complex , CtIP

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【はじめに】
 DNA二重鎖切断 (DSB) は、放射線や紫外線、活性酸素などによって生じる最も重篤なDNA損傷であり、主に非相同末端結合 (C-NHEJ) および相同組換え (HR) の2つの経路によって修復される。これら経路の中で、DNA-PKcsおよびKu70/Ku80ヘテロダイマー (Ku) から構成されるDNA-PK複合体は、C-NHEJにおいて重要な役割を果たしている。さらに、DNA-PKは細胞内に豊富に存在し、DNA末端と高い親和性を持つため、two-ended DSB末端だけでなく、一般にHRによって優先的に修復されると考えられるsingle-ended DSB (複製フォークの進行中にDNA損傷と衝突した際などに産生される末端を1つしか持たないDSB) の末端にも迅速に結合し、末端プロセシングおよびHRを制限する可能性がある。また、Mre11/Rad50/Nbs1 (MRN) 複合体およびCtIPは、末端リセクションの開始を制御することで、HRにおいて重要な役割を果たし、DNA末端上でのタンパク質ブロックの存在がin vitroにおいてMRNエンドヌクレアーゼ活性を刺激することも示されている。そこで、Tanya Paull博士らのグループは、DNA末端上でのDNA-PKの存在がMRN依存的な末端リセクションを制御し、これらの相互作用がヒト細胞におけるC-NHEJおよびHR経路の選択に重要な役割を果たすという可能性を考慮して本研究を行っている。

【結果】
 はじめに、in vitroにおいて末端のプロセシング (切断) 反応を解析するためにNuclease assayを実施した。これは放射性ラベルした二重鎖DNA (dsDNA) 基質とMRN複合体、CtIP、Ku、DNA-PKcsを目的に応じて組成を変えて反応させ、プロセシング活性を電気泳動後の切断産物のバンドとして検出する実験系である。
1. この系を用いてMRN複合体による末端プロセシングに対するDNA-PK複合体の影響をテストしたところ、MRN複合体、CtIPとKuのみを反応させた場合と比較して、反応液へのDNA-PKcsのさらなる添加 (=DNA-PK複合体の形成) は切断効率を約50倍に増加させた。また、生理条件下 (反応液中にMgのみを含む) における切断産物の形成にはKuおよびDNA-PKcsの両方が必要とされたことから、細胞内のMRN複合体による適切な末端プロセシング活性はDNA-PK複合体に依存すると結論付けた。次に、反応液中に含まれるMre11およびCtIPはどちらもエンドヌクレアーゼ活性を示すことから、どちらが末端プロセシング活性において主要なタンパク質であるかを調べた。ヌクレアーゼ欠損Mre11 [H129N] の反応液への添加はMRNによるDNA-PK依存的な切断産物を完全に消滅させた一方で、ヌクレアーゼ欠損CtIP [N289A/H290A: NAHA] の添加では強い切断活性を保持しており、末端プロセングにはMre11のエンドヌクレアーゼ活性が重要であることが示唆された。なお、効率的な切断産物の形成にはCtIPが必要であることも示された。

2. CtIPは様々なキナーゼによってリン酸化され、リン酸化されたCtIPはDNAエンドリセクションを促進することが知られている。そこでMRN複合体による末端プロセシングに対するリン酸化CtIPの機能をテストしたところ、CDKおよびATM/ATRによってリン酸化される部位を変異させたCtIP [T847AおよびT859A] の反応液への添加は、CtIP-WTと比較して、MRNによる切断効率を大きく減少させた。また、免疫沈降の結果、KuおよびDNA-PKcsは各々が独立してCtIPと親和性を持ち、MRNとCtIPとの相互作用はDNA-PK存在下で7~8倍の増加を示した。以上のことから、CtIPはMRN複合体と直接的に相互作用し、CDKおよびATM/ATRキナーゼによってリン酸化されることが、DNA-PKの結合したDNA末端上でMRNエンドヌクレアーゼ活性を刺激するために重要であると示唆された。

 続いて、DNA-PKとMRN複合体との間の相互作用をより詳細に調べるため、蛍光顕微鏡による1分子観察法であるDNA curtains assayを用いてKu、DNA-PKcs、MRNおよびCtIPのDNA上での動態を観察し、次の3, 4の結果を得た。
3. DNA上でのKuおよびDNA-PKcsの動態を解析したところ、DNA-PKcs単独ではDNAとの一時的な結合のみを示した一方で、KuヘテロダイマーをあらかじめロードしておくとDNA-PKcsはKu結合DNA末端と安定的な結合を示した。さらに、リン酸化されない変異体Ku (T305A/S306A/T307A/S314A/T316A [5A]) はDNA末端でDNA-PKcsをさらに安定化させたことから、Ku70 S/TQ 305–316クラスターのリン酸化がDNA末端とDNA-PKの結合を制御していることが確認された。

4. DNA上でのMRNおよびCtIPとDNA-PK複合体の動態を解析したところ、MRN単独の添加は2つの複合体 (MRNとDNA-PK) の安定的な共局在を示したが、MRN/CtIPの添加はDNA末端からのDNA-PKcsおよびKu両方の除去を導いた。CtIPおよびヌクレアーゼ変異M (H129N) RNの添加、CtIP単独での添加、リン酸化されないCtIP (T847A/T859A) およびMRNの添加は、いずれもDNA-PKを除去できなかった。以上のことから、DNA-PK複合体とMRN複合体の共局在は、DNA末端からのDNA-PK除去の促進に関して十分ではなく、リン酸化CtIPがMRNヌクレアーゼによるDNA-PK除去に必要であることが示唆された。

5. 最後に、in vitroで確認されたプロセシング反応がヒト細胞内で実際に生じるかどうかを確認するために、4-hydroxytamoxifen (4-OHT) 処理によってAsiSIヌクレアーゼ誘導性のDSB導入ができる細胞系を使用して、クロマチン免疫沈降 (ChIP) を実施した。4-OHT添加に強く依存してDNA-PKに結合したDSB近傍領域が検出され、DNA-PKcs阻害剤 (NU7441) 処理はDSB近傍領域の大幅な回収量増加を示した。また、PMF03 (Mre11エンドヌクレアーゼ阻害剤) 添加によって、回収されるDSB近傍領域は顕著に減少した。以上により、DNA-PK複合体に依存したMRN複合体による適切な末端プロセシング活性は、ヒト細胞内でも実際に機能していることが示された。

【おわりに】
 著者らはDNA-PK依存的なMRN複合体による末端プロセシングに関して以下の保存されたモデルを提案している。
DSBが生じると、DNA-PKcsはDNA末端のKuヘテロダイマーと結合することでC-NHEJに関与する。C-NHEJを行うことができずDNA-PKがDSB末端に残存したままになると、DNA-PKおよびリン酸化CtIPによって刺激されたMRNエンドヌクレアーゼ活性による一本鎖の切断とその後の末端リセクションの進行、あるいはMRNエンドヌクレアーゼ活性による二本鎖の切断に続く末端リセクションの結果として、KuおよびDNA-PKcsのDNA末端からの解離が起こる。さらなる広範囲の5’→3’方向へのリセクションは、3’-突出一本鎖DNAを産生し、C-NHEJからHRへの移行を可能にする。本論文はDNA-PKがC-NHEJおよびHRに対して二重の役割を持つことを示した。この知見は放射線で誘発されるDSBsの修復メカニズムに関する基礎的な理解の深化に役立つ。