BTN3A1はULK-1を介したオートファジーにより食道扁平上皮がんの進行と放射線抵抗性を促進する
論文標題 | BTN3A1 promotes tumor progression and radiation resistance in esophageal squamous cell carcinoma by regulating ULK1-mediated autophagy |
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著者 | Yang W, Cheng B, Chen P, Sun X, Wen Z, Cheng Y |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Cell Death Dis, 13(11): 984, 2022 |
キーワード | ENB3A1 , Esophageal squamous cell carcinoma , Autophagy , Radiation resistance , Hypoxia |
【背景・目的】
全世界で毎年約51万人もの食道がん患者が亡くなっており、食道扁平上皮がん(ESCC)は食道がんの中でも約90%を占め、生存率の低さが問題となっている。National Comprehensive Cancer Networkガイドラインにより、食道がんでは放射線治療が適応されるが、放射線治療によるESCCの根治率は15-16%とかなり低く、ESCCの放射線抵抗性メカニズムの解明は急務を要する。
Human butyrophilin subfamily 3 member A(BTN3A)はCD277として知られ、B7共刺激タンパク質と構造的に相関性をもつ。BTN3A1、BTN3A2、BTN3A3の3つのアイソフォームが存在し、免疫グロブリンの可変ドメインと定常ドメインが共通ドメインとして保存されている。BTN3A1に関しては、γδT細胞において細胞内B30.2ドメインが活性化プロセスに関与することが報告されている。また、BTN3A1は卵巣がんや膀胱がんなど様々な固形腫瘍での高発現が報告されるが、BTN3A1の機能の全体像は不明である。本論文では、ESCC患者の腫瘍組織においてBTN3A1の発現が増加することを明らかにし、BTN3A1のESCCにおける細胞増殖や放射線抵抗性への関与、またBTN3A1の発現制御機構について検討した。
【主な結果】
1.BTN3A1の増加はESCC患者の予後不良と関連する
放射線治療を受けた118人のESCC患者からサンプルを回収し、腫瘍内のBTN3A1の発現を解析した。BTN3A1は正常細胞に比べ腫瘍組織内において発現が増加していた。BTN3A1高発現群においてリンパ節転移(T stage)、腫瘍浸潤(N stage)、さらに再発と遠隔転移に関して有意に増加していた。また、BTN3A1高発現群では生存期間が短縮した。加えて、放射線治療を受けていない患者のサンプルにおいても同様の結果を示した。これらの結果よりBTN3A1発現の亢進はESCC患者の予後不良と関連することが示唆された。
2.BTN3A1はESCC細胞の増殖および放射線抵抗性を促進させる
ESCCにおけるBTN3A1の機能を検討するために、ESCC細胞株であるKYSE150とECA109においてBTN3A1過剰発現株を作出した。BTN3A1の過剰発現はESCC細胞株の細胞増殖、DNA複製、コロニー形成能および細胞浸潤能を亢進させた。続いて、放射線照射におけるBTN3A1の機能について検討するためにESCC細胞株に放射線を照射した。放射線照射によりBTN3A1の発現は線量依存的に増加し、BTN3A1欠損においてDNA損傷の亢進、細胞増殖の抑制が観察された。さらにBTN3A1欠損ESCC細胞を用いて異種移植マウスモデルを作製し、腫瘍部位に放射線照射を行うことで、生体内での放射線感受性におけるBTN3A1の機能について検討した。放射線照射による腫瘍成長の抑制は、BTN3A欠損ESCCにおいて顕著に観察された。これらの結果からBTN3A1欠損はESCC細胞株の放射線感受性を亢進させること、またBTN3A1阻害はESCC患者の放射線治療効果を高める可能性が示唆された。
3.BTN3A1はオートファジーを活性化することにより放射線抵抗性を促進させる
BTN3A1の細胞死に関するメカニズムを検討するためBTN3A1欠損により変化する細胞死経路を解析した。BTN3A1に対するshRNAにより35種類の遺伝子において著しい変化があり、その中でも筆者らはULK-1を最も関連性の高い遺伝子として同定した。また、BTN3A1欠損はオートファジーに関連するタンパク質であるULK-1およびLC3BII/LC3BIの発現を減少、またp62の発現を増加させた。そこでBTN3A1の放射線により誘導されるオートファジーにおける機能を解析した。BTN3A1欠損は放射線照射によりULK-1の増加を抑制し、またオートファゴソーム形成を抑制するなどオートファジーの活性を抑制した。さらに筆者らはECSS細胞株においてオートファジーは放射線抵抗性を亢進させることを示し、BTN3A1欠損はその亢進を抑制した。これらの結果からBTN3A1欠損はオートファジーを抑制することで、放射線感受性を向上させることが示唆された。
4.BTN3A1はULK-1を介してオートファジーを引き起こす
BTN3A1がオートファジーに関与するメカニズムを検討するため、The Cancer Genome Atlas ProgramとGene Expression Omnibusの各データベースに登録されたESCC患者の遺伝子発現を解析したところ、BTN3A1とULK-1の発現量に相関関係が見出された。ESCC細胞株においてULK-1はBTN3A1と共発現しており、共免沈法によりBTN3A1とULK-1が共沈した。また、BTN3A1の過剰発現はULK-1のSer555のリン酸化を亢進させ、ULK-1の活性も促進させることが示唆された。またULK阻害剤は、BTN3A1過剰発現によるULK-1の活性化とオートファジーの亢進を抑制し、ULK-1活性化剤はBTN3A欠損によるULK不活化とオートファジーの低下を抑制した。以上からBTN3A1はULK-1と相互作用し、ULK-1を活性化することによりオートファジーを促進することが示唆された。
5.放射線はHIF-1αを介しBTN3A1の発現を増加させる
ESCC細胞株における放射線照射後のHIF-1αの発現を解析すると、BTN3A1の発現とともに有意に増加した。また、低分子化合物およびノックダウンによるHIF-1α阻害は放射線照射により誘導されるBTN3A1発現を抑制したが、BTN3A1欠損ECSS細胞は照射後のHIF-1αの発現は変化させなかった。そこでBTN3A1が直接的にHIF-1αに制御されるかを検討するためにBTN3A1のプロモーター領域においてHIF-1αが結合すると予測される5つの低酸素応答配列(HRE)をChIP assayにより解析すると2箇所のHREにおいてHIF-1αの結合が検出された。さらにレポーターアッセイにおいても同様の結果が確認された。これらの結果からHIF-1αの増加がBTN3A1発現を誘導することが示唆された。
【まとめ】
本紹介論文ではBTN3A1がESCCの進行を促進させること、またBTN3A1がULK-1と相互作用しオートファジーを制御することにより放射線抵抗性を亢進することが示された。
さらにBTN3A1は放射線照射により増加するHIF-1αを介して誘導されることが示された。
これらのことからBTN3A1がESCC患者の放射線治療と併用可能な新しい治療標的になる可能性を持つこと、さらにBTN3A1がESCC患者に対する治療法選択のバイオマーカーになり得ることが示唆された。