PLK1阻害によるオートファジーの抑制を介した乳がん細胞の放射線感受性の向上
論文標題 | PLK1 Inhibition Sensitizes Breast Cancer Cells to Radiation via Suppressing Autophagy |
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著者 | Wang B, Huang X, Liang H, Yang H, Guo Z, Ai M, Zhang J, Khan M, Tian Y, Sun Q, Mao Z, Zheng R, YuanT |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Int J Radiat Oncol Biol Phys, 110(4): 1234-1247, 2021 |
キーワード | PLK1 , 乳がん , 放射線治療 , 増感剤 |
【背景・目的】
我が国における女性の乳がん罹患率は10.9%(2018年国立がん研究センターのデータに基づく)であり、女性の部位別がん罹患数のうち最も多くを占める。
また、世界的にも乳がん罹患数は約815万人と(2016年 Our World in Dataより)、女性における部位別がん罹患数が世界においても最も多いことが示されている。
本論文では、乳がんの放射線治療において、多くの乳がん細胞において過剰発現しているPolo-like kinase 1 (PLK1) に着目し、放射線治療の有効なターゲットとなる可能性を検討している。乳がんの放射線治療効果を低下させる要因の一つに、放射線治療抵抗性がある。しかし、乳がんの放射線感受性とPLK1との関係を調べた研究は報告が少なく、本論文では、PLK1を阻害することで、乳がん細胞が放射線に対して感作されるかどうかを解析し、PLK1阻害剤の乳がんの放射線増感剤としての有効性を検討した。
【方法】
本研究は乳がん細胞としてMDA-MB-231、MCF7、T47Dを使用し、これらを用いた細胞実験においてPLK1阻害として、siRNAによるPLK1のノックダウンとPLK1特異的阻害剤GSK461364を用いている。また、in vivoの実験においては、乳がん細胞の異種移植マウスモデルを用いて、PLK1阻害と放射線照射の生体内での相乗効果の可能性を検討している。オートファジー阻害剤として3-メチルアデニン(3-MA)を、活性酸素阻害剤としてN-アセチルシステイン(NAC)を、オートファジーのマーカーとしてLC3-IIを用いている。
【主な結果】
1.PLK1を阻害すると、乳がん細胞の増殖を抑制し、放射線感受性を高める。
PLK1は細胞分裂の促進因子であり、PLK1が阻害されると細胞は有糸分裂期で停止する。まず筆者らは乳がん細胞においてPLK1をsiRNAまたはGSK461364で阻害することにより、G2-M期の細胞停止が誘導され、乳がん細胞の増殖が抑制されることを示した。
放射線はオートファジーを誘導することが知られており、放射線誘発オートファジーは放射線抵抗性に寄与する。そこでオートファジー阻害剤である3-MAを乳がん細胞に添加すると、乳がん細胞の放射線感受性が有意に高まった。これは、放射線照射後にオートファジーが活性化され、放射線によるオートファジーを阻害することで、乳がん細胞が放射線に感応することを示唆している。次に、PLK1をsiRNAまたはGSK461364で阻害すると、乳がん細胞の放射線誘発オートファジー活性が有意に減少することが免疫染色法により示された。これらのデータは、PLK1の阻害が乳がん細胞における放射線誘発オートファジーを抑制できることを示唆しており、これらの結果から、PLK1の阻害が乳がん細胞の放射線感受性を高めることが明らかになった。
2.選択的阻害剤GSK461364でPLK1を阻害すると、in vivoでの乳がん細胞の放射線感受性が向上する。
細胞実験の結果と同様に、PLK1を阻害すると、放射線によって腫瘍組織で発現するLC3-IIのレベルが低下した。その結果、放射線治療を受けたグループの腫瘍ではLC3-IIの発現レベルが高かったが、放射線とGSK461364を併用したグループの腫瘍ではLC3-IIの発現レベルが低いことが確認された。さらに、放射線とGSK461364を併用した処理では、放射線のみを照射した処理に比べてγ-H2AXの発現量が多かった。これらのデータは、PLK1阻害によるin vivoでの放射線増感効果を示しており、オートファジーの阻害とも関連している。
さらに、Kaplan-Meier解析により、PLK1の発現が高い患者は無再発生存率が有意に低いことが示された。
これらの結果から、乳がんではPLK1の発現上昇がオートファジー活性の上昇に寄与し、それが放射線抵抗性や、腫瘍の再発につながる可能性があることを示唆している。
【まとめ】
本論文の結果から、PLK1の阻害は、細胞分裂の停止により細胞の増殖を抑制するとともに放射線誘発性のオートファジーの活性を抑制することにより、乳がん細胞の放射線感受性を高めることが明らかになった。PLK1を高発現している乳がんに対する放射線治療の際にPLK1を阻害する併用療法を施すことは、放射線効果を促進させる可能性が高く、将来的な臨床応用が期待される。