日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

膠芽腫におけるアルキル化剤と放射線を用いた既存の治療法に対するPLK1阻害剤の併用効果

論文標題 Combinatorial Effect of PLK1 Inhibition with Temozolomide and Radiation in Glioblastoma
著者 Arvind Pandey, Satyendra C Tripathi, Junhua Mai, Samir M Hanash, Haifa Shen, Sankar Mitra, and Robert C Rostomily
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Cancers・13(20):5114・2021
キーワード PLK1 , 阻害剤 , 膠芽腫 , 放射線治療 , 併用療法

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【背景・目的】
我が国における神経膠腫の罹患者数は、年間4,000人以上であり、悪性脳腫瘍のうちで最も多く、20%強を占める(国立がん研究センターのデータに基づく)。その中でも、膠芽腫(GBM)は悪性度が高く、5年生存率が16%(The Committee of Brain Tumor Resistry of Japan.より)と、他のがん種と比べて生存率が低いことが示されている。
現在のGBMの標準治療は、テモゾロミド(TMZ)と放射線の併用療法である。TMZはアルキル化剤としてDNA損傷を誘発する。標準治療(TMZ+放射線)は生存期間中央値が15~20カ月しか改善しないため、新しい治療法の開発が期待されている。GBMにおいては、多機能細胞周期制御因子であるPolo-like kinase 1 (PLK1)が過剰発現していることが知られている。PLK1は細胞分裂促進因子であり、PLK1が阻害されると細胞は有糸分裂期で停止する。そこでPLK1の阻害が治療上期待されているが、GBMの標準治療においてその効果が検証されたことはない。そこで本論文では、PLK1特異的阻害剤(volasertib)単独、およびTMZや放射線との併用による、GBM細胞への作用機序と治療効果を検討した。

【方法】
本研究はGBM細胞としてLN229、BT115(患者由来)を使用し、これらを用いた細胞実験においてPLK1阻害方法として、PLK1特異的阻害剤volasertibを用いている。また、in vivoの実験においては、GBM細胞の異種移植マウスモデルを用いて、volasertib単独使用の効果、およびTMZや放射線との併用治療の相加効果を確認し、治療補助剤としてのvolasertibの可能性を検討している。また、GBM細胞への放射線照射には、RS 2000 X線照射装置を使用し、クローン形成能評価には3 Gyを、細胞応答性には、併用治療として薬物治療直前に5 Gyを照射した。

【主な結果】
1.volasertibは、TMZと放射線との相乗効果により、GBM細胞においてDNA損傷を誘発し、DNA修復遺伝子の発現を調節する。
上述したとおり、脳腫瘍細胞では、正常脳細胞と比較し、PLK1の発現が著しく高いことが確認されている。また、PLK1の高発現は、全生存率の低下や神経膠腫患者の予後不良と関連することが知られている。最近の研究では、volasertibとTMZまたは放射線との相乗効果が、GBM細胞で確認されていたが、臨床的な標準治療であるTMZと放射線とvolasertibの併用効果はまだ報告されていない。
そこでまず筆者らは、GBM細胞株においてPLK1阻害のメカニズムおよび相対的有効性をin vitroで評価した。volasertibは単独処理で強い細胞毒性を示し、併用することでTMZや放射線の細胞毒性を増強し、細胞生存率を全体的に低下させたことから、標準治療の補助剤として有効である可能性を示した。
次に神経膠腫幹細胞の表現型に対するvolasertibとTMZおよび放射線との併用効果を検討した。幹細胞の表現型の抑制は、サイドポピュレーション(SP)解析で裏付けられ、volasertibと放射線の併用は、放射線によるSPの誘導があっても、SPを最も減少させた。volasertib単独、およびTMZ、放射線との併用は、TMZや放射線の単剤治療後に顕著に増加したG1-G0遷移を減少させる効果も示した。このデータは、G1-G0遷移による細胞周期の静止状態の阻害と、その後のG2/M期停止によるアポトーシスの誘発という、2つの効果によるメカニズムがあることを示唆している。
またvolasertib単独および標準治療との併用による抗腫瘍効果は、シグナル伝達の解析により、DNA修復能力を低下させ、持続的なDNA損傷を誘発することによって、アポトーシスを増加させることが明らかになった。

2.volasertibとTMZの併用療法はin vivoで相乗的に腫瘍の成長を抑制する。
次にin vitroで確認されたvolasertibとTMZの相乗効果をin vivoで評価した。その結果、 TMZ単独および併用による顕著な腫瘍増殖抑制、幹細胞マーカー(survivin、CD133)の発現低下、DNA損傷(γH2AX)およびアポトーシスマーカー(TUNEL、cleaved caspase-3)陽性細胞の増加により、細胞死の割合が増加していたことから、治療補助剤としてのvolasertibの抗腫瘍効果が示唆された。

【まとめ】
PLK1は細胞分裂を促進する活性を持つことから、その阻害は細胞周期の停止、アポトーシス、腫瘍の退縮をもたらすことが知られている。GBMにおけるこれまでの前臨床研究では、TMZ+PLK1阻害、放射線+PLK1阻害において、抗腫瘍効果を発揮することが示されていた。
そこで本研究では、GBM細胞におけるTMZと放射線の併用という臨床的な状況に加えて、PLK1阻害による治療効果の増大について検討した。特に重要と思われる結果は、volasertib単独処理した細胞における持続的なDNA損傷は、TMZで単独処理したときよりも低かったが、volasertibを標準治療(TMZ+放射線)と併用することによりDNA損傷の持続とともに、DNA修復遺伝子の上昇も抑制させたことだ。これらのデータから、volasertibは細胞周期の調節とDNA損傷修復の阻害を協調して行うことにより、DNA損傷を促進する重要な役割を担っている可能性が示唆され、GBM治療の際に標準治療とPLK1阻害剤を併用することにより抗腫瘍効果の向上が期待される。