放射線治療はCXCL8を介してNK細胞依存性の抗腫瘍免疫応答を調節する
論文標題 | Radiotherapy orchestrates natural killer cell dependent antitumor immune responses through CXCL8 |
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著者 | Walle T, Kraske JA, Liao B, Lenoir B, Timke C, von Bohlen und Halbach E, Tran F, Griebel P, Albrecht D, Ahmed A, Suarez-Carmona M, Jiménez-Sánchez A, Beikert T, Tietz-Dahlfuß A, Menevse AN, Schmidt G, Brom M, Pahl JHW, Antonopoulos W, Miller M, Perez RL, Bestvater F, Giese NA, Beckhove P, Rosenstiel P, Jäger D, Strobel O, Pe’er D, Halama N, Debus J, Cerwenka A, Huber PE |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Sci Adv, 8(12): eabh4050, 2022 |
キーワード | 放射線治療 , NK細胞 , 免疫細胞 , 細胞老化 , SASP |
【背景】
放射線治療におけるナチュラルキラー(NK)細胞の役割については、まだ不明な点が多い。NK細胞の投与とセツキシマブなどの治療用抗体との併用は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を介したNK細胞による抗腫瘍活性を高める可能性があるが、NK細胞の腫瘍への浸潤が不十分な場合にはその抗腫瘍活性を十分に発揮できないことが課題となっている。本研究において筆者たちは、Senescence-associated secretory phenotype(SASP)として腫瘍細胞から放射線誘発性に分泌されるサイトカインCXCL8がNK細胞の動態に及ぼす影響に着目した。CXCL8は腫瘍の浸潤や転移を誘導する負の予後因子であると報告されている。筆者たちはまず、放射線化学療法(RCTX)とセツキシマブの併用療法を受けた膵臓がん患者におけるNK細胞の応答をランダム化比較臨床試験で評価し、そこからリバーストランスレーショナル・リサーチとしてヒトNK細胞の腫瘍遊走メカニズムを実験モデルで調べた。さらに、治療戦略としての養子NK細胞投与と放射線治療の併用について異種移植マウスで検証した。
【RCTXは膵臓がん患者の血清中CXCL8濃度と末梢血中NK細胞数に影響する】
まず筆者たちは、放射線と治療用抗体によって惹起される免疫反応を調べるために、強度変調放射線治療(54 Gy、25 frx)+ゲムシタビン+セツキシマブによるRCTXの後ゲムシタビン±セツキシマブによる維持療法を施された膵臓がん患者の末梢血を分析した。その結果、維持療法におけるセツキシマブの使用は患者の血清CXCL8濃度を上昇させ、末梢血中N K細胞数を減少させることが示唆された。またこれらの変化は、放射線治療された膵臓がん患者の維持療法における、セツキシマブ使用による生存期間の延長と正に相関していた。さらに、RCTX後の切除腫瘍では非照射の場合よりもNK細胞がより多く集積していたことから、ヒト膵臓がんにおける放射線照射とNK細胞浸潤の関連が示唆された。
【放射線照射は腫瘍細胞からのCXCL8分泌と照射腫瘍へのNK細胞遊走を促進する】
