日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

ラドン曝露-治療効果とがんリスク

論文標題 Radon Exposure-Therapeutic Effect and Cancer Risk
著者 Andreas Maier, JuliaWiedemann, Felicitas Rapp, Franziska Papenfuß, Franz Rödel,
Stephanie Hehlgans, Udo S. Gaipl , Gerhard Kraft, Claudia Fournier, Benjamin Frey
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Int J Mol Sci 22(1): 316,2021
キーワード ラドン療法 , 低線量 , α線 , 臨床研究 , 抗炎症作用

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ラドンは天然に存在する放射性の希ガスであり,自然放射線の中でも被ばくの寄与が大きいことが知られている。他方,ラドン療法は古くから疼痛関連疾患の治療に用いられてきたが,その疼痛緩和のメカニズムは明らかになっていない。本総説は,ラドンから受ける線量,エアロゾルに吸着されたラドンの娘核種の動態,クリアランス,がんリスク,ラドン療法の臨床研究についてまとめられたものである。その中でも,ラドン療法の臨床研究報告を網羅的に紹介し,そのメカニズムを探る手掛かりを見出した点が非常に特に興味深いことから,紹介させていただくこととした。

ラドン療法による症状緩和
1993年以前にもラドン療法の臨床研究報告はあるものの,対照群がなかったり,無作為試験ではないなど,その有益効果の医学的解釈に多くの課題があった。1993年以降,これらの課題を解決すべく多くの臨床研究が実施されてきた。例えば,1993年から2000年の間にドイツで実施された前向き研究では,強直性脊椎炎や頚椎の疾患などの疼痛緩和は,ラドン療法終了後3ヶ月も続いたことが報告された。2000年から2013年の間に実施されたラドン温泉と炭酸温泉を利用した前向き/盲検研究では,両群ともに疼痛緩和効果が認められたものの,ラドン温泉療法群のみ疼痛緩和が6ヶ月程度続いたことがわかった。同様に,2007年の無作為試験では,服薬量が減少するなどの効果も報告された。さらに,2013年には,international, multi-centered radon study (IMuRa study)と呼ばれる前向き/無作為/盲検研究において,骨関節炎,関節リウマチ,強直性脊椎炎,背痛の患者の疼痛緩和と,非ステロイド系の抗リウマチ薬の投薬量の減少などが報告された[1] 。
 
ラドン療法による抗炎症作用
これらの臨床研究で得られた知見に基づき,ラドン療法が免疫に及ぼす影響を明らかにするためにGREWISアルファコンソーシアム(ドイツ)が始まり,免疫,骨破壊,炎症関連指標に関する様々な調査が実施された。
例えば,ラドン療法と運動療法を併用した場合,強直性脊椎炎患者の血清中のtransforming growth factor (TGF)-β1が増加したことや,リウマチ患者の炎症が抑制されることなどもわかった。また,ラドン療法により筋骨格疾患のInterleukin (IL)-18が減少したことなどから,ラドン療法による疼痛緩和効果は,炎症の抑制が寄与していることが明らかとなった[2] 。さらに,ラドン療法によるβ-エンドルフィンの増加も疼痛緩和に寄与し,ラドン単独よりも温熱療法を併用した方がその効果は顕著であったことも報告された。

骨びらん(骨の破壊)の減少と骨形成の促進
ラドン療法により,破骨細胞形成抑制因子(オステオプロテゲリン;OPG)と破骨細胞分化因子receptor activator of nuclear factor-kappa B ligand(RANKL)の比(OPG/RANKL)が増加したことから,骨形成の促進または骨吸収が減少したことがわかった[3]。例えば,強直性脊椎炎や関節リウマチ患者では,骨吸入の減少が報告された。また,筋骨格疾患の炎症部位に破骨細胞を遊走させるtumor necrosis factor (TNF)-αは,ラドン療法により減少したことから,炎症の抑制が骨びらんの抑制に寄与していることもわかった。

抗酸化機能の亢進
疼痛関連疾患の患者に対するラドン療法による抗酸化機能の亢進の報告は2例しかない。ラドン温熱療法により,酸化ストレスの指標である過酸化脂質量が減少し,抗酸化酵素のスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)が増加することが報告された。また,ラドン療法6週間目では,筋骨格疾患のSOD活性が減少したものの,SOD活性は治療後に増加したことから,長期にわたる調査が重要であることが指摘された[4]。この抗酸化機能の亢進は,炎症の抑制に寄与していることも報告されている。

まとめ
長期のラドン曝露によるがんのリスクは明らかとなっているが,ラドン療法のような短期のラドン曝露によるがんリスクは報告されていない。ラドン療法により患者が受けるベネフィットがリスクを上まわることが証明されていないものの,その医学的効果から健常人のリスクとは区別して考えることが合理的だと考えらえる。

参考文献
[1]  Franke A. Franke, T. Long-term benefits of radon spa therapy in rheumatic diseases: Results of the randomised, multi-centre IMuRa trial. Rheumatol. Int. 33: 2839–2850, 2013.
[2] Kullmann M. Rühle PF. Harrer A. Donaubauer A. Becker I. Sieber R. Klein G. Fournier, C. Fietkau R. Gaipl US. Temporarily increased TGF following radon spa correlates with reduced pain while serum IL-18 is a general predictive marker for pain sensitivity. Radiat. Environ. Biophys. 58: 129–135, 2019.
[3] Winklmayr M. Kluge C. Winklmayr W. Küchenhoff H. Steiner M. Ritter M. Hartl A. Radon balneotherapy and physical activity for osteoporosis prevention: A randomized, placebo-controlled intervention study. Radiat. Environ. Biophys. 54: 123–136, 2015.
[4] Rühle PF. Klein G. Rung T. Tiep Phan H. Fournier C. Fietkau R. Gaipl US. Frey B. Impact of radon and combinatory radon/carbon dioxide spa on pain and hypertension: Results from the explorative RAD-ON01 study. Mod. Rheumatol. 29: 165–172, 2018.