マスクによるラドン子孫核種の吸着
論文標題 | Radon Progeny Adsorption on Facial Masks |
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著者 | Hinrichs A, Fournier C, Kraft G, Maier A |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Int J Environ Res Public Health, 19(18): 11337, 2022 |
キーワード | ラドン子孫核種 , FFP2マスク , ろ過作用 |
【背景・目的】
希ガスであるラドンとその短寿命子孫核種は呼吸によって体内に取り込まれ,固体である子孫核種は気道に沈着する。吸入に伴う実効線量の95%はラドンの子孫核種が寄与し,特に,α放出核種である218Po(6.00 MeV)や214Po(7.69 MeV)の寄与が大きく,β線やγ線の寄与は10%程度である。他方,呼吸により取り込まれたほとんどの222Rnは,呼気により排出される。このように,ラドンの子孫核種が肺がんのリスク因子となっていると考えられている。そのため,子孫核種の吸入を減らすことは肺がんのリスク低減につながる。ところで,フィルターを用いて子孫核種を除去することで,その実効線量を最大70%程度低減することができ,肺がんのリスク低減が期待できる。新型コロナウイルスの流行により,世界中でマスク着用が推奨されてきた。本研究では,マスク着用により実効線量が低減できるかどうかを明らかにするために,マスクによるラドン子孫核種の除去について基礎的な実験を行った。
【方法】
検出器をラドンチャンバーの中央に置き,一定の流量で空気を送り込み,ラドン濃度と同時にαスペクトロメトリを用いて218Poや214Poなどのα線放出核種の測定をした。空間中のラドン濃度を88-375 kBqm^-3とし,ラドン濃度と平衡等価ラドン濃度(EEC)の関係について調べた。次に,4.5 cm四方に切った2種類のマスク(以下参照)を多孔質ゴムに取り付け,それを検出器に密閉して取り付けた。
・Melt-blown protective mask(FFP2 マスク) (IPOS—Medikal, Di¸s Ticaret A. ¸S, Istanbul, Turkey)
・Surgical mouth and nose protection mask type II R (Ⅱ R マスク) (IPOS—Medikal, Di¸s Ticaret A. ¸S, Istanbul, Turkey)
【主な結果】
2種類の大きさの粒子(< 5 nm,20–100 nm)の平衡等価ラドン濃度(EEC)と空気中のラドン濃度の関係について調べた。その結果,これらは比例関係にあることがわかった。そこで,2種類のマスクを用いてEEC/Rnを調べた。その結果,どちらのマスクもECC/Rnの値が有意に低くなったことから,マスクにはラドンの子孫核種に対するろ過作用のあることが確認された。さらに,各マスクへの吸着率を調べたところ,粒子の大きさが< 5 nmの場合,FFP2マスクで98.77±0.64%,Ⅱ R マスクで98.36±0.69%,粒子の大きさが20–100 nmの場合,FFP2マスクで85.17±18.05%,Ⅱ R マスクで79.54±21.47%であった。
【考察・まとめ】
本実験では,マスクのろ過作用を検証したもので,実際にマスクを着用した際に生じる空気の漏れなどは検討していない。また,FFP2マスクは4時間までの着用が推奨されており,それを過ぎると湿気のため吸着率が低下すると考えられている。今回,湿度65%で最大5時間の測定を実施したが,ろ過作用の低下については考慮していない。
本実験はシンプルであるが,マスクのろ過作用に関する知見は,公衆被ばくを推定する上で非常に大きな意味を持つ。世界での公衆の1人当たりの自然放射線被ばくの年間実効線量のおおよそ半分はラドンとその子孫核種であることが知られており,マスクのろ過作用が,その年間実効線量を大きく引き下げる要因になることを示唆している。