日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

HELQとHR修復関連タンパク質RAD51/RPAとの相互作用メカニズムの解明

論文標題 HELQ is a dual-function DSB repair enzyme modulated by RPA and RAD51
著者 Roopesh Anand, Erika Buechelmaier, Ondrej Belan, Matthew Newton, Aleksandra Vancevska, Artur Kaczmarczyk, Tohru Takaki, David S. Rueda, Simon N Powell, and Simon J Boulton
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Nature, 601: 268–273, 2022
キーワード DNA二本鎖切断 , 相同組換え修復 , 代替末端結合 , 一本鎖アニーリング , HELQ

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【概要】
哺乳類細胞において放射線照射により生じるDNA二本鎖切断は相同組換え修復と非相同末端結合修復により修復される。このうち相同組換えは、複製直後の姉妹染色分体を鋳型として修復を行う機構であり、完全な修復を実現する。RAD51とRPAは、相同組換えの途中で生じる一本鎖DNAに結合し、対応する姉妹染色分体内の配列の探索を担う重要なタンパク質である。一方で、DNAヘリカーゼHELQはDNA損傷応答への関与が示唆されていたがその分子機構の詳細は不明であった。本論文では、RAD51、RPA、HELQの相互作用に着目し、生化学的解析手法を用いてDNA修復における役割とメカニズムの新たな分子機構を明らかにした。
【背景】
① DNA二本鎖切断の修復機構
DNA二本鎖切断(Double Strand Break:DSB)は、放射線などによって生じるDNA損傷のうち、最も重篤な損傷の一つとされている。我々の身体はこの損傷に対して主に、切断部末端を整形しそのまま結合する非相同末端結合(Classical-Non Homologous End Joining: C-NHEJ)、損傷のない鋳型を利用して完全な修復を行う相同組換え(Homologous Recombination: HR)、相補鎖間のマイクロホモロジーを使用して行う代替組換え(alt-EJ)や一本鎖アニーリング(Single-Strand Annealing: SSA)の4つの機構により修復を行う。
これらの修復機構のうち、C-NHEJ以外の機構はDNA末端切除と呼ばれるメカニズムにより、一本鎖が露出したDNA末端を持つ中間体を経由する。RPAとRAD51はこの一本鎖DNA(ssDNA)に作用するタンパク質であり、前者はssDNAを自身や他の核酸との結合から保護、後者は相同組換えにて対応する配列を姉妹染色分体から探索する役割を持っている。
② HELQ
HELQは、DNA二本鎖の構造を弛緩するヘリカーゼ活性を持ち、DNA損傷修復との関連が示唆されている酵素である。HELQ欠損細胞では、DNA損傷後にRAD51が長時間フォーカスを形成したことが確認された他、HELQを欠損させたマウスでは、生殖細胞の喪失・不妊や、卵巣/下垂体腫瘍が増加したとの報告があるが、HELQのDNA修復における役割やメカニズムについてはまだわかっていなかった。
【方法】
本研究では、試験管内にてHELQとRAD51またはRPAを、濃度勾配を付けたうえでDNA基質とともに加えて反応させたのち、DNA基質を精製・泳動し、二本鎖DNA(dsDNA)とssDNAの量を定量することでDNA基質がHELQによりどのような変化(弛緩/結合など)を受けたかを調べた。また、HELQの存在/欠損下におけるDSB修復活性への影響を見るために、制限酵素I-SceIを用いた各経路のレポーターアッセイやCas9 mediated DSB assayを用いた。
【主要な結果】
① RAD51存在下でHELQにより弛緩されたDNA量が増加した。
1 nMのHELQに対し、RAD51を様々な濃度にて作用させた結果、低濃度領域では濃度依存的に弛緩されたDNAの量が増加した。一方、高濃度のRAD51存在下では弛緩されたDNAは少し減少した。ここにさらに、RAD51のssDNA結合を阻害するBRC4ペプチドを加えたところ、弛緩されたDNA量は回復した。これらの結果から、RAD51がHELQのヘリカーゼ活性を刺激する一方で、過剰なRAD51がssDNAに結合している状態では、活性が阻害されることが示唆された。
② RPA存在下では、HELQにより弛緩されたDNA量は減少し、再結合したDNA量が増加した。
RPA存在下では、HELQによるDNAの弛緩が減少した一方で、低濃度のHELQ条件下で再結合(アニーリング)したssDNA量が2倍程度増加した。ただし、RPA非存在下でもHELQによるアニーリングは確認された。また、ATPを付加した場合としなかった場合で比較すると、RPA非存在下ではHELQのアニーリング活性にATPを要さなかったのに対して、RPA存在下ではATPが無いとアニーリングがうまくいかなかった。これらの結果から、HELQは本質的にアニーリング活性を持つこと、RPAはHELQのアニーリング活性に寄与するが、RPA存在下ではエネルギーを要することが示唆された。RPAはssDNAに結合していることから、HELQはアニーリング時にRPAをssDNAから除去しているのではないかと著者らは考えた。実際に調べてみたところ、RPAがHELQによってDNAから除去され、アニーリングされていることが分かった。
③ HELQ欠損下では、C-NHEJ以外の修復経路の選択率が落ちた。
HELQを欠損させた細胞と野生型細胞に対し、I-SceI及びCRISPR-Cas9を用いて特定領域に二本鎖切断を加えたうえで、修復後の配列を読むことでどの修復経路によって修復がなされたかを判定し、それぞれの数を計測した。その結果、末端切除の機構を含む3経路(HR, alt-EJ,SSA)による修復において有意な減少が確認された。
【まとめ】
放射線により生じるDNA切断の修復に作用する修復タンパク質はこれまで多く同定されているが、それぞれのDNAに作用する仕組みは未だ不明な点が多い。今回の実験より、HELQがHRの修復タンパクであるRAD51及びRPAと相互作用することが示唆されたとともに、末端切除を含む二本鎖切断修復機構に関与していることが明らかになった。本実験では、主として試験管内での相互作用を見たが、今後はこれら以外の修復因子との相互作用や、実際の生体内での機能の解明が期待される。