177Lu-DOTATATE 放射性核種治療中に発生する早期放射線 DNA 損傷のモデル化
論文標題 | Modeling early radiation DNA damage occurring during 177Lu-DOTATATE radionuclide therapy |
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著者 | Tamborino G, Perrot Y, De Saint-Hubert M, Struelens L, Nonnekens J, De Jong M, Konijnenberg MW, Villagrasa C |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
J Nucl Med, 63(5): 761-769, 2022 |
キーワード | DNA二本鎖切断 , 標的アイソトープ治療 , 177Lu-DOTATATE , 線量反応関係 , Geant4-DNA |
【背景・目的】
ソマトスタチン受容体陽性の神経内分泌腫瘍を対象とした177Lu-DOTATATE(177Luを標識したソマトスタチン類似物質) による標的アイソトープ治療が世界各地で承認され、治療が始まっている。一方で標的アイソトープ治療は、アイソトープが組織・細胞の特定領域に局在することによりミクロスケールの線量分布が不均一になる点や、照射が長時間のためDNA損傷の生成と修復など生体反応が起こる時期が重複する点が外照射放射線療法と大きく異なる。そのため標的アイソトープ治療に特化した放射線生物学的調査と線量反応のモデル化が必要である。
本紹介論文では、標的アイソトープ療法(in vitro)を模した条件のシミュレーション計算を行い、細胞核の吸収線量とDNA二本鎖切断(Double-Strand Break, DSB)の生成効率を評価するフレームワークを構築し、177Lu-DOTATATEによる早期DSB誘導の特徴を報告にしている。
【方法】
1. Geant4によるシミュレーション
Geant4は放射線物理学や放射線生物学などの研究分野で広く利用されている放射線シミュレーションツールキットで、低エネルギー領域の電子輸送計算に対応しており、ミクロスケールの線量分布を計算できる。本論文では内部照射のセットアップから177Luから放出されたβ線・内部転換電子が細胞核に入射する過程と、細胞核に入射したβ線・内部転換電子がDNA損傷を生成する過程の2段階でシミュレーション計算を行っている。
2. 計算条件
ソマトスタチン受容体2型(SSTR 2)陽性のヒト骨肉腫細胞 (U2OS-SSTR 2 ) の共焦点顕微鏡画像を取得し、細胞膜、細胞質 、ゴルジ体、細胞核で構成する多角形メッシュで細胞モデルを作成し、培地中に177Luのβ線の飛程の影響を排除できる数量を配置した。線源である177Luは取り込み実験の結果に従って細胞内外に分布させ、シミュレーション計算を行った。標的アイソトープ療法に関する修復メカニズムは解明されていない点があるため、DSB修復は考慮していない。
【結果】
1. 線源の局在によるβ線・内部転換電子が細胞核に到達する確率への影響について
β線・内部転換電子が細胞質から細胞核に到達する確率は、幾何学的影響により培地から細胞核へ到達する確率より3~4倍高く、アイソトープ集積したゴルジ体等が細胞核を密集して取り囲むほど高くなる。
2. DSB生成効率について
1粒子当たりのDSB生成効率は2.3~3.0[DSB/Gy/Gbp]であった。培地から放出されたβ線・内部転換電子によるDSB生成効率は、細胞質から放出されたβ線・内部転換電子と比べて、非常に低かった。complex DSB(3つ以上の一本鎖切断からなるDSB)に対するsimple DSB(2つの一本鎖切断からなる)の割合は79.7%~92.2%であった。
3. 細胞核へのエネルギー付与について
細胞内の線源位置の違いや線種の違いは細胞核への入射エネルギースペクトルに大きな影響は与えなかった。一方で、細胞核のサイズは通過する電子の飛程長が変わるため、細胞核内のエネルギー付与分布に大きな違いを引き起こす。特に培地から発生する電子は、細胞内に線源がある場合と比べて低エネルギー側にスペクトルがシフトしており、DSB生成効率を低下に影響する。
4. シミュレーションと実験結果の比較について
177Lu-DOTATATE 2.5 MBq/mlの場合、シミュレーションが細胞核当たりのDSB生成効率が7~24 個(平均14 個)、実験値2~30 個(平均13 個)であった。DSBは主にβ線により誘導される。177Luがゴルジ体又は細胞質に内在化されると仮定すると、平均比エネルギーとDSB生成効率[DSB/mGy/cell]はそれぞれ0.014、0.017で(R2=1)、177Lu-DOTATATE 治療を受けている患者の血液を、γ-H2AX と 53BP1 によって定量した吸収線量と DSB生成効率 の関係(0.0127 DSB/mGy/cell)[1]と同程度であった。
【まとめ】
本研究では、標的アイソトープ治療後の生物学的応答の相関を調査できるようにするため、古典的なマイクロドジメトリのアプローチを打開することの重要性を強調している。今回開発したフレームワークで計算した結果は、実験データと良い一致がみられ、177Lu-DOTATATE照射後の比エネルギーと細胞当たりの平均DSB数との間には明確な相関があることを示した。今後サンプルの三次元化や血行動態などを導入したin vivo 腫瘍モデルへのモデル拡張が期待される。
[1] Eberlein U, Peper M, Fernández M, Lassmann M, Scherthan H. Calibration of the γ-H2AX DNA double strand break focus assay for internal radiation exposure of blood lymphocytes. PLoS one, 10(4): e0123174, 2015