現在および将来の臨床試験を想定した、マウス腫瘍モデルにおけるヒトEGFRを標的とした近赤外光免疫療法
論文標題 | Near-infrared photoimmunotherapy targeting human-EGFR in a mouse tumor model simulating current and future clinical trials |
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著者 | Okada R, Furusawa A, Vermeer DW, Inagaki F, Wakiyama H, Kato T, Nagaya T, Choyke PL, Spanos WC, Allen CT, Kobayashi H |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
eBioMedicine, 67: 103345, 2021 |
キーワード | Near-infrared photoimmunotherapy , human Epidermal growth factor receptor , Regulatory T cell , Tumor microenvironments , mEERL cells |
【背景・目的】
光免疫療法(NIR-PIT)は、標的因子に対する抗体に光吸収剤を結合させたAPC(antibody-photoabsorber-conjugate)を腫瘍に取り込ませた後、近赤外光を照射することで急速に細胞死を誘導することができる新規がん治療法である。NIR-PITでは光吸収剤として水溶性のフタロシアニン化合物であるIR700が用いられ、ヒト上皮増殖因子受容体(hEGFR)を標的としたNIR-PITはhEGFR発現腫瘍細胞において細胞死を誘導し、その効果はヌードマウス皮下移植腫瘍モデルにおいても示されている。また、NIR-PITは腫瘍微小環境内の細胞を標的にすることも可能であり、例えばCD25を標的としたNIR-PITでは腫瘍内の制御性T細胞(Treg細胞)を選択的に枯渇させることができると考えられる。本研究では、新たに樹立したhEGFR発現マウス中咽頭細胞株を用い、hEGFRとCD25の両因子を標的としたNIR-PITの併用効果を評価した。
【結果】
C57BL/6マウス由来中咽頭上皮細胞にHPV 16 E6/E7およびhRASを導入することでmEERL-WT細胞を樹立し、さらにhEGFRを導入することでmEERL-hEGFR細胞を作製した。また、hEGFRを標的とした抗体であるpanitumumabとIR700を結合させたpan-IR700を用い、mEERL-hEGFR細胞において、pan-IR700によるNIR-PIT(pan-PIT)の効果を顕微鏡的に評価したところ、照射後に細胞の膨潤、突起の形成、細胞膜の破裂が認められた。また、pan-PITによる殺細胞効果をPI染色にて評価したところ、mEERL-hEGFR細胞では、光量依存的に死細胞の割合が増加したが、mEERL-WT細胞では光量依存的な視細胞の増加は認められなかった。さらに、mEERL-hEGFR細胞由来のマウス皮下移植腫瘍内の細胞におけるhEGFR発現について解析したところ、mEERL-hEGFR細胞を含むCD31-CD45-細胞のみがhEGFR発現を示し、CD31+CD45-内皮細胞やCD45+造血細胞には発現は認められなかった。この結果は、pan-PITがmEERL-hEGFR細胞を選択的に殺傷することを示唆している。
次に、CD25を標的としたNIR-PIT(CD25-PIT)がどのような免疫細胞集団に効果を示すかを評価するために、mEERL-hEGFR細胞由来のマウス皮下移植腫瘍における免疫細胞のCD25発現について検討した。その結果、NK細胞やCD8陽性T細胞、CD4+Foxp3- T細胞と比較して, CD4+Foxp3+ Treg細胞はCD25を有意に高発現していることが示された点からも、CD25はmEERL-hEGFR細胞では発現していないため、CD25-PITはTreg細胞を選択的に殺傷し得ることが示唆された。