カロリー制限は性別依存的な方法で放射線障害を軽減する
論文標題 | Caloric restriction alleviates radiation injuries in a sex-dependent fashion |
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著者 | Li Y, Dong J, Xiao H, Wang B, Chen Z, Zhang S, Jin Y, Li Y, Fan S, Cui M |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
FASEB J. 35(8):e21787, 2021. |
キーワード | Caloric restriction , Intestinal microbiota , Radiation injury , Sex-specific |
【はじめに】
放射線療法はがん治療において広く用いられているが、炎症をはじめとした治療による副作用は依然として臨床応用における放射線療法の大きな障害となっている。特に、骨盤放射線療法では、放射線誘発性の腸合併症の発生率が高く、放射線治療による副作用を緩和することが課題となっている。今回の論文で著者らは、骨盤および腹部腫瘍患者の放射線療法によって引き起こされる副作用を改善するための方法として、炎症の抑制などの効果がすでに報告されているカロリー制限(Calorie restriction:CR)に着目をし、マウスモデルを用いて放射線照射前のCRによる照射後の炎症や腸管の損傷への影響とCRによる放射線障害の抑制メカニズムについて検討している。また、著者らは性別によって免疫や代謝反応が異なることを考慮し、性差によるCRへの影響も同時に解析している。
【結果】
・CRは放射線誘発造血障害を改善した
著者らは、CRが放射線照射による造血障害を改善するか確かめるために、C57BL/6Jマウスに5 Gy (1 Gy/min)の全身照射を行う前に10日間の30%のカロリー制限を行うCR群と自由摂食(ad libitum: AL)群、非照射かつ自由摂食のコントロール群の3群で照射14日後に解析を行った。その結果、照射前にCRを行った群ではAL群で観察された照射後の急激な体重減少が抑制された。また、CR群では末梢血中の白血球とリンパ球数の減少がAL群と比べて有意に抑制されていた。末梢血中の炎症性サイトカインであるInterleukin-6(IL-6)とTumor necrosis factor-α(TNF-α)の発現は、AL群ではコントロール群と比べて有意に増加しており、CR群においてはメスではAL群よりも有意に減少したが、オスではAL群との間に有意な差は見られず、CRの放射線防護における性差の存在が示唆された。
・CRは腸において性別依存的なメカニズムで放射線による損傷を低減した
次に著者らは、腸への放射線照射に対するCRの影響を検討するため、照射方法を12 Gy (1 Gy/min)の胸腹部照射に変更し、CR群、AL群、コントロール群の3群で照射21日後に解析を行った。照射後の小腸における炎症性サイトカインIL-6とTNF-αの発現は、CR群において末梢血と同様にメスでのみAL群と比べて有意な減少が見られた。次に、Fluorescein isothiocyanate(FITC)-デキストランの経口投与による腸管透過性の解析を行ったところ、コントロール群と比べてAL群において末梢血中のFITC-デキストランレベルの有意な増加が見られた。また、腸バリア機能障害の古典的なマーカーである漿液性Lipopolysaccharide(LPS)のレベルも同様にAL群で有意に増加し、腸上皮細胞が障害を受けていることが示唆された。CR群とAL群を比較すると、FITC-デキストランとLPS共にオスでのみ有意な減少が見られた。腸の透過性には、ムチンによって構成される粘液層と膜タンパクを介して上皮細胞同士が接着し合うタイトジャンクションが寄与するため、これらの腸透過性関連遺伝子のmRNAレベルを解析した。その結果、AL群においてはムチンに関わる遺伝子(Klf4、Tff3)とタイトジャンクションに関わる遺伝子(ZO-1、Cldn5、Ocln)の両方で発現の低下が見られた。CR群においては、オスでのみこれらの遺伝子の発現がAL群と比べて有意に増加していた。これらの結果から、CR後にメスでは放射線性炎症の抑制、オスでは放射線によって障害を受けた腸のバリア機能の改善と、性別によって異なる反応を示すことが示唆された。
・CRは性別特有の腸内細菌叢の構成を促進した
CRは腸内細菌叢に影響を与えることが報告されているため、著者らは10日間のCRを行ったCR群とAL群のオスとメスそれぞれの腸内細菌叢の構成を、次世代シークエンサーを用いた16S rRNA解析によって比較した。主座標分析はオスとメスの両方でCR群とAL群の間で腸内細菌叢の組成が異なることを示し、CRによって腸内細菌叢の組成が変化することを示唆した。次に、CRによって変化が見られた腸内細菌の種類を解析すると、メスにおいては属レベルの分類では大腸炎の発症と相関することが報告されているHelicobacterとErysipelotrichaceaeが、目レベルの分類ではDesulfovibrionalesなどの炎症誘発性微生物がAL群と比較して減少することが示された。オスにおいては、属レベルの分類ではLactobacillusとFaecalibaculumが、目レベルの分類ではClostridialesと短鎖脂肪酸(short-chain fatty acid:SFCA)産生菌の増加が確認された。SFCAは上皮細胞の分裂や粘液の分泌に関わることから腸のバリア機能維持に関わると考えられている。そのため、オスとメスの両方でCRによる腸内細菌叢の変化が、放射線照射後の応答に関与することが示唆された。
・腸内細菌叢の変化を無効化するとCRによる放射線障害への抑制効果が減少した
CR後の腸内細菌叢の変化が放射線照射後の応答に関与しているかを確認するため、CR群とCRを行うが抗生物質(Antibiotic cocktail:ABX)を処置することで腸内細菌の排除を行うCR+ABX群で胸腹部照射を行い21日後に解析を行った。その結果、CR群と比べるとCR+ABX群では照射後に有意に体重が低かった。また、メスにおいてはIL-6とTNF-αの発現がCR群と比べてCR+ABX群で有意に増加していた。オスにおいてはCR群と比べるとCR+ABX群では末梢血中のFITC-デキストランレベル、漿液性LPSレベルが有意に増加し、Klf4、Tff3、ZO-1、Cldn5、Ocln遺伝子の発現は有意に減少していた。次に、CR群のマウスとCRを行うが糞便移植(Fecal microbiota transplantation:FMT)によってAL群のマウスの腸内細菌叢を移植したCR+FMT群で胸腹部照射後に解析を行った。その結果、ABX処置の実験と同様に、メスにおいては炎症性サイトカインの発現がCR群と比べてCR+FMT群で有意に増加し、オスにおいてはKlf4などの腸バリア関連遺伝子の有意な減少が確認された。また、腸内細菌叢の変化を確かめるために、メスにおいては炎症誘発性微生物、オスにおいてはSCFA産生菌の検出を行ったところ、メスではCR+FMT群においてDesulfovibrionaceaeとHelicobacterの相対頻度の有意な増加を示した。一方、オスではCR+FMT群においてFaecalibaculumとLactobacillusの相対頻度が有意に減少した。そのため、CRによる腸内細菌叢の変化が、CRの放射線障害の抑制効果に関与している可能性が示された。
【まとめ】
今回の研究は放射線治療前の短期間のCRによる前処理が放射線障害を低減し、CRの放射線防護効果が腸内細菌叢の変化に関係していることを示した。また、著者らは腸内細菌叢の組成の性別による違いから、性別によってCRによる放射線防護効果のメカニズムが異なる可能性を提唱している。今回の著者らの研究結果は、体力の低下により長期間のCRが難しいと考えられるがん患者への放射線治療の補助としてのCR臨床応用や、特定の腸内細菌叢を標的とした薬剤の開発による新たな放射線防護剤の開発などに繋がることが期待できる。