新たなファンコニ貧血遺伝子FANCQは色素性乾皮症遺伝子XPFと同一である
論文標題 | Mutations in ERCC4, Encoding the DNA-Repair Endonuclease XPF, Cause Fanconi Anemia. |
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著者 | Bogliolo M, Schuster B, Stoepker C, Derkunt B, Su Y, Raams A, Trujillo JP, Minguillón J, Ramírez MJ, Pujol R, Casado JA, Baños R, Rio P, Knies K, Zúñiga S, Benítez J, Bueren JA, Jaspers NG, Schärer OD, de Winter JP, Schindler D, Surrallés J |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Am J Hum Genet, 92, 800-806, 2013. |
キーワード | ファンコニー貧血 , FANCQ , XPF , 色素性乾皮症 , 染色体不安定性 |
ファンコニ貧血(Fanconi anemia, FA)はまれな小児血液疾患で、生下時の奇形、進行性の再生不良性貧血、高頻度の白血病と頭頸部を中心とした固形がんの発生が特徴的なゲノム不安定疾患である。FAの細胞はマイトマイシンC(MMC)刺激後、染色体断裂を高頻度に示し(佐々木正夫先生によって発見された染色体脆弱性試験)、interstrand crosslink(ICL)の修復に欠損があるとされている。FA原因遺伝子は従来15個が同定されていたが、今回16番目のFANCQが同定されたので紹介する。それは実は色素性乾皮症(xerdermia pigmentosum, XP)遺伝子のXPFであった。
XPFはERCC1蛋白質と会合しヌクレアーゼとして機能する分子である。紫外線損傷を修復するヌクレオチド除去修復(nucleotide excision repair, NER)機構においては、アダクトを含んだDNAの5’側で切断する。ICL修復においては、FANCP/SLX4に会合しICLの切出し(unhooking)に必要と考えられてきた。その意味では、XPFがFAの原因となることは順当である。しかし、XPとの関係は複雑で理解しにくい。本稿ではできるだけの解説を試みる。
スペインのSurrallesらは、従来の15個の遺伝子に変異の見つからない1症例において、ゲノム上の全エクソン(エクソーム)をシーケンスし、XPF(=ERCC4)遺伝子のエクソン11にミスセンス変異((c.2065C>A [p. Arg689Ser])を、エクソン8に5塩基のdeletion (c.1484_1488delCTCAA [p. Thr495Asnfs*6])を見いだした。またドイツのSchindlerらは、18例の原因遺伝子不明例のサンガーシーケンスを行い、1例にエクソン4のミスセンス変異c.689T>C [p.Leu230Pro])、エクソン11に28塩基のduplication c.2371_2398dup28 [p.Ile800Thrfs*24])を見いだした。両例ともに、片方のアレルがフレームシフトを伴うトランケーション、片方がミスセンス変異である。2症例とも、典型的なFAの症状を呈しており、再生不良性貧血で、染色体脆弱性試験陽性。FANCD2のモノユビキチン化は正常で、FA経路の上流の問題はなく、Rad51のフォーカスも正常であった。一方、XPらしい皮膚の紫外線感受性を疑わせる所見は観察されなかった。
これらの症例のリンパ球に野生型のXPFを導入すると、MMC感受性は正常化した。見つかったミスセンス変異を持たせたXPFをXPFノックアウトマウスの胎児線維芽細胞に導入してもMMC感受性をもどせなかった。したがって、これらのミスセンス変異はXPFのICL修復における機能を阻害することがわかる。
これらの変異がFAを引き起こし、XPを起こさないとすれば、それはなぜなのか。今回発見されたミスセンス変異ではICL修復のみ低下し、NERは正常なのではないかと考え、これらの患者細胞の紫外線感受性を測定したところ、スペインの症例は正常、ドイツの症例は軽度の低下を認めるのみであった。この論文では、XPFの変異によってXPを発症した患者細胞では、より強い紫外線感受性と、軽度のMMC感受性を示すことが同時に示されている。また、興味深いことにXPF遺伝子の変異(c. 408G>C, [p.Arg153Pro])により早老症を呈した症例XPE progeroid 症候群が以前報告されている(Nature 444: 1038, 20076)。XFE症例の細胞は、今回の2症例と同等のMMC感受性を示し、さらに通常のXP以上に強いUV感受性も示している。染色体断裂試験でも、今回の症例とXFEは、既存のFA細胞と同様のレベルの断裂頻度を示した。