さらに、腫瘍増殖への効果について無治療群、pan-PIT群、CD25-PIT群、combined PIT群(pan-PITとCD25-PITを併用)間で比較実験したところ、いずれのNIR-PIT群も有意に腫瘍増殖を抑制し、生存期間を延長させたが、combined PIT群が最も効果的であった。また、pan-PIT群およびcombined PIT群では、いずれもがん細胞の腫脹や空胞化といった組織学的変化が認められたが、CD25-PIT群では明らかな変化は見られなかった。加えて、CD25-PITおよびcombined PITが腫瘍微小環境内のTregを破壊しているかを評価するため、照射1時間後に腫瘍内のT細胞集団をフローサイトメトリーにて解析したところ、強い抗腫瘍免疫応答の指標として知られるCD4+non-Treg/Treg比およびCD8+/Treg比が増加していた。興味深いことに、このTreg減少の傾向は光を照射していない脾臓では見られなかった。さらに、マウス背部の左右にmEERL-hEGFR細胞を皮下移植し、pan-IR700およびanti-CD25-IR700を投与後、右側のみに光照射を行うと、照射された腫瘍のみではなく、対側の腫瘍増殖も抑制され、combined PITはアブスコパル効果を誘導することが示唆された。
腫瘍におけるCD8+細胞の浸潤は抗免疫反応の重要な指標である。NIR-PIT 1週間後に腫瘍組織をマルチプレックス免疫組織化学染色し、CD8+、CD4+Foxp3-、CD4+Foxp3+の各細胞数を測定したところ、CD8+細胞はCD25-PIT群およびcombined PIT群で無治療群と比べて有意に高い密度を示し、CD8+/Treg比も高くなっていた。また、所属リンパ節でのCD8+細胞の分化を評価するため、NIR-PIT1週間後の鼠径リンパ節を摘出し、フローサイトメトリーにて解析したところ、全てのPIT群で、無治療群よりセントラルメモリーT細胞(TCM)の割合が有意に高く、CD25-PIT群およびcombined PIT群のTCMの割合はpan-PIT群に比べて有意に高かった。この結果は、CD25-PITが腫瘍流入リンパ節におけるCD8+T細胞をメモリーT細胞に分化誘導することを示唆している。さらに、増殖したCD8+細胞が腫瘍関連抗原を認識するかを評価するために、各NIR-PIT1週間後に両側鼠径リンパ節を採取しフローサイトメトリーにて解析したところ、CD45+細胞に占めるCD8+T細胞の割合は他の3群と比べて、combined PIT群で有意に高かった。また、mEERL-hEGFR細胞はレトロウイルスを用いてHPV 16 E7が導入されたので、E7またはレトロウイルスタンパク質であるp15Eテトラマーを用いて腫瘍特異性を評価した。無治療群ではE7テトラマーに結合するCD8+T細胞は少なく、CD25-PIT群でもその割合は増加しなかった。しかし、pan-PIT群ではE7結合T細胞が有意に増加し、combined-PIT群ではさらに増加した。この結果は、hEGFR標的NIR-PITが宿主免疫系による腫瘍関連抗原の認識を促し、Treg標的NIR-PITとの組み合わせによりその働きは強化されることを示唆している。
【まとめ】
本研究では、hEGFRを標的とするNIR-PITとCD25を標的とするNIR-PITをそれぞれ単独使用するよりも、2つを併用することによって腫瘍増殖抑制効果が最も強く得られることを見出した。元来、光免疫療法はその名が示すように、がん細胞を直接破壊するのみでなく、壊れたがん細胞内のがん抗原によって免疫系を活性化させることも特徴である。本研究により、この機構による免疫系の活性化に加えて、免疫抑制性に機能するTreg細胞を標的にしたNIR-PITによりTreg細胞を選択的に殺傷することで本来の抗腫瘍免疫応答を誘導することが示され、hEGFRとCD25を標的としたNIR-PITは、Treg細胞が免疫抑制性な役割を示す、hEGFR発現腫瘍に対して有望な治療法である可能性を示唆している。
また、NIR-PITは標的因子を変えることにより様々な細胞を標的にして殺傷することができる。この特性を活かし、放射線や化学療法に抵抗性を示す細胞における特有のマーカーを解明することで、治療抵抗性細胞を標的としたNIR-PITを併用し、従来のがん治療を増感させる新たな治療戦略の構築も可能となるかもしれない。NIR-PITはまだまだ発展途上の治療法ではあるものの、今後のさらなる研究によりNIR-PITが新たながん治療戦略の基盤となることが期待される。