これらの知見について、in vitroおよびin vivoモデルでメカニズムが調べられた。40 Gyの光子線照射により、複数の培養がん細胞株で培養上清中のCXCL8濃度が増加した。筆者たちは腫瘍に対する放射線の影響をin vivoで評価するために、生物発光イメージングが可能なルシフェラーゼ導入腫瘍細胞をNK細胞欠損NSGマウスの肺に生着させた異種移植モデルを使用した。リニアックで肺野に20 Gyを照射したマウスではCXCL8陽性の転移がより頻繁に起こり、転写レベルでのCXCL8発現も増加した。また、IL-2で活性化した初代ヒトNK細胞を照射後のマウスに静脈内投与すると、ヒト膵臓がん患者と同様に末梢血中NK細胞数は減少し、腫瘍にNK細胞が集積した。さらに、放射線治療とNK細胞投与の併用は、単独治療と比較して肺転移を減少させ、腫瘍浸潤NK細胞による治療効果が示唆された。
【放射線によるNF-κB活性化を介したCXCL8分泌が腫瘍へのNK細胞遊走を促す】
続いて筆者たちは、放射線による腫瘍細胞からのCXCL8分泌誘導メカニズムを調べた。40 Gyの光子線照射は培養がん細胞株の細胞老化を誘導した。NF-κBファミリーの転写因子RelA(p65)はCXCL8の重要な転写制御因子であり、細胞老化の際に活性化される。その細胞内局在を調べると、40 Gyの光子線照射後に腫瘍細胞の核内p65は増加していた。p65の発現を抑制すると放射線によるCXCL8発現誘導は低下し、またNF-κB阻害剤TPCA-1は、照射腫瘍細胞からのCXCL8放出を減少させた。
主要なSASP制御因子であるmTORの関与についても評価すると、mTOR阻害剤ラパマイシンは照射腫瘍細胞からのCXCL8放出を抑制した。40 Gyの光子線照射はNF-κB阻害タンパク質IκB-αを細胞質から枯渇させたことからNF-κB経路の活性化が示唆され、ラパマイシン処理で照射細胞のIκB-αは増加した。mTORは放射線誘発性CXCL8分泌を正に制御していたが、mTOR自体は放射線照射によって活性化されなかった。したがって、放射線照射によりmTOR下流でIκB-αの発現が低下し、NF-κB(p65)活性化が促進されたと考えられた。
in vitroにおいてリコンビナントCXCL8は、ヒト膵臓がんで浸潤が認められかつCXCL8受容体を発現しているNK細胞CD56dimサブセットを誘引した。さらに、conditioned mediumを使用した細胞遊走アッセイにおいて、腫瘍細胞への40 Gyのγ線照射はNK細胞の遊走を促した。CXCL8中和抗体やNF-κB阻害剤TPCA-1を使用すると、照射腫瘍細胞に対するNK細胞の遊走は低下した。さらに、p65ノックアウトにより腫瘍細胞スフェロイドへのCD56dim NK細胞遊走は減少した。以上のことから、放射線照射後に起こる腫瘍細胞からのNF-κB依存性CXCL8分泌により、照射腫瘍へのNK細胞遊走が促されていることが明らかになった。
【放射線とNK細胞投与の併用によりマウス異種移植モデルで腫瘍増殖が抑制される】
筆者たちは、放射線照射がNK細胞の抗腫瘍活性を増強することにより、放射線治療による腫瘍制御効果が強化される可能性があると考えた。NK細胞欠損NSGマウスに腫瘍細胞と養子ヒトNK細胞を同時に投与し、生物発光イメージングにより肺の腫瘍成長を測定した。その結果、腫瘍細胞に対する10 Gyのex vivo γ線照射と養子NK細胞移植の併用は、それぞれ単独の場合よりも優れた抗腫瘍効果を示した。
【まとめ】
CXCL8は一般に腫瘍形成促進作用のある予後不良因子とされてきたが、筆者たちはヒトのがんにおいて、放射線誘発性に分泌されたCXCL8が、抗腫瘍免疫エフェクターとして機能するNK細胞の浸潤を促すことを明らかにした。マウスにはCXCL8ホモログが存在しないため、これはマウスの免疫系に存在しないメカニズムである。腫瘍細胞からのCXCL8分泌はNF-κBの活性化に依存しており、放射線による細胞老化誘導とその免疫監視機構としてのNK細胞のはたらきの関連が示唆された。ADCC介在治療抗体や養子NK細胞投与のようなNK細胞が介在する治療法において、放射線照射によるNK細胞浸潤の促進を併用することは、抗腫瘍効果をさらに高めるがん治療戦略となるかもしれない。