XP細胞は、NER欠損のため、UV照射後のS期によらないDNA合成が低下する(unscheduled DNA synthesis test)。この方法で今回の症例を調べると、その低下は4割程度で、マイルドであると言えそうである。また、XPF細胞(XP2YO)に野生型と今回発見された変異型のXPFをもどして、UV照射後の細胞内の6-4光産物量を定量し、修復活性を直接測定したところ、ミスセンス変異を持たせたXPF発現でもほぼ正常に近い修復活性を示していた。
さらに、生化学的にArg289SerとArg289Ala型のXPFをリコンビナント蛋白質として、その会合分子であるERCC1とともに精製し、インビトロのNER反応とstem loop型DNA基質の切断活性を調べた。変異型XPFはNERにおいては野生型と同等の活性を示したが、DNA切断活性は認められなかった。したがって、ICL unhookingのステップがうまくいかず異常な中間産物が蓄積し、その後のICL修復がうまくいかないのではないかとの推測が述べられている。
まとめると、まず、通常のXPF変異によるXP患者は軽症である。多くはミスセンス変異で、その場合XPF蛋白質は細胞質で凝集し、核内レベルが低下する。そのレベルはNERには不十分だが、ICL修復には十分であると考えられる。そのため、これらの症例はFAとしての症状が認められない。一方、今回の2症例では、核内の蛋白質は存在していて、ある程度のNERは可能で、そのためXP症状は見られない。XFEでは、NERもICL修復も欠損していて、両者の特徴が存在し、早老症となると解釈されている。
最後に、同じ雑誌にback-to-backで発表された長崎大の荻らの論文も簡単に紹介する。かれらは、転写されるゲノム上のUV損傷を特異的に認識し修復するNERのサブ経路TC-NER(transcription-coupled NER)の欠損病態であるCockayne症候群(Cockayne syndrome, CS)の患者65例を調べ、ERCC1の欠損患者一名、XPF患者2名を同定した。したがって、CS原因遺伝子として新たにERCC1とXPFが追加されたことになる。面白いことに、3例目の患者はCSとXPの症状に加え、再生不良性貧血を呈し、染色体脆弱性試験はFAのレンジではなかったが、細胞はかなり強いMMC感受性を示していた。Cys236ArgとArg589Trpの2つのミスセンス変異のcompound heteroが同定され、Cys236Argについては、ビトロのヌクレアーゼ活性の低下が示されている。
複雑な話であるが、同じ遺伝子が変異しても、その変異の性質によって細胞内の生化学経路への欠損が異なり、したがって臨床症状も異なっているらしい。今回発見された変異は、NERとICL修復における基質の違いによってDNA切断活性の低下の程度が違うと思われるが、近い将来すっきりとした説明がなされることを期待する。いずれにせよ、以前からXPFがICL修復で重要な役割をすることは強く示唆されてきた。その意味では、納得のいく発見である。
参考文献
Malfunction of Nuclease ERCC1-XPF Results in Diverse Clinical Manifestations and Causes Cockayne Syndrome, Xeroderma Pigmentosum, and Fanconi Anemia. Kashiyama K, Nakazawa Y, Pilz DT, Guo C, Shimada M, Sasaki K, Fawcett H, Wing JF, Lewin SO, Carr L, Li TS, Yoshiura K, Utani A, Hirano A, Yamashita S, Greenblatt D, Nardo T, Stefanini M, McGibbon D, Sarkany R, Fassihi H, Takahashi Y, Nagayama Y, Mitsutake N, Lehmann AR, Ogi T. Am J Hum Genet. 2013 May 2;92(5):807-19.
紹介者:京都大学 放射線生物研究センター 晩発効果研究部門 高田 